11話 ラブストーリーは唐突に
「何やってんですか・・・」
「決まってるでしょ。私も帝都に行きたいのよ!」
私がため息をつきながらそう問うと、彼女はさも正しいことを言ってるかのように誇らしげに胸を張った。
幸い、運転手はこの事態に気づいていないようだ。
もし気づかれてしまったら私は勝手に姫を連れ出した罪人として処刑されてしまう。
「帰りましょう」
今ならまだ引き返せる。
私ももしかしたら多少注意を受けるかもしれないが、それは甘んじて受け入れよう。
処刑されるよりはマシだ。
「いやよ」
「駄目です」
「いやよ」
「・・・駄目ですってば」
「いやって言ってるでしょ!・・・私が来るのがそんなにいやなの?」
彼女のこうした表情に私は弱い。
怒気のこもった口調ならば私も何か言い返せるのだが、涙目のまま上目遣いで懇願されると言葉が出てこなくなる。
こうした際の適切な対応を前世で学ぶべきだったな・・・。
依然としてサクラは涙目のまま私を見つめている。
・・・ここでNOと言えるほど私は冷たくないし、勇敢でもない。
「いやじゃありませんよ・・・」
「そう!?そうね、そうよね!」
まあ嫌ですけどね、と喉の先まで出かけた言葉を唾液と共に飲み込んだ。
「でもバレたら私が怒られるんですよ、どうせ抜け出してきたんでしょう?」
そう言うと彼女はバツが悪そうに下を向いた。
本来、王族は成人するまであの屋敷から殆ど出ることが叶わない。
もし出ることがあったとしてもそれは国事に参加する時くらいで、周囲を大量の護衛が取り囲むことになる。
だから彼女は満足に一人で買い物をしたり、食事をすると経験がないのだ。
まあ彼女も一応は年頃の女の子であるわけだし、そうした行為に憧れるのも理解できる。
ここは少し買い物とかさせてやって素早く満足させるのが得策だ。
・・・こんなワガママ娘が素直に帰るわけもないしな。
「・・・少しだけしたら帰りますからね」
「本当!?やったああッ!」
よほど嬉しかったのが、狭い馬車で思い切り飛び跳ねた彼女は見事、天井に頭を強打し。
大きなたんこぶを作ることとなった。
―――――
「これなんてどうかしら?」
「・・・可愛らしいですね」
「そっ、そう・・・じゃあこれは?」
「・・・似合ってますよ」
帝都について約1時間が経過した。
サクラは最初、服屋に行ってみたいと言い出した。
いつも服は使用人が選んだ物しか着たことがないから、自分で服を選ぶという経験をしてみたいらしい。
私も彼女の目立つ銀髪と、通行人の目をひいてしまうであろう整った容姿を隠す為の布を買いたかったので丁度良かった。
そして服屋にやってきたのだが――・・・そこには地獄が待っていた。
もう延々と、長々と、便々と、彼女のファッションショーを鑑賞している。
始めの数分は機嫌を取ろうと上等なコメントを繰り返していたが後半は適当な事を言ってるだけだ。
似たような服を着てきては、これはどうこれはどうと問われると頭がおかしくなりそうになる。
試着室を1時間以上占領する私たちの背後から、店員の冷たい視線を感じた。
これ以上目立つと、いずれ彼女が王女であることもバレかねないのでもう退散するとしよう。
「サクラ、もう行きましょうか」
「え、まだ10分くらいしか経ってないわよ?」
「・・・もう一時間以上経ってますよ」
「そんなに経ってたの?どうりで疲れる訳ね」
疲れてるのはこっちの方だよ
「でもまだ服が決まってないのよねー、どれが良いと思う?」
そういってサクラは3種の服を私に見せた。
正直言ってどれも大差がないようにも見えるが、下手なことを言うとあとが怖いので誤魔化すことにする。
「・・・サクラでしたら何でも似合いますよ」
歯が浮くどころか大気圏まで飛んで行きそうな台詞を言わねば彼女は満足しないのだ。
「それはそうなんだけどねー!」
そうなのかよ。
サクラは満面の笑みで呟いて、また3つの服と私を交互に眺めた。
これはどうやら私が何か言わないと決まらない流れらしい。
「そうですね・・・個人的な感想ですとサクラは普段ふわふわしたスカートばかり履いているので真ん中のシャツとベストとズボンが一番見てみたいですね」
ベレー帽も付属しているので髪も多少は隠せるし、ズボンなら歩きやすいだろう。
勿論そんな機能的な問題についてばかり意見してしまうと彼女は拗ねて、その服を恐らく着ないのでオブラートを3重くらいにして伝えてみた。
さあ彼女の反応やいかに――・・・。
「ふーん!ふーん!そうね、そこまで言うならこれにしてあげない事も無いわ!」
背後からお買い上げありがとうございますという店員の声が聞こえた。
サクラは財布も何も持ってないので仕方なく私が支払いをした。
・・・・凄い高かった。




