10話 ラブストーリーは突然に
私がやって来てから1月が経過した。
彼女、サクラとの関係は客観的に言って良好である――不気味なほどに。
始めの1週間はもしかして幻覚とか、そうした形容し難い類のものであったのでないかと本気考えている。
サクラが授業をまともに受けるようになってから約3週間。
日に日に彼女は素直に、従順に、温厚になっている。
始めの数日は理解できないことがあるとすぐに不機嫌になったり、教室から逃げ出そうとしたものだが今はその面影もない。
覚えが良いというのは本当なようだ。
始業の10分前には教室におり、いつも決まったように「遅かったわね!」と嬉しそうに言うのだ。
マグナ曰く、懐かれているらしいが――正直なところそれほど嬉しくはない。
むしろ鬱陶しい、邪魔臭いと感じることが以前よりも増えてきている気がする。
朝食ではサクラと隣同士がもう決定事項のようになっているし、暇な時は私の部屋に忍び込んで色々と漁っている。
アホな彼女はバレてないと思っているだろうが、無論気付いている。
日記帳や手紙にめくった跡が付いているし、下着や服が何点か消えている事がある。
新品ならまだ何とか理解を示せるが、全て使用済みの洗濯に出す前の品なので全くもって不可解だ。
極めつけは私に対する執拗なまでの監視行為だ。
偶然を装ってちょこまか私を付け回すし、女性の家政婦と話しているとまるで親の仇を見るような目で見てくるのだ。
聞くところによると彼女は両親にも誰にもかまわれる事なく育ったきたらしい。
恐らく愛情に飢えているのだろう。
だからわざと問題行動を起こして、皆が自分に注視してくれるよう仕向けているのだ。
彼女がここ最近急に大人しくなったのは、きっと私がかまいすぎたからだ。
問題行動を起こさなくても関心を持ってくれる人間を得たことによって、彼女の今まで我慢していた愛情への欲求が溢れてしまったのだ。
この懐き、執着心はきっと一時の物だ。
いずれ薄れていくだろう。
今は些か鬱陶しいが、王族に恩を売る意味も込めて少し我慢するとしよう。
――――――――
「それでは行ってきます」
「ああ、気をつけてね」
「はい」
マグナの笑顔を横目で見ながら、私は静かに扉を閉じた。
そのまま広い庭を抜け、門番の横を通り抜ける。
この屋敷の外にでるのは実に1月ぶりである。
目の前には雄大な野原が広がり、涼しい風が草木を揺らしている。
きっと気のせいだとは思うが、何となく屋敷の中よりも空気がおいしい。
1月ぶりともなるとただの風景にも感動するんだなぁ、と大きく深呼吸しながら思った。
門の前には私がここの屋敷に来るときにも乗った、大きな馬車が私を待ち構えていた。
急いで乗り込み行き先を伝える。
「帝都までお願いします」
「へい」
運転手の男は簡素な返事をすると、前を向き馬を走らせた。
規則的に伝わる振動と、のどかな馬の足音が心地良い。
今日は月に一度の外出日である。
休みは週に2日貰えるのだが外出は禁じられている。
防犯とか、諸事情があるのだろう。
久しぶりの外出という事で私は多少高揚していた。
もしかしたらあの面倒なお姫様の監視から逃れられるよいう事実も、私を高揚させている原因の一つかもしれない。
そういえば朝から彼女の姿を見てないが、何処に行ったのだろう・・・。
まあ良いかきっと寝坊だろう、昨日の夜ごそごそ何かしている音が聞こえたし。
馬車に乗ってから20分が経過した頃だ。
私が帝都に着いたら何を買おうかと考えを巡らせていた時、足元からガツガツと物音がした。
この馬車の中は下に荷物置き場として地下というか、スペースを設けてある。
今回は大した荷物も無いので使用していないが何で――――・・・あ
私が結論と至るのと、地面が開くのはほぼ同時であった。
地面から見慣れた銀髪の女が飛び出てきて、私の旅は地獄への道のりへと変わったのである。




