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めがさめたら、田舎にいた。  作者: カモミール3世
3/42

ごはんがおいしい。

 




「うめか?」


「おいしいッ!」


私は『誘拐犯!』と叫んで暴れて逃げる事なく、

この見知らぬお婆さんと、座敷机を囲んで一緒に食事をする選択をした。空腹には勝てなかった。 


満面の笑顔で白米を咀嚼する。

(温かい白米なんて久しぶりにたべた…ほかほかで凄いおいしい…!)


次は、茄子の煮物に箸をのばす。

(柔らかい!甘辛くておいしい…!!)


さっきから「おいしい」としか言っていない。

けれど今の私にはそれしか言えない。味が濃くて、何を食べても美味しいのだ。


「昨日と同じご飯だろうに、そんながっついてたべんでも…よほどひもじかったんだなぁ」

お婆ちゃん味噌汁を啜りながらそう言った。



「あ、あの…」

「なんだ、結子?」


お婆ちゃんは会った時から、私を『結子』と呼ぶ。

私の名前は「倉田さち」。結子では無い…はず。


「結子ってわたしの名前…?」

「はぁ?」


「私はお婆さんの…」

「孫じゃ」


「お父さんとお母さんは…」

「あたしより先にお前がボケちまったのか?」


ボケる…。

もしかしたらこのお婆さん、

孫の結子さんが死んで、私を結子だと思いこんでさらってきた…みたいな世にも奇妙なでありそうな感じだったらめちゃめちゃに怖いな。

でも、嘘をついてるようには全く見えない。


「二人とも海外いってしばらくたつなぁ。

なんだ、恋しくなったか?」


「あ…………う、うん!そう!!!」

取り敢えずで、話を合わせる。


するとお婆さんは箸を置いて、部屋の箪笥の裏から、赤色のアルバムを取り出した。


(お父さんがお酒に使うから、

私もよく箪笥の裏に生活費隠してたなぁ…あのアホ親父が)


脳裏に父親の顔がよぎったが、すぐ消し去った。

折角のご飯が不味くなってしまう。




「ほれ」

ずっしりと重いアルバムを渡される。


アルバムを持ち上げ、ぺらぺらと目で流す。

沢山の写真が貼ってあった。

其処には、小さい頃から今にかけての私の成長が写真に取られてた。その顔は確かに私だった。


(そっくりさんとかじゃない。どういう事…?)


優しそうな父と母と私が笑顔でピースしてる写真もある。

優しそうだけど、全く知らない人だ。



「恋しくなったら写真を見なさい。

後はやく飯たべて勉強しろ。九時には電気けすからな。」


「は、はぁい。」



急いで食べた。米粒ひとつ残さず茶碗を空にして、私はアルバムを抱え、「ごちそうさま!」と言ってから階段に向かった。

わたしの部屋は二階らしい。


バタン。

部屋の扉を閉め、確信した。





     (これ、夢だわ。)

 



なるほどなるほど!

つまり私は酒を飲んで今父の横でぐーすか寝てるのだ!

人間は1秒間にもとても長い夢見る、と誰かに聞いた事がある。

きっと私は、倉田さちは今、夢を見ている最中なのだ。


(なんて、素敵な夢…!

田舎で食に困らず穏やかな日常を過ごせるなんて!)

    


私はそのままベットに横になり、紐をひっぱり電気を消した。

現実では、働いて疲れて帰っても、

明日が不安で眠れなかった。


でも今日は、穏やかな眠りにつけそうだと、思った。




 

            ✴






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