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7話 日向には影

「全くもう!彼女はなんなんですか!!!」


その夜、クロはベッドで意識を取り戻すとマグナに向かって激昂した。

普段であったら不敬罪に問われそうなので、彼に対してはそういった言動を控えていたがもう我慢の限界だった。

怒りに震える彼の顔は熟れたリンゴのように真っ赤に染まっており、対するマグナは慈愛に満ちたまるで菩薩のような表情を浮かべていた。

マグナはベッドにいるクロを一瞥すると紅茶を口に含み「すまないね」と謝罪した。


その爽やかな笑顔は余計に彼の怒りを助長させたが、これ以上の無礼は避けるべきと判断し必死にこらえた。


「すまないねって・・・謝罪なんて要りません。それよりも妹君の説得をして頂けませんか。このままだと授業もおこなえませんよ。私のことが嫌いなのは分かりますが多少は我慢して貰わないと・・・」

「いやあ・・・別に君のこと嫌ってなんかいないよ」

「はぁ?」


クロは苦虫とゴーヤと砂糖を同時に飲まされたような顔をした。


「いやいや、ありえませんよ。妹君は私のこと今までで一番駄目な教師つってたじゃないですか」

「その時はね。でも君はその後どうした?」

「・・・・ちょっとだけ怒りました」


激怒したクロは彼女に背後から飛び蹴りをくらわせた。

本来ならば不敬罪に問われるだろうが、その後逆切れした姫さまにボコボコにされるクロの姿があまりにも哀れだったため大きな問題にはならなかった。


「それだよ!」


マグナは鉛筆のように人差し指をぴんとのばした。


「今まで様々な教師がやってきて、色々な仕打ちを妹から受けてた。だがそれに怒りを露わにする者も注意しようとする者もいなかったよ。王族に注意なんてできる筈もないさ。元気の良い姫様ですね、なんて言って皆一様に愛想笑いを浮かべてたよ。無論、裏では罵詈雑言の嵐さ」


あの姫は乱暴者だが馬鹿者ではない。

自分の屋敷でどういった空気が蔓延っているのか察するのはそう難しくはないだろう。


「庭の裏、広間のスミ、使用人の部屋。あらゆる場所で妹の悪口は囁かれてたよ。それを妹はこっそり聞いてることも多かった」

「それは・・・幼い彼女には確かに辛かったでしょうね」


月並みな感想しか述べられない自身の国語力を恨んだ。


「ああ。だが君は今までの家庭教師とは違ったよ。陰口を叩かず妹に直接起怒り、注意するなんて普通じゃ考えられない。異常だよ異常」


そう言うと彼はクククと笑った。


「彼女は君に興味を持ってる、間違いなく気に入ってるよ」

「・・・そうなんでしょうか」

「ああ。言う事を聞かなかったり、悪戯を仕掛けたりするのは構ってほしいのさ」



「それらを考慮してもああいった問題行動は困りますよ。殿下から説得して貰えませんかね」



呆れたようにそう述べると、マグナの鉄仮面のような笑顔に少し、ほんの少しだけ亀裂がはしった。



「・・・説得なんて僕には無理だよ。妹をあんな風にしたのは他ならぬ僕だからね」


「え?それは一体・・・」

「いや・・・話し過ぎたね。おやすみ。妹とは仲良くしてくれると嬉しい」


尋ねようとするが、マグナは勢いよく立ち上がると扉を開けて出て行ってしまった。

あの時、一瞬浮かべたマグナの表情や先程の発言についてなど問い詰めたい事は山ほどあるが詮索しすぎてしまうのも危険だ。

取り敢えず今は知らぬが仏ということにしておこう。


部屋の灯りを消し、ベッドに潜り込むとクロはぽつりと呟いた。



「・・・・あの姫様も黙ってれば可愛いのにな。明日は少し優しくしてやろう」


おでこから鋭い痛みが走るのを感じ、クロは瞼を閉じた。



―――――





「・・・・えへへ、可愛いかぁ」





クロはまだ隣の部屋で姫様が先程の発言を聞いていたとは知らない。




知らぬが仏、よく言ったものである。

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