おばあちゃんの食堂
10分くらい森を歩くと、それはあった。
木造建てでかなり古びてて、築100年はありそうな食堂。
入り口の上に設置されてる古木の板には、
達筆な字で大きく「食堂・本条」と書かれていた。
お婆ちゃんは手持ちの鍵で扉を開けると、中に入っていった。
「あ、待ってお婆ちゃん!置いてかないで!!」
お婆ちゃんの後をとてとてとついて行く。鶏の後ろを歩くひよこみたいに。
きょろきょろ辺りを見廻す。
食堂内には5個の長机があった。お客が座る用だろう。
それを通り抜けて、台所に着いた。
お婆ちゃんは慣れた手付きで炊飯器を扱い出す。
「あ、あの。お婆ちゃん…」
「結子、棚下に米がはいってる。3合洗ってくれ。」
「……。
さっき家でおにぎりつくらなかった?」
「あんなんじゃ足りんにきまっとる。爺さん婆さんの食欲をなめんなよ!」
そう言ってお婆ちゃんはカッカッカと笑った。
「……。」
私はざらざらとお米を計量カップに入れた。
✴ ✴ ✴
それからは昼まで掃除をしたり、お婆ちゃんに料理を教えて貰ったりして過ごした。
お昼頃になると、食堂には畑作業を終えたお爺さん達が集まった。お婆ちゃんが小銭を受け取り、私がラップに包まれたおにぎりを手渡しで配る。
お爺さん達は、「結子ちゃん今日もお手伝いか、偉いなぁ。」といって皺だらけの手で頭を撫でてくれた。
村のお爺さん達の私に対する自然な反応を見て、やっぱ夢だなと思った。
✴
夕方になり、烏がカーカーと何処で鳴き出した。
烏は山に7つの子がいるという歌があったが、ホントにいるのだろうか。
多分、これから食堂が開のだろう。
私はエプロンをつけ、よし。と意気込んだ。食べた分働こう!
「結子、疲れたから今日は食堂やめだ。」
「えっ。」
意気込む私にお婆ちゃんはそう伝えると、他のお婆さん達と最中(私も3つたべた)を食べながら世間話をし出してしまった。
(いいの!?もはやここ、食堂じゃなくておにぎり屋&お婆さん達の集会所なんだけど!?)
うーっと唸ってエプロンを外した。
(やる事がないなら、家に帰って勉強でもして過ごそう。)
「お婆ちゃん、私先に戻ってるよ。鍵ください。」
「…どこの鍵だ?」
もしゃもしゃと最中を食べながらお婆ちゃんが首を傾げる。
「?
家の鍵だけど…。」
「かけてないから大丈夫だ。」
「いいの!!?」
私が驚くと、「そんなの当たり前じゃない!」とお婆ちゃん達が最中片手にホホホと笑った。
(何処の世界の当たり前だろう…。)