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6話 魔法には勝てなかったよ・・・

屋敷に家庭教師としてやって来てはや1週間。

今日は私の一日のおおまかな過ごし方を見てみようか。



私とサクラ・ウィルソンの関係は、冷戦中の米露をおもわせる有様だった。


家庭教師としてやってきたのに、彼女とまともな授業を行ったことは未だに一度も無い。

その反面、彼女と喧嘩をした回数は両手では収まりきらなかった。

もはや彼女との喧嘩は日課とも呼べるレベルであった。


朝、使用人用の部屋で起きたら私はすぐシャツとベスト、それにズボンを身にまとう。

それから彼女が襲撃してきた時に備えて、木刀を腰のベルトに挿す。

何気なくやっているけどこんな物騒な物、本来の家庭教師には絶対に必要ない。

あの傍若無人なお姫様に似てきてしまったような気がして、小さなため息が漏れた。


ベッドについた小さなシワをの直し、髪の寝癖を整えると、私は今日も暴力や疲労が待っているであろう現実への扉を開けた。


――――――


「おはようございます」


階段を下りると食堂にはもうこの屋敷の人が皆集まっていた。

ここの王族は教育が良かったのか、他人を身分が低いとか使用人だからとかいう理由で差別することは無かった。

なので朝食と夕食は使用人も主人も全員で集まって食べる習慣なのである。

テーブルには礼儀作法を教える先生、剣術を教える先生、それにメイドさんや執事さんなど10数名が着席していた。


私はあくびをかみ殺しながら朝の挨拶をすると、席に着いた。


「それでは全員そろったようだし頂こうかな」


そう言うと、いつも通りマグナが朝食の祈りをはじめる。



「天に召します我らが神よ。今日もこうして食事を与えてくださることに感謝いたします」


それに続いて皆がぼそぼそと同じ言葉を繰り返す。

これはこの世界に昔から根付いているヒース教という宗教の教えらしい。

まあ規模は前世におけるキリスト教くらいでかなりの信者がいる。

私は神様なんて微塵も信じてはいないが王子の手前無視することもできず、ぼそぼそと何か呟いてるふうにしてやりすごしている。


例の姫様は普段あんなにカロリーを無駄遣いしているくせに小食だ。

朝食も小さなパンと牛乳に少しばかりの野菜しか摂取しない。

あんな華奢な体からどうやって、あの馬鹿でかい声を出してるのは謎である。


使用人も王子もいるので、さすがに彼女も私に喧嘩を吹っかけてきたり暴言を吐くということはない。

朝は私の一日の中で、最も平和な時間であるといえよう。


――――—


午前10時頃から私の授業がはじまる・・・予定だ。

午後3時からは剣術があるので授業時間は精々3時間。

そんな短い間でいくつかの言語を覚えさせなければならないから、無駄な時間など一秒もない。

しかし今のところ彼女がまともに授業に来たことはなかった。


案の定、姫様の部屋に行くとそこはもぬけの殻だった。


「またかあの馬鹿姫!!」


屋敷の人々は王子も含めて私と姫様の追いかけっこは見慣れてきたようで、特に何か注意されることは無かった。


彼女が隠れている所は予想がつく。おそらく庭にある馬小屋のあたりのベンチだ。

発見した途端彼女は攻撃してくるのは目に見えてるので、木刀は常に手にしておくのは重要だ。



庭に行くと馬小屋の近くから、キラリと彼女の銀髪に反射した光が目に入った。


やっぱりか。


少しは隠れる場所を変えないのか、と思う。

まあこちらとしては楽で良いのだが、これではまるで見つけて貰うのが目的のようではないか。

彼女の近くに行くと私は大声で呼びかけた。


「ひ!め!さ!まあああああ!」


こちらも我慢の限界だ。

ここら辺で一度ビシっと叱ってやり、大人としての威厳を見せてやらねば。


「ふーん、今日は早かったわね!でもまだまだよ!」


そう言うと彼女は右手で握っていた砂を私の顔に投げつけた。

砂の粒が目に入り一瞬怯む。

それを彼女は見逃さない。


「とった!」


頭上めがけて勢い良く振り下ろされる木刀を私は目を瞑ったままよけた。

これまで一週間、何度も彼女と戦ってきたので攻撃パターンは読めている。

振り下ろした状態で無防備になった彼女の木刀を思い切り叩く。

ガンッ!!と鈍い音。

あまりの衝撃に彼女は木刀を手から落とした。



「弱いですねー姫様。剣術を習ってるんですから素人の私くらい倒してくださいよ」


勝者の余裕というやつか、気が大きくなった私は今まで受けた屈辱を少しはらそうと武器を失った彼女をねちねちと攻めた。

短気な彼女の事だ、きっと顔を真っ赤にして怒るだろうと思った・・・が。


彼女の顔からは余裕、そして勝利を確信しているのが見て取れた。


ぶつぶつと小さく呟くと、彼女は親指を立て、人差し指を私に目がけてピンとのばした。指鉄砲である。

何をしているのか、と嘲笑しようとしたその瞬間、彼女が叫んだ。


「死になさい!!アクアガン!!」


指先に集まった小さな水滴がもの凄い勢いで発射された。

その水滴は防御しようとした私の木刀を弾き、見事に頭に命中した。

それは脳震盪を起こすには十分な力を持っていたようで、私の膝はすぐに折れ、また地面に突っ伏すこととなった。




ま、魔法は反則でしょ・・・・・




消えつつある意識の中で、私は素直にそう思った。



12戦11敗1分



私の戦績がまた更新された。







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