4話 回想3
『シェリカ。久しぶりだな。元気にしていたか?』
リオンがシェリカの護衛を始めてから二週間目の昼ごろ、リルはレオラスとともに、王城へやってきていた。
『叔父様。お久しぶりです。シェリカはこの通り元気ですわ。…ところで、うしろの方は?』
リルは、シェリカに品定めをされるような気持ちで、彼女の刺すような視線を受けた。敵意を隠そうともせず、リルをじっと睨みつけてくる。…初対面、のはずだった。
『あの、お初にお目にかかります。リルと申します』
ほとんど意に介さない口調で挨拶をするリルに、シェリルはもっと腹を立てたようだった。さっきよりも鋭く、リルを睨みつける。
『…リル。そう、リルというの。ここへは何をしに?』
リルは、困って首を傾げた。
『さあ』
レオラスにいきなり連れて来させられて、リルとしては本当にわからなかっただけなのだが、シェリカは馬鹿にされたように受け取ったようだった。
白い肌にさっと紅が差し、細い眉がつり上がる。
『さあ、ですって?あなた、私を馬鹿にしているの?どうせ庶民か貴族の末席なのでしょう?私に会えただけでも光栄に思うべきなのよ?つけ上がらないでちょうだい』
『あー、はい』
リルは、頷いた。下手に反論すれば、シェリカの機嫌をもっと損ねるであろうと予想したからだ。そもそも庶民であることは事実だし、庶民が王女に会える機会なんてそうそう無いのだから、確かに光栄なことではあるのだと思った。
その返事にシェリカが少し機嫌を直したのを見て、レオラスは話し出した。
『えーと、自己紹介も終わったみたいだし、本題に入るね。リオンのことなんだけど…』
『リオン様の…?』
シェリカが不思議そうにリルの方を見た。
シェリカは、リルがリオンと一緒に住んでいる事を知らなかった。
『リルはリオン様のなんなのですか?』
『あー、そっかーそっからかー』
レオラスが少し面倒くさそうに笑い、説明を始めた。
『…じゃあ、リルは、リオン様と一緒に、暮らして…?』
『そーゆーこと』
レオラスが答え、リルは隣で頷いた。
『…そう、なの、ですね…』
シェリカは俯き、震える声を絞り出した。と、いきなり顔を上げて、リルを睨みつける。
『では、あなたは私の恋敵ということでよろしくて?』
『……?』
『やー、ちょっと、シェリカ?』
ついていけない二人を置き去りに、シェリカは一人で燃えている。
『…まさか、恋敵がいたなんて…。っでも、私なら勝てる。リオン様を勝ち取って見せますっ』
『…まさかだけど、シェリカって、リオンに恋してるの?』
レオラスの恐る恐るの言葉に、シェリカは大きく頷いた。
『ええ。あ、お父様には秘密ですよ』
そういって恥じらうシェリカに、レオラスは天を仰いだ。
『ということでリル、これから私たちは恋敵よ。平民は嫌いだけど、リオン様が絡むなら話は別。せいぜい頑張りなさいな。ま、どうせ私が勝ちますけど。数年後、あなたは私たちの結婚式を指をくわえて見ることになるわ』
すると、今まで黙っていたリルは、ゆっくりと口を開いた。
『…シェリカ様、リオンと結婚するのですか?』
『え、ええそうよ?』
冷静なリルに、シェリカが少し気圧されたように頷く。
『無理だと思います』
リルが言うと、シェリカは眉根を寄せた。
『なぜよ。分からないでしょう?』
『あ、ちょ、ちょっと待って…』
リルが言おうとしていることを察したレオラスが止めようとするが、リルは大きな声で言い切った。
『だって、リオンはシェリカ様の叔父さんらしいですよ?この国では、親戚同士の結婚は禁止なんですよね?』
『…え?』
シェリカは驚きのあまり放心し、レオラスが頭を抱える中、リルは特に何の感慨もなく突っ立ていた。
それから、リオンが部屋に入ってきて、何故リルがいる、2人には一体何があったんだと騒ぎ、その場は一時解散となったのだった。