表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦う浪人生の育て方~20時間勉強と修行ができますか?~  作者: 久木 光弘
俺、ご主人様?
16/35

4-3

着替えを済ませた仁を、二人は応接間に案内した。先程まで仁がいた部屋は同じ階にあったようで、応接室は近くにあり移動にはそれ程時間はかからなかった。応接室では前に仁が座らされたソファに、二人の男女が座ってお茶を啜っていた。

「遅かったな」

 そう声をかけてきたのは、男のほうだ。

「悪かったな。少年の着替えが長くてね、私も待っていたのだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 すました顔をして言う鞘火。言いたいことは多分にあったが、仁は口を閉ざしていた。それ程長い時間の付き合いではないが、ここで口をひらけばまた拳骨を落とされるような気がしたからだ。対する鞘火は、そんな仁の反応をつまなさそうに見ていた。

「・・・・・・・また、鞘火さんの悪い癖がでたようですね?今から自己紹介を行うというのに警戒させてどうするのですか?」

 今度は、女性の方が声をかけてきた。仁が声をかけてきた女性に目を向ける。そこには長い黒髪の男と、眼鏡をかけた女性がいた。

 仁がこちらに注意を向けたことに気がついた二人は、ソファから立ち上がり、仁に近づいてくる。

「初めまして、鍔木と申します。ここの事務・経理全般を担当しております」

「俺はここの事務所の所長をしている者だ。所長と呼んでくれ」

「あっ、ハイ。早馬 仁です。よろしくお願いします」

 二人は仁に握手を求めてきた。仁は二人と順番に握手を行い、自分も名前だけ名乗った。握手の時に、二人共に探るような目付きで全身を見られたが、すぐに納得したように二人で肯きあう。

 所長と名乗った男が部屋の奥にあるデスクに腰掛ける。鍔木は座った所長の後ろに立った。

「そう緊張しないで、腰掛けてくれ。お茶でもどうだ?水緒、頼む」

「ハァ、ありがとうございます」

 所長は立ったままでいる仁にソファで座るように促した。鞘火は先に座っており、水緒はいつの間にか消えていた。

「さて・・・・・・・・」

 所長は、大きな机に肘をつき、仁に話しかけてきた。

「早馬 仁君。色々聞きたいことがあると思うが、まずは私達から説明させて欲しい。その中に君の疑問の答えがあるだろう。いいかな?」

「は、はい」

「ふん、真面目な口調は似合わんな」

「鞘火さん・・・・・・」

 空気を読まない鞘火の発言に、鍔木が鋭い視線を飛ばす。鞘火は鍔木の視線から目をそらし、組んだ足を前後させてつまらなそうに口を尖らせた。そんな二人の様子を所長は苦笑いをして見ている。

「まぁ、うちの事務所はいつもこんな調子でね。仁君も・・・・・そう呼ばせてもらっていいかな?硬くならずに楽にしてくれ。少し長い話になるからな」

「ホホ、所長の言われる通りです、仁様。お茶でも飲まれて気を落ち着けて下され」

「あっ、ありがとうございます」

 いつの間にかお茶を用意して戻ってきていた水緒が仁にお茶を差し出す。我知らず肩に力が入っていたのだろう、仁は熱いお茶を一口すすって肩の力を抜いた。

 仁の力が抜けたのを確認し、所長が説明を始めようとした。

「さて、本題になのだが・・・・・」

「所長はすぐに話が脱線しますので、代わって私が説明をさせていただきます」

後ろで控えていた鍔木が所長の言葉に被せるようにして、眼鏡を上げながら口を開く。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 所長は呆れた顔をして鍔木の顔を見上げ、仁は開いた口がふさがらない。

「質問がある場合には話の最後にまとめて承ります」

 二人からの呆れ顔を涼しい顔でスルーして、鍔木は話を続ける。

「最初にお聞きしたいのですが、仁殿は妖怪・幽霊の類を信じる方ですか?それとも、その様なものはいないと考えられていますか?」

「信じたくなかった、というのが本音です・・・・・・・昨日の件がなければ」

「先日の件とは別に、色々あったご様子ですね・・・・それは、おいおい聞かせていただきましょう。現実に邪鬼妖仙は実在します。昨日の鬼は少し特殊な部類に入りますが」

 鍔木は困ったものだ、という風に頭を振りながら続ける

「人に仇なすもの、それが昨日の鬼のような存在です。勿論、無害なものも存在しますが・・・・・我が『神威探偵事務所』はそのような邪鬼妖仙の退治、霊障等を祓う事を専門にしており、別件で仁殿が襲われた現場の近くを警邏しておりました。その途中で、仁殿が襲われた現場に駆けつけた、という次第です。また、その件に関してなのですが・・・・・」

 鍔木は自分の手に持っていた書類に目を落とす。

「仁殿を襲った鬼は『飄鬼』と名乗っておりました。残念ながら逃亡を許してしまいましたが、手傷は負わせております。戦闘中やその前の会話から、飄鬼が仁殿を狙った理由として考えられるのは・・・・・・」

 鍔木は一度言葉を切り、目線を上げて仁を見た。

「仁殿が持つ類まれな『霊力』と思われます。鞘火さんが目を付けたとおり、仁殿が大きな力を持っているのは間違いありません。仁殿はその力に対して、無自覚な上に力の制御方法もご存知でないご様子。次に狙われたら命の保証はできかねますね。今回はたまたま私達が近くにいて助けが間に合ったに過ぎません」

「トドメをうける寸前で、俺が間に合ったんだ。タイミング的には結構ギリギリだったな」

 鍔木の説明に所長が口を挟んできた。そこまで聞いて、仁は気を失う前に聞いた声の事を完全に思い出した。

「あっ、あの時の・・・・・本当にありがとうございました。全然動けなくて、もう終わりだと思ったんで」

「命の恩人ってやつだな。感謝しろよ?」

 そこまで思い出して、仁は鞘火の方に目を向けた。

「あれ、助けたのは私だって言っていませんでしか?」

「少年が気を失っている間に鬼を撃退したのは私だぞ?間違っていないだろうが」

「鞘火が闘っている間に仁殿の身を守っていたのは私です」

 ちゃっかりと自分の事をアピールする鍔木。

「もしかして・・・・・・ここに連れてきてくれて、治療をしてくれたのも」

 仁がそこまで言うと、所長が自分を指さしながら

「ここまで仁君を運んだのは俺だぞ?」

「治療をしたのは水緒ですぞ?」

「治療の時に服を脱がせてやったぞ?」

「それはただのセクハラ行為でしょう!テンポよく言ったって流しませんからね!」

「う、うるさいな、少年は!ちょっと見栄をはっただけではないか!フンだ」

「フンだって・・・・・子供みたいな」

 鞘火はソファの上で膝を抱えて拗ねてしまった。見た目とはかなりギャップのある拗ね方に、仁は鞘火を責める気持ちが失せてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ