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水緒の答えは仁の予想していたものだった。神様と言われて、いきなり納得できるものではないが、そう言われて四人を見回してみると、神々しい気がしてくる。
「あまり驚いていないな?天の神様だぞ、私は。尊敬していいんだぞ?というか、しろ」
……遥か天空からの物言いと、暴力的なまでの我侭さ。ある意味神様だったら納得だよ
仁は心の中で思った。口に出さなかったのは少し学習したらしい。
「その目は失礼な事を考えている目だな?」
「そ、そんな事はないですよ」
「・・・・・・・・・・・・」
鞘火が無言で仁を睨みつけてきた。仁は思わず目を逸らしてしまう。鞘火はニヤリと笑って仁に畳み掛けようとするが、所長が待ったをかける。
「おいおい、鞘火。仁君で遊ぶのは後にしてくれよ。大事な話の途中だぞ?」
「それは、後からならいいと言っているようなものですよね・・・・・・」
全然助け舟になっていない所長の言葉に仁は肩を落とす。しかし、このままこの人たちのペースに巻き込まれてはいけないと、顔を上げて鍔木に問いかけた。
「『ご主人様』発言の意味はわかりましたが、何故俺なんでしょうか?」
仁に問いかけられた鍔木は他の3人と顔を合わせて頷き合う。
「当然の疑問かと思います。私達が仁殿をお誘いする理由は、大きく3つあります。1つは最初から述べているように、仁殿が大きな霊力を持たれているという事です」
「そのせいで変な鬼に狙われているんですけどね。あまり嬉しくないです」
「霊力が大きくてはいけない理由として、憑神を扱うのに霊力は必須です。また、憑神は主人の霊力を糧として力を発揮しますので、今の私達は極端に力を制限された状態にあります」
鍔木は仁のぼやきをあっさりとスルーして説明を続けた。
「私達は神の力を宿していますが、あくまでそれは神の力を持つ式神としてです。式は使われてこそ力を発揮します」
「神様を使うって・・・・・・なんだか畏れ多いですね」
「慣れればどうという事はありません。それに、主人になれば自動的に私達がボディーガードになれますよ?悪い話ではないかと思います」
それは身を守る術を持たない仁にとってはとても魅力的な提案だった。
「2つ目の理由なのですが。これは単純です。私達が気に入るか気に入らないか。気に入らない人物に力を貸したくありません」
「本当に単純ですね・・・・・・・自分は気に入っていただけた、という事でしょうか?」
「少なくとも、鞘火さんと水緒さんは気に入っているようですよ?」
「嬉しいだろ?」
鞘火が仁を見てニヤリとし
「仁様と働ける事を楽しみにしているのですがなぁ」
水緒はニコヤカに笑っている。二人の笑顔に仁は悪い予感しかしないが、嫌われているよりはマシかと割り切る。
「私はまだ様子見、というところでしょうか」
鍔木はとても正直だ。
「俺は飄鬼との戦いの時に最後まで諦めなかった仁君を評価しているぞ?」
励ますように所長が言う。
「あ、ありがとうございます」
所長の言葉に、少し救われた気がする仁であった。
「そして、3つ目が霊媒体質です」
「霊媒体質・・・・・ですか?」
「降霊術などともいいますね。恐山のイタコのような能力と思っていただければ」
恐山のイタコの能力は有名だ。仁も聞いたことがある。
「霊界から死んだ人の霊を呼び寄せて、自分にとりつかせるというやつですか?自分にそんな力があるんですか?」
「えぇ、しかも激レアです。才能には個人差がありますが、男性で霊媒体質を持つ者は極めて希であり、その能力が男性に発現した場合はかなり強い力を持つ事が知られています」
鍔木は一旦言葉を切り、眼鏡を上げて仁を力強く見つめた。
「『天神五大元神剣』に宿る神の力を行使するには、その身に憑依させるのが一番です。その為の霊媒体質。鞘火さんが仁殿に才能がある、と言っていたのはこの能力を指しています」
「そうだったんですか・・・・・・・」
「霊媒体質にもレベルがあります。詳しく試してみないことには分かりませんが、仁殿の霊媒能力は神を降ろしても大丈夫なレベルにあるように思います。この高いレベルの霊媒体質を持っていたので大きな霊力を有するに至ったのではないかと考えられます」
「どういうことでしょうか?」
「霊媒体質は先天的なものだと思います。この体質のせいで幼い頃から自然と霊力が体に流れ込んできたのでしょう。霊力は自然からも発しておりますので。しかし、仁殿には流れ込んでくる霊力をコントールする術を持たなかった」
「・・・・・・そうなるとどうなるんでしょうか?」
「許容量を越える霊力が体に入ってきている内に、体がその許容量を受け止めるために自然と霊力を蓄える器も大きくしていった。仁殿は無意識のうちに幼い頃からずっと大きい霊力を受け止められるように特訓をしていたという事です。また、その大きな器には使うことのない霊力が溜まっている」
「・・・・・・・イヤな体質だなぁ」
「私達からすれば素晴らしい才能ですよ。主人がいない私達は、自然から出る霊力を補充しておりますが、効率が悪いので霊力を供給していただける主人を欲しているというのが現状です。以上、3点が仁殿をスカウトする大きな理由です。ご納得頂けたでしょうか?」
「話は分かりました」
話を締めくくるようにして、鍔木が初めてお茶を啜った。話に区切りがついたと見た水緒が口を開く。
「今上げた3つの点をそれぞれ満たす者はいますが、同時に満たす者は中々おりません。というか、ここ100年くらいはいませんね・・・・・・どうされました?」
水緒の話を聞き流しながら、仁は天井を見上げてボンヤリしている。
「すいません、なんだか情報量が多すぎて頭がパンクしそうです・・・・・」
「ハッハッハ、そうだな。いきなりあれこれ説明されても自分の中で整理するのには時間が必要だろう。メシでもどうだ?」
「ホッホ、そうですな。三日も寝ていたのです。腹も空いたのではありませんか?ここは水緒が腕を振るいましょう」
「いきなり決断できることではないでしょう。今は夜ですから、先程の部屋で休んでいただいて構いません。一晩、ゆっくりと考えいただくというのはいかがでしょう?命の危険もあったことですし、気持ちの整理も必要でしょう」
「取り敢えず、仕事の話は終了だ。食って寝て、ゆっくり考えてくれ」
仁は鍔木の言葉に甘えることにした。実際、体の調子は悪かったし、聞いた話を少し考えたいと思ったからだ。食事をご馳走になることにした。
そして、久し振りに誰かと食べる食事はとても美味しかった。




