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8月13日。


(8・13 AM7:58)



「はじめまして。主人と娘がお世話になってます。朝ごはん作ったので皆さんで食べましょう。」



キッチンに美佐子の作った朝食がラップにかけられて置かれていた。

目玉焼きにベーコン、サラダが一つのお皿にきちんと収まっている。

鍋には、コンソメスープ

テーブルには、トースター


椿が子どもの頃によく見た光景がそこにはあった・・・


みんなが席に着くといつもと違う朝食が始まった。



「あっ、そうそう!みんなにお土産。」



そういうと、正嗣は床においていた紙袋を机の上に置いた。

その袋の中には、様々な食材や本などとにかくたくさんのものが詰まっている。

その中から正嗣と美佐子は、その中から小さな箱を取り出しみんなに渡していく・・・。


小さな箱がみんなの前に置かれていく。

箱を開けると、男性陣は懐中時計、椿の箱には、真鍮の腕時計が入っていた。



「うわ~!!かっこいいべ!」



火燐はそういいながら、懐中時計を嬉しそうに眺めていた。




「親父・・・これ・・・。」


「あの世で作ってもらったんだ。そういう職人さんに。」


「私たちも作ってもらったの、ほら!」



美佐子はそういうと、自分の左手をぱっと上げた。薬指には銀の指輪がきらきらと輝いていた。正嗣の左手にも同じものが付いている・・・。



「結婚指輪・・・。」

「なくしちゃったの。それをお父さんに言ったらもう一度作ろうって。」

「その時にな、お前たちの分も作ろうって。」



時計のデザインは、みんな違うものだった。

でも、ピンと同じように全員の名前が彫られたもの。



「緑涼。」

「何だべ?」


「後で話しあるから・・・。」



正嗣は、緑涼にそういうと、ご馳走さまといってリビングを後にした。



(8・13 AM11:16)


緑涼は、1階の奥の壁をコンコンと叩いた。すると壁は動き、下へと続く階段が存在している。

緑涼がその階段を下りていくと少し明るい場所に到着した。

そこは、正嗣の書斎だった。

たくさんの本が大きな本棚の中に座っていて、天井の吹き抜けの窓から明かりが挿している。

その明かりの下に茶色の木の机があり、そこに正嗣が本を読みながら座っていた。



「話って何だべ?」

「いや、椿の事聞きたいなって・・・。」



そういうと、本を机に置き、緑涼の居る場所に椅子を回転させた。



「こっちにもね、少しだけだけどみんなの事耳に入ってたんだぞ。祭りのことも、みんなで車で出かけたことも・・・お前が俺の代わりに椿を守ってくれてることも。」



正嗣は、そういうと緑涼ににこっと笑う。



「おらは、決めてたんだ。正嗣が居なくなったら、おらがみんなを守るって。」



正嗣を見つめるその眼は、真剣そのもので正嗣の知っている緑涼とは少し違っていた。


「正嗣が、病気のこととか椿の事とか話してくれた時に腹くくった。自分の親のこと知らないから、どういう風に接しいいのか、正直まだわからねぇ時もある。禮漸とも話し合いながら・・・手探りって感じだべ。」


「例えば?」


そこから、正嗣と緑涼のプチ会議が始まった・・・。


その頃椿は、美佐子と一緒にお昼ご飯を製作中。


「お母さん。」

「なに?」

「親父の事・・・怒ってないの?」


椿は、あの事を美佐子に聞いてみた。

すると、美佐子の口から意外な言葉が出てきた。


「怒ってないっていったら嘘になるかもしれないけど、お父さんの事好きだもん。そう思ったらね、お父さんの事許せた。」


美佐子の笑う姿に椿は、心の重荷が取れたかのようにほっとしていた。



「お父さんね、もう一度プロポーズしてくれたの。もう一度僕と暮らしてくれませんかって。もちろん、あの事もごめんなさいって・・・。今、すごく楽しいの。お父さんと一緒なのが・・・。」



「そっか・・・よかった。」



椿にとっても美佐子にとっても懐かしい光景であり、本当なら叶うことのないはずだったの光景。

彼女達は、それを楽しむかのように会話をしていた・・・。



(8・13 PM12:07)


正嗣と緑涼のプチ会議はまだ続いていた。


「ま、男の子と女の子じゃ育て方は違う。でも、蓮流と椿、火燐と風燕、みんな性格違し・・・。だからいつも接し方を変えていくものお前が疲れるだけだと思うぞ。」


そういいながら正嗣は、緑涼の肩ぽんと叩く。


「お前が、こうしてみようと思ったら一度やってみたらどうだ。それで駄目ならまた考えたらいい。子育てってそんなものだと思うぞ。俺もそうだった、お前達と居たときは・・・。」


そういうと正嗣は、緑涼の顔を見つめにこっと笑った。


「それにしても懐かしい。こうやってお前とここで話するのも・・・。」


そういいながら、正嗣は、部屋の片隅にあった蓄音機の針を下ろす。聞こえてきたのはJAZZ。

正嗣が、この部屋でいつもJAZZを聞いていたのは知っていた。改めてその音を聞くと懐かしく感じていた。


「そういえば、何年前だったかな・・・リビングにJAZZの本忘れちゃって・・・。取りに行ったら火燐と風燕が読んでてさ~・・・ハハハ(笑)」



何を思い出したのか、正嗣は急に笑い出した。それを見ていた緑涼は首をかしげる。



「なしたべ、正嗣?」


「いや、ちょっと思い出してさ・・・その本に楽譜が載ってたんだけど、俺がこれなんだっていってDmディーマイナーの記号を指差したわけよ。そしたら、あいつらいきなりそろって“ドM”って!どこでその言葉知ったんだって・・・ハハハッハハハ(笑)」



あまりの回答に、緑涼も思わず笑ってしまった。



「で、あいつらそれをどこで・・・(笑)」

「それがな・・・禮漸の部屋にあった絵本って(笑)」

「絵本?」

「よく聞いたら・・・たぶん絵本って・・・(笑)」

「あ~!!」

「それを聞いてた禮漸が、いきなり叫びだしてあいつらの口塞いでんの(笑)もう、その姿が面白くて面白くて(笑)」


ここでしか出来ない昔話で盛り上がる正嗣と緑涼。


「そろそろ上に行く?たぶんお昼ご飯が出来てるな。」

「そうっすね。」


そういいって、彼らは部屋を出てリビングに向った。

笑いすぎて痛くなったおなかを押さえて・・・。



(8・13 PM1:08)


この日のお昼ご飯は、たくさんの野菜とお肉を使ってBBQ。

庭では、火燐と風燕がBBQの準備をし、蓮流と禮漸が大きなパラソルを物置から出してきた。


「お?BBQか~!!久しぶりだね!」


「そうでしょ?みんなですると楽しいかなって!」


正嗣と美佐子は楽しそうにそう話している横で、椿は串に食材を刺していく・・・。


「おらも刺してこう!」


緑涼もそういいながら野菜と肉を串に刺していく・・・。


「俺も、椿ちゃんと一緒に準備したいべ!」

「こっちまだだろ!はい、墨いれて!」


火燐の軽い暴走をすばやく鎮火させる風燕。その光景を正嗣は微笑みながら見つめると、その中に入って手伝いだした。


「それじゃ、点かないよ。そうしたらいい。」


といいながら・・・



(8・13 PM1:40)


BBQパーティースタート。


次々に串を置いていく。


「お前らそれ、どう見ても置きすぎだろう!」


串はコンロの網に隙間がないくらい置かれていた。

一人当たり4~5本一気に食べる割合で焼いてる状態である。


美佐子はその光景を見て大笑い。


「すぐに食材が無くなっちゃうよ(笑)」


そういいながら、コップとジュースを用意していた。


みんなですぐさま一部の串を皿に戻しBBQ再開・・・。



数分後



「「「「「「「「いただきま~す!!」」」」」」」」



焼けた串をみんなでほおばる。

食べていくにつれて、みんなの口元は少しずつ茶色になってきた。



(8・13 PM16:39)


BBQ終了。

椿と美佐子は、みんなにおしぼりを渡していく。


「さ、ちょっと休憩したら片付けていこうか!」


そういうと、正嗣はあるものを冷蔵庫から取り出してきた。



「ちょっと、お父さん!!」



それは、スイカのシャーベット。

美佐子が内緒で作っていたものだったらしい・・・。



「も~!!晩の涼しいときにみんなで食べようと思ってたのに~(怒)」

「いいじゃん、これ食べるとお口がさっぱりなんちゃって!」



ということで、デザートタイム。

みんなで縁側に座りながらパクパクと食べる。


数秒後・・・


「痛い・・・頭が痛いべ~(泣)」


一気に食べたのか、火燐が頭を押さえてのた打ち回る・・・。


「火燐・・・(呆)」

「お前、食べるペースが速いからそうなんだろ!」


風燕は横で怒りながら注意。正嗣は飽きれながらも、火燐の様子を伺う。


みんなが食べ終わった後、片付け開始。

途中、ホースを使っての水遊び状態にはなったが、何とか終了した・・・。


(8・13 PM21:27)


「お風呂気持ちよかった・・・。」


そういいながら、椿は部屋でのんびり過ごしていた。


「あと、2日か・・・。」


そう思ってベットに入ろうとしたときだった・・・。




コンコン・・・




「椿~!入っていいか?」


そういうと、正嗣がドアを開けて入ってきた・・・。



「いきなりなんだよ、親父。」

「ちょっとな・・・。」


そういうと、手にしていたチューハイを椿に渡した。



「あの世から帰ってきて、椿達が元気に明るく過ごしてることがわかってよかった。」



そういいながら、酒に口をつける。


「楽しいよ、毎日。」

「そうか・・・。」


「親父も、お母さんと仲直り出来てよかったじゃん。おまけにプロポーズまでしたらしいね。」


「そうだよ。俺は決めたの。美佐子をもう放さないってさ・・・。」


「いちいちかっこいいですね。」

「ありがとうございます。」


そういいながら、夜中まで酒を飲んだ。




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