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無表情な小娘  作者: 影詩
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3話 回想2

窓から夏のギラギラした日差しが差し込む。リルが魔法使いリオンと一緒に暮らすようになってから、6ヶ月が過ぎようとしていた。


『リオン、行ってらっしゃい。おうじょでんかのゴキゲントリ、頑張ってね』


『…ああ…』


リルの言葉に、リオンは顔を引きつらせて頷いた。


その頃のリオンの仕事は、わがままし放題の王女シェリカの護衛、すなわち王女のご機嫌取りだった。


普通、護衛は騎士の役目のはずだが、前役の護衛騎士が我儘に耐えられなくなった丁度の時期に、王女がリオンを見初めたのである。そして、わがまま放題の王女は、甘やかし放題の国王に頼んだのだ。『魔法使いのリオンを、護衛に欲しい』と。


リオンの顔の造りは端整で、髪の毛で隠れがちな青白い顔にも、逆になんとも言えないかっこよさがあった。それが王女の目に留まったのだろう。


リオンはもちろん断ったが、彼には王族に、特に国王には逆らえない事情がある。


そういうわけで、リオンは国王の脅しの元、王女シェリカの護衛を務めることになったのだ。


それから約1週間が経ち、今、リオンの精神は早くも音をあげていた。毎日毎日新しいドレス選びや、装飾品選び、挙げ句の果てには恋人ごっこまで強要された。


自由気ままに生きてきたリオンにとっては、ものすごい苦行だった。


『…リオン、大丈夫?』


『ああ…一体いつまで続くんだか』


顔をしかめたリオンはいかにもなローブを着込むと、王城へと転移した。


リオンがいなくなり、リルは溜息を吐いた。


『リオン、疲れてるみたい。どうにかならないかな、おうじょでんか。』


俯いて、考え込む。

と、そこでドアのベルが鳴り、リルはパッと顔を上げた。

ベルが鳴ったのは、リルがこの家に来て初めてのことである。


恐る恐るドアに近づいたリルは、丁度開いたドアに押し潰されることになった。


『リオーン、来てやったよー。半年ぶりー。くたばってないかい?あれー留守なの…か……て、え?』


ようやく自分が開いたドアに圧迫されている少女を視界に入れ、その人は数秒間停止した。


『…どちら様?』


圧迫されたままリルが尋ねると、その人は慌てたように数歩下がった。その隙に、わずかに緩くなったドアの隙間から、するりと抜けだす。


『…君こそ誰だい?…まさか、リオンの恋人っ⁉︎リオン、そんな趣味が…』


『違う』


『じゃあなんだい?妹…のはずはないし、親戚の可能性はそもそもゼロだ』


ずい、と顔を近づけて来て尋ねる男。リルは首を傾げた。


『さあ』


『さあってなに、さあって?』


男がどんどんテンションを上げていき、リルは仕方なく説明を始めた。




『…じゃあ、君はリオンに拾われたの?』


『うん、そう』


『ヘえ、あのリオンがそんなことをねえ…』


説明を終えたリルは、今度は男の話を聞こうと向き直った。


『あなたはリオンとどういう関係なの?』


静かにそう問いかける。


『あーやっぱ聞くよねー。うーんと、これ、本当は言っちゃ駄目なんだけど…。うーん、リオンの所の子だし…いっか。…僕は、リオンの兄。レオラスです』


リルは、想定外の言葉に驚いた。が、顔をよく見てやがて納得した。全体の雰囲気はまるで違うが、似ているパーツはある。


『へえ、そうなんだ。納得した。でも、リオンは王城に出かけてていないよ』


『納得するんだ?…ああー、そっかー今はわがまま王女の相手かー。飽きないなー王女も』


リルの言葉に大して残念がること無く、レオラスはしみじみ頷いた。


『だね。王女、恋でもしてるのかな?』


リルもしみじみと返事を返すが、レオラスは驚いたように動きを止めた。よく止まる男である。


『誰が、誰に恋をしてるって?』


『え、王女が、リオンに』


なにか変かと言いたげにレオラスの顔を見るリルに、レオラスは首を振った。


『なに言ってるの。王女がリオンに恋をするなんて、あるわけないだろ?もしあっても、叶うわけない』


世間の常識のように、そう言い放つ。


『どうして?リオンにも拒否権があるとか、そういうこと?』


すると、レオラスはもっと面食らったような顔をした。


『え、なに、知らないの?…僕、王の弟だよ?…つまり、僕の弟のリオンもーー』


『は?』


それはすなわち、リオンが王弟ということ?

リルは、無表情の下、史上最大の驚きを受けていた。






『リオン様、おはようございますっ 今日は、庭で紅茶でも飲みませんか?』


万人受けする微笑を顔に貼り付けたリオンに、それを作り笑いだとは思っても見ないシェリカが飛びついた。リオンの仕事が幕を上げる。


『シェリカ様、私の仕事は護衛と定められております。お茶なら、ご友人をお呼びしたらいかがでしょう。』


リオンはやんわりと拒否したが、シェリカはイヤイヤと首を振った。


『嫌です。私は、リオン様と一緒にお茶したいのです。それでも駄目だと仰るなら、…お父様に…』


『…分かりました。では、少々お待ちください』


リオンが諦めたように頷き、シェリカが嬉しそうに笑う。そこまでがシェリカのわがままの一連の流れだった。


実のところ、嬉しそうに笑うシェリカは、リオンが王弟、すなわち自分の叔父だということは知らない。

リオンを見つめる彼女の目は、明らかに恋する乙女の目だった。



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