もしも我が家のあのツンデレ娘が言葉を喋れたなら、こんな感じで日々面白可笑しく楽しくイチャラブしてんのかなー?と思ったらじゃれ合ってんのはいつものことだった←
カタカタカタ……
リビングでノートパソコンを広げて執筆に勤しむ。筆を走らせると言えばそれっぽいが、実際に走っているのは僕自身だ。いや勿論、現実に走っている訳じゃないけど。しかし現実問題として第二回OVL大賞の応募締め切りが二週間後に迫った今、比喩でもなんでもなく締め切りに追われていた。応募予定作品はまだノルマの半分にも達していない。もう何もかも投げ出して逃げ出してしまいたいくらいだ。いや、そーゆーわけにもいかないんだけど。……え?あれ?待って、じゃあこの場合、走って逃げちゃダメなんじゃなかろうか?毅然として向かい合い、立ち向かわなければならないのではないのだろうか?
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ!」
「五月蝿いにゃ!」
怒られた。
猫に怒られた。
細い目で睨まれた。大きく口を開けて牙を剥き出しにしているのはきっとアクビなんだと、固く信じて疑わない。
猫に怒られたことでようやく我に帰った。
「個人的にはその直前の「撤退しない……してやらない!」の方が名言だと思うんだけど、うずらさんはどう思う?」
「我じゃにゃくて正気に帰るにゃ……と思ったけど、おみゃーさんはそれがデフォだったにゃー」
「「♪私に還りなさい~」ってんなら、ソッコーその胸に飛び込むぜ?」ビシッ!
「キメ顔うざっ!……って、筆が止まってるけどいいのかにゃ?」
「筆なんて元々持ってもいない」
「揚げ足うざっ!」
そう言うともっそりと立ち上がり、ぴょこんとテーブルに飛び乗る。スレンダーな彼女が軽やかに跳ぶ様は見ていて惚れ惚れしてしまう。身内贔屓にしか聞こえないかも知れないが、うずらさんはとっても美人さんだ。きゅっと引き締まった肢体に艶やかな鯖虎模様、艶やかな毛並みが見る者を惹き付けて、魅せ付けて、離さない。離れる気なんて端っからないけどな!←
「……って、うずらさん?ちょっ……近っ!?」
「うにゃ~。その温そうにゃ板の上がお昼寝に丁度よさそうにゃ~」
「待って!ここに来て猫リセとかマジで勘弁して!?」
「…………?」
「円らな瞳で見詰めてから無言で小首を傾げてもダメ!大体この真夏の暑い時季にわざわざ温いところに転がろうとするその意味が分からないから!」
「ただの冗談半分にゃ」
「半分は本気か!?」
「残り半分は嫌がらせにゃ」
「せめて優しさか遊び心が欲しかった!」
「……って、さっきから遊び過ぎにゃ。真面目に応募する気はあるのかにゃ?」
「ごめんなさい。ちょっと情景描写の加減が掴めなくてムラムラしてました。反省しています」
「ムラムラって情事かにゃー……?全く……にゃんにゃらアタシが代わりに書いてやるにゃ」
「え?うずらさんって小説とか書けるの!?」
「うにゃぁ。もちろんにゃ」
「喋れるだけでも十分驚きなのに……」
「原稿料は1本あたり3もんぷちぃ頂くにゃ」
「そこはかとなく高そうなその単位が気になる……でも読んでみたい!あれ?でもうずらさん、Word使えるの?まさか手書きとか言わないよね?」
「問題にゃいにゃ。キーボードの上で適当にゴロゴロしてればそのうちシェークスピアの2本や3本」
「それ、生きてる間に絶対完成しない」
「OVLの応募要項にゃー、「完成、未完は不問」って書いてあったにゃ」
「それは物語が完結していなくてもOKという意味であって、物語として成立していなくてもよいという意味ではない!」
「本の冗談にゃ」
「小説だけに本とか、寒すぎる……」
「ほんのり冗談にゃ」
「可愛いっ!?」
「冗談は兎も角、ちょっとそこ退くにゃ」
「えっ?あ、ハイ……」
カタカタカタカタ…………
「ば、馬鹿な!?『リア王』が、それも原文でだと!?」
「ざっとこんにゃもんにゃ」
「いや、これじゃOVLには応募出来ないんだけど……っつーか、どんなチート使ったんだよ?」
「ただのコピペにゃ」
「ずっこー!!」
【おまけ】
「まったく……しょーもないことしてないでさっさと続きを書くか。取敢えず『リア王』は削除して……」
「あ!」
「あ?」
「……」
「……そっか、うずらさんが上書き保存とか、新規作成とかしてくれるわけがなかった……」