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4話 馬鹿な女

異世界の国際情勢は前世のそれとは大きく異なる。

獣人族や魔族といった人間以外の種族が存在している時点で当然と言えば当然だが・・・・。

地球という概念は世間に存在しない。

この世界の陸地は前世の何十倍も広く、果てまで行くのには多大な時間を要する為研究しようとする人がいないからだ。

ただ海や湖は存在するらしいので、大まかな構造に変わりはない。


世界の領土の約4割は魔族とやらに支配されており、踏み込もうとする人間はいない。

勇者率いる小規模な部隊が攻め込んでいるようだが、未だに朗報らしい情報もはいってこないので進展はないと見てよいだろう。


残りの6割ほどの領土を支配してるのが主に獣人族、妖精族、人間族だ。

8つほどの国に分かれており、3つの小国と2つの中堅国、それに3帝国と呼ばれる軍事力や魔法技術の秀でた国がほとんどの領土を治めている。


そして私が住んでいるのがその三大国の中で最も広大な領土を持つシン帝国だ。

好戦的な現国王の手によって、ここ十数年で領土を3割も拡大し、世界最大の帝国となった。

些か国民が疲弊している感じは否めないが比較的、裕福な国であると言える。


私が今向かっている巨大な城には、その戦王とも呼ばれる国王の娘が住んでいるのである。


「しっかし・・・家庭教師かあ」


馬車の揺れに連動してズキリと胃が痛むのを感じた。


数日前の誕生日、父から渡された手紙には私が国王の娘の家庭教師に任命する旨がか記されていた。

どうやら神童の名は王家の中にも通っていたらしい。

父も母も名誉なことだと喜んでいたが・・・正直言って気が乗らない。


提示された給与も条件も破格のものであり、それに対して一切の不満は無い。

ただただ面倒臭いのだ。

人にものを教えるのは好きじゃないし、目上の人に媚を売るのも嫌いだ。

無論、かなりのお嬢様だから厳格な教育を受けた上品な人だとは思うが・・・嫌なものは嫌だ。


しかしこれも家族の為であり、魔法を使えない私の処世術でもある。

多少の不満は飲み込むしか無い。

ガタガタと揺れる馬車から外を眺め、私は静かに決心した。



――――――――



馬車に乗ってから2時間ほどが経過しただろうか、徐々に馬の速度が落ちてきた。

ようやく到着したらしい。

腰の痛みが限界に達そうとしていたのでちょうど良かった。

馬車を降りると、眼前には広大だがキチンと整備がなされた庭と、白く上品な豪邸が建っていた。

帝都の郊外にあるこの家は代々、王家の子供が住むと決まっている。

周囲には高い柵と、高度な結界が施されており選ばれた者しか入ることが叶わない堅牢な洋裁である。


ほぅ


あまりの荘厳さにため息が漏れた。

私の自宅も十分豪華だが、こちらは広さ、大きさ、優雅さの点において群を抜いている。

今日からここで住み込みで働くのかと思うと、少しばかり胸がうきうきした。


「いらっしゃい、よく来たね。長旅で疲れたろうに、取りあえず家に入ってくれたまえ」


「はっ。ありがとうございます」


巨大な門から執事を数人引き連れた、髪をオールバックに撫で付けた優男が出てきた。

満面の笑みで握手をするこの男が、現国王の長男にあたるマグナ・ウィルソンだ。

私は形式的に頭を下げるが、は「良いよそんなの」と礼儀について言及することは無かった。

どうやら悪い人間ではないようだ。

これなら彼の妹、つまり私の教え子になる奴も大丈夫だろう。

ほっと胸を撫で下ろす。

先程までの緊張は随分とやわらいでいた。


「大荷物だね。部屋まで運んでおこう」


そう言って彼が指を鳴らすと、周囲の執事が私の荷物を持っていく。


「ではさっそくうちに入ってくれ。妹に会わせたいんだ」


「はい。私なんぞでは力になれるか分かりかねますが・・・」


「神童が謙遜なんてしなくていいよ」


彼はニッコリと笑った。


「むしろ僕が心配なのは妹の方さ」


「殿下の妹君ならきっと立派な方でしょう」


「うーんと・・・まあ君とは1歳違いだ。少しワガママが妹だが仲良くしてくれると嬉しいよ」


一瞬、マグナの顔が曇ったような気がしたが・・・気のせいか?


「はい、それは勿論」


「今まで6人家庭教師を変えてきたんだ。君は続いてくれると嬉しいなあ」


そう言って彼は家の扉を開いた。



聞き捨てならない、台詞を残して。


「あの・・・それは一体ぃ!!」


発言の真意を訪ねようとしたその瞬間、頭に強い衝撃を受けて私は崩れ落ちた。




「まったくもう!!!なっさけないわね男のくせに!!何が神童よ!ただのガキじゃない!!!」



地に突っ伏す私の目の前には、銀髪の少女が片手に木刀を持ち仁王立ちしていた。

この頭の痛みは、恐らく彼女の振り下ろした木刀が原因だろう。


「えーっと・・・これが僕の妹のサクラ・ウィルソンだ。な、仲良くしてくれると嬉しい」




「・・・・・嫌です」





彼女の振り下ろした木刀がまた私の頭に直撃した。





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