2日目はショックが大きいです。
翌朝
この日は朝から浴衣に着替えた。もちろんこの日も凛香さんと文乃さんも一緒。
「よし、やっぱり甚平が動きやすい!」
今日の凛香さんは、黒の甚平。右肩には白い鉢巻をしていた。
「これは?」
「救護の証じゃ。毎年負傷者続出じゃからなぁ・・・誰かさん達のせいで?」
凛香はふすまの向こうの男性陣に聞こえるようにそうつぶやく。
「悪かったな!」
「その分仕事が増えると思って・・・」
「この日ばかりはゆっくり、観戦したいのじゃがな(笑)」
そういって、ふすまを開けた。
椿の目に飛び込んできたのは、白装束の男性陣。
昨日とは打って変ってかなり凛々しい。
「今年も稼ぎ倒すぞ!お前達!」
「了解!」
「いってくるべ!」
「今年もこの勝負、絶対にのがさん!」
「今年も、凛香の仕事増やしますわ、俺。」
「増やさんでいい!風燕!」
「へ~い・・・。」
「みんながんばって!」
「「「「「イエッサ!」」」」」
そういって、男性陣は先に会場入りするため部屋を後にした・・・。
「大丈夫かな、みんな・・・。」
「それは、失礼じゃぞ、椿。」
「失礼・・・ですか?」
「あぁ。死者が出るほどの祭りじゃ。この祭りに参加する男どもは、覚悟を決めてあの場所に立つ。大丈夫と祈るより無事を祈る方がよいのではないか?それこそが男どもに対する正しい態度だと私は思うぞ。」
凜香先生は少し怒った様にそういった。
「じゃ、ここで。」
そう言うと、そのまま医療班が待つ場所にいってしまった。
「私達も行きましょうか?」
「はい・・・。」
会場は、森の奥にある祭礼堂を中心に数ヵ所に分かれている。
観覧者は、祭礼堂の中心にある広場で観戦することになっている。つまり会場への立ち入りはできない。
広場には、大きなスクリーンが5つ。広場一面を覆う様に設置されていた。
「椿~さん!」
椿が振り向いた先には、桜色の浴衣を纏った結城佐奈がいた。
「久し振りっす!」
「おひさしぶりです。彼氏さん出られるんですか?」
「うん!和希が地元のダチと出るって。椿さんとこも出るんすか?」
「みんな出るの。」
「そ~なんすか!じゃ、ある意味ライバルっね。」
「そうね。」
「あの~・・・もしかして春河さんと結城さんですか?」
そこにいたのは、近衛の妻、百合歌と娘のひなただった。
「主人がお世話になりました。」
「「こ、こちらこそ。」」
あまりにも華奢で綺麗な百合歌に周囲の視線が・・・
「パパのお友達?」
「そうよ。パパのお友達。ご挨拶しようね。」
「うん!近衛ひなたです。」
そう言うと、ひなたは小さな頭をちょこんと下げる。
その仕草に、椿も結城も文乃も癒されていく。
「今日ね、パパとおじいちゃんがでるの!」
「まじで!」
「近衛さん出場されるんですか。」
「ええ。父や伯父達と一緒に。」
「そうなんですか。」
「どの種目にでられるんすか?」
「主人は飛ばしです。」
「パパね、いっぱい投げるんだよ!」
「飛ばし・・・?」
「どうしたんですか、結城さん?」
「和希も飛ばし・・・」
「そうなんですか!」
「うん。」
「私の所は・・・」
その時だった。
広場にいた観衆がざわつき始めたのは・・・
「飛ばしの組み合わせが出たぞ!」
椿も結城も百合歌もその組み合わせに愕然とした。
最終組に書かれていた名前は、和希と緑涼と近衛の名前だったからである。
「大変なことになりましたね。」
文乃がそう声を掛けるが・・・
「マジ・・・ありえないし・・・」
「お互い・・・」
「ライバルになりましたね・・・。」
そういながら、彼女達はお互いの顔を見合わせていた・・・
数分後
広場の明かりが落され、ろうそくと宙に浮くホオズキの提灯の明かりだけの幻想的な空間になった。
椿達は枡席に座り観戦することに・・・。
スクリーンには、祭りの始まりを告げる儀式が行われている。
実況も始まった。
スクリーンには、沢山の出場者が写っていた。
「さ、注目は彼らですね。」
その言葉と同時に緑涼達の姿が映し出された。
いつも家にいる時と違い、かなり凛々しい姿で映し出されている。
「はい。今年も総嘗めにしていくのか注目です。」
「参加者の多くはこう言っていましたね・・・」
「「打倒、覇王!」」
「5年前に、彗星の如く現れた彼ら・・・」
椿には、実況を聞こうとする余裕すらなかった。
それ位不安で心に余裕が無かったから・・・
数十分後
「さ、各会場に参加者が到着しました!」
スクリーンが各会場に切り替わる。
川泳ぎの会場のスクリーンに蓮流が映っていた。
背中の鱗が、川の水の光が反射し、不思議な光を放っていく。
反対側のスクリーンには、火燐が最後尾で弓と数本の矢を持って立っている。
そこにいた火燐は、ニコニコはしていたが、切れ長の眼は鋭く笑っていない。
また、別のスクリーンには、屈伸運動をする禮漸が写っていた。
一つ屈伸するごとに、目付きが変わっていく。
少し遅れて、禮漸の反対側のスクリーンに風燕が写る。火燐と同じく、最後尾で仁王立ち。しかし、口が少し動いていた。音声は伝わらないが、何を言っているのか椿にはわかった。
「今年も俺が頂く・・・か。」
「何がっすか?」
「内緒。」
そしてまた椿達の周りが大きな歓声が響き渡っていた・・・
(飛ばし競技会場)
「あっ・・・」
「マジか・・・」
近衛と和希は、組み合わせ表を見て立ちすくんでいる。
そこへ意気揚々と緑涼がやってきた・・・
「あっ!先日は娘がお世話になりました!」
緑涼が軽く頭を下げると、いえいえと近衛と和希も頭を下げる。
「同じ組・・・ですね・・・。」
緑涼も組み合わせを見て唖然・・・
「ま、まぁ~とにかく楽しみましょう!」
「そ、そうだな!でも、俺、勝ちますから。」
場の空気を変えようとしていた近衛とは対照的に、緑涼と近衛に挑戦状を叩付ける和希。
「おらも、ここで負ける訳にはいかねぇんだわ。とにかくよろしく。」
「俺も、負けたくない。勝ちにいくからよろしくな!」
その挑戦状を受け取った緑涼と近衛。
彼らは、その場で握手をかわす。
すると会場がざわめきだした・・・
(広場)
広場では、歓声と怒号が入り交じる騒ぎになっていた。
「あれ・・・投げられるんですか?」
椿の見ている画面に映っていたのは、大きな切り株が5つ縄で括られているもの・・・
「パパあれ投げるの?」
「そうみたいね・・・。」
「和希・・・無理しないで・・・」
「緑涼さん・・・」
そんな時、会場ボルテージがさらに上がる物が画面に映る。
「今年の的が入場してきました!闘牛です!たくさんの闘牛です!」
「今年の的打ち荒れるの確実ですね!」
「「「えぇ~!!」」」
「もう何だよ!この祭り!」
椿は、開いた口が塞がらず、結城はびっくりして叫んでしまった。
文乃と百合歌にいたっては、固まっている・・・
「さっ!すべての準備が整いました!」
「今年もあと数分で開幕ですね!」
「じゃ、やるべ!」
「水浴びと行きますか。」
「全部薙ぎ倒してやる。」
「じゃ、壊しにかかりますか。」
「じゃ、いっちょいくべか!」
「開始まで、5・4・3・2・1・・・」
ドンっ!!!
太鼓の響きで男義祭が始まった・・・
しかし・・・
ドドド・・・
「力比べで終了の太鼓が鳴りました!」
「開始1分経ってませんよ!」
力比べの状況を知らせるための画面は、土ぼこりのせいか何も見えない状態であった。
「まだ曇って何も見えないですが・・・あっ!少し見えました!」
「あれは・・・禮漸選手です!連覇・・・連覇達成です!」
「秒殺ですね!」
「用意された鉄の板100枚も粉々です!」
白いもやが晴れた先には、平然とした姿でキセルを咥え一服する禮漸の姿が映っていた・・・。
「禮漸さん・・・凄すぎる・・・」
「ママ!あのおじさん凄いね!」
「ほ・・・本当だね・・・」
禮漸のあまりの凄さに椿達ももびっくり。
「おっと!避けでも太鼓が鳴りました!」
「こちらも、連覇ですね!」
「風燕選手、周りの木ごと薙ぎ倒し悠々と到着です。」
風燕の周囲の森はなくなっていた。
こうなると、仕掛けとかどうこうではなく、舗装工事をしたかのような状態になっていた。
「椿さん・・・」
「なに・・・?」
「お宅の家族っすよね・・・あの人達。」
「ご迷惑おかけしてすみません(焦)」
もう、こうなると謝るしかないと感じ、椿は結城に頭を下げていた。
「おっと!的打ちが、接戦しています!!前回覇者である火燐選手と、紅の皇帝と呼ばれる男、仁左衛門選手が争ってます!!」
「おじいちゃんだ!!」
「お父様・・・無理しないでって言ったのに・・・」
「火燐さん・・・むきになってるし・・・」
実況が伝えるように、画面が映し出していたのは、一つの的を狙い、争い続ける火燐と百合歌の父、仁左衛門だった・・・
「早くくたばれよ!ジジイ!」
「まだまだ負ける気は無いぞ!若造!」
火燐と仁左衛門は、言い争い続ける。
向かって来る闘牛を彼らは次々と打ち抜きながら・・・
そんな時だった…
ドン・・・
画面を見ていた椿達も
そこにいた観客達も
あまりの残酷な光景に凍りついた・・・
「火燐・・・さん・・・」
画面に映っていたのは
血を流し、意識の無くなった火燐の姿だった・・・
(飛ばし競技会場)
ピッピッピ―!!!
会場に笛が鳴り響いく
「競技中止!速やかに儀式の間に戻ってください!」
審判から出た言葉に緑涼は、嫌な感覚に襲われた。
「中止て・・・何があったんすか?」
和希のその問いに
「笛がなる・・・イコール競技ができないくらいのアクシデントが発生したか、重体の選手が出たって合図だ。」
と近衛が答えた。
「兄貴!」
そこに、参加者では無い空我が血相を変えて走って来る。
「空我、どしたべ?」
「早く・・・救護室に行ってください!火燐さんが・・・火燐さんが競技中に牛に跳ねられて・・・意識不明のままか注ぎ込まれたって!」
緑涼は、その言葉を聞いた途端、血相をかえ救護室へ走って行った。
(川泳ぎ会場)
川泳ぎは、蓮流の勝利で競技が終了していた。
蓮流が控室に戻った時、先に戻っていた参加者達に口々に声を掛けられる。
「ごめんなさい!まとめて話されても聞き取れないです!」
すると、参加者を代表して、魚人の男が蓮流にことを伝えた・・・。
「的打ち会場で、的の牛が暴れだして、火燐さんが牛にぶつかって・・・救護室に運ばれて・・・。意識が無いそうです。」
蓮流は、着替えもせずそのままの格好で救護室へ走り出した…
(救護室)
「遅い!何やってんだ!早くナイフ用意しろ!」
部屋中に凜香の怒号が響き渡る。
「救急部隊が来るまで時間が掛かりすぎる!ここでオペするぞ!輸血の準備もして!」
凜香は、火燐の血の気の無い顔を見ながら、自分の手の感覚で怪我の度合いを確かめていく。
「酷い状態じゃ・・・でも、助けてやるからな、火燐!」
そういながら、手術の準備を始める。
救護室の前には、椿と文乃、結城、百合歌と仁左衛門とひなたが座っていた。
椿は、不安に押しか潰されそうな気持に耐えていた。
そこに禮漸と風燕が到着する。
椿は、禮漸と風燕の姿を見ると、涙がどっと流れだして止まらなくなった。
それを見た風燕は、椿を抱き締めながら
「まだ火燐が死んだ訳じゃないだろ!泣くな!」と怒鳴った。
禮漸は、不安な顔をしながらも救護班のメンバーに状況を確認している。
そこに緑涼達が到着。
「火燐は?大丈夫なのか火燐は!」
救護班に詰め寄る緑涼。
「まだ意識は戻ってないです。かなり危ない状態で、凜香先生がここで手術すると・・・」
救護班のその言葉にさらに不安が大きくなる感覚を緑涼は感じていく。
蓮流も到着。
「火燐は・・・まだ・・・」
「今、手術してる。」
「火燐さん・・・」
何十分
何時間と
重い時間が流れていく・・・
その時、凜香が救護室から出てきた。着ていた甚平は、火燐の血がべったりと付いていた。
「凜香!火燐は、火燐はどうなんだ!」
詰め寄る緑涼に凜香はこう言った。
「緑涼、大丈夫だ。成功したから、オペ。」
その言葉に、そこにいた誰もが安堵の表情を浮かべた。
「よかった・・・」
椿はそう言うと、その場で倒れ込み気を失ってしまった。
「椿!」
「大丈夫じゃ、緑涼。気を失っとるだけじゃ。相当、不安だったのじゃろう。少し寝かしてやれ。」
凜香は、少し笑いながら緑涼にそういった。
その時に救急部隊が到着。凜香は、彼らに遅いと怒りながらも、火燐の今の状況を伝える。
そして、救護室にはいり、火燐を担架に乗せて出てきた。
酸素マスクを付けていたが、いつもの様な寝顔。
救急部隊から同伴を求められ、緑涼と禮漸が一緒に病院へと向かった。
翌朝
「う・・・うん・・・」
椿が目を覚ます。
そばには文乃が座っていた。
「みんなは?」
「病院に向かわれました。火燐さんの意識が戻ったそうです。」
「私も・・・行かなきゃ・・・」
「まだ無理しちゃダメですよ。先に服を着替えないと。」
椿は、黄色い浴衣のまま眠っていたのである。
椿は、浴衣から服に着替えている横で文乃が何かを用意していた。
おむすび
しかもたくさん作っていた。
「もうすぐ空我さんがこちらに迎えに来られます。その時にこちらを・・・」
6人分のお弁当
文乃によると、火燐の事故があった日からみんな何も食べていないらしい。
「わかりました。ありがとうございます。文乃さんは…」
「行きたいのですが、ここの大女将である以上、これ以上のお時間をあけるのは・・・ごめんなさい。火燐さんによろしくお伝えください。」
その時、空我の車が月下楼に到着。椿は車に乗り込んだ。
「火燐さん大丈夫かな。」
「大丈夫だよ。目を覚ました後が大変でしたけど。」
「何があったんですか?」
「椿ちゃんがいないって泣き出すし、俺が差し入れで持っていった油あげは、消化が悪いって凜香先生が言うもんだから、目の前でお預け状態になってるし。見ててかわいそうっすよ。」
「よかった元気で。」
椿は、やっとほっとしたのかクスッと笑っていた。
(病院3階 一般病棟)
椿が扉を開けると、そこにはベットの上で座る火燐と、少し疲れている緑涼達だった。
「椿ちゃん。」
火燐はそういうとベットから手を伸ばす。
点滴と緑涼の監視でベットから離れられなかったからである。
椿は火燐のそばに駆け寄ると、思わず抱き締めた。
火燐の顔が少しずつ紅くなっていく・・・
「よかった・・・よかった・・・」
椿は嬉しくて泣いてしまった。
「な、何で泣くべや。」
「心配だったんですよ。ずっと、ずっと・・・。」
火燐は、静かにゆっくりと椿の頭をなでた。
その時、椿は、文乃からのおむすびを思い出す。
「これ、文乃さんからです。お弁当、みんなの分って・・・」
そしてみんなで食べようとしていた・・・
「自宅療養でいけそうじゃな。その元気だと。」
ドアの所に凜香が持たれる様に立っていた。
油揚げを持って・・・
「一時はどうなるかと思ったが、意外に回復が早くてびっくりしたぞ!でも・・・」
そういうと、いきなり火燐のお腹を押さえだした。
「痛い!痛いべや!」
「検査したら、怪我といっしょに胃の炎症が見つかったぞ。薬もだす。暴飲暴食、胃がもたれる様な脂っこい食べ物禁止。揚げもダメ。厚揚げもダメ。でも豆腐はOK。」
それを聞いた緑涼は・・・
「怪我の光明とはこういう事をいうんだな。」
とある意味、関心していた。
しかし、当の火燐は・・・
「油あげ~(泣)」
と泣きそうになっていた。
椿は、この光景を見ているだけで幸せだった。
こうして、またみんなで笑っていられたから・・・。
その日の晩、退院。
そのまま月下楼に向かう。
「やっぱり椿ちゃんの手、暖かいべや。」
火燐は、椿と手をつないだまま離さない。
椿も、今日ぐらいはいいかなっと思いそのままにした。
「離れに帰ったら、そく、片付けてチェックアウトだべ。」
緑涼がそういうと
「もう帰んなきゃいけないんですね・・・早かったっすね。」
と禮漸は返した。
「楽しかったのもあったし、祭りの中止もあったし・・・」
と風燕がいうと
「椿ちゃんが来て楽しみ方が少し変わって楽しめた気がする。」
と蓮流が答えた。
離れに着くと、机の上に紙袋が・・・
「火燐~!!」
「何だべ、緑涼!」
「お前宛だべ!」
「俺宛?何だべな~♪」
火燐が紙袋を開けると、長細い箱と大きな御重と手紙
手紙の主は、仁左衛門だった。
手紙の内容は、謝罪と競技から引退するとのことだった。
火燐は、その手紙を読んだ後、長細い箱を開ける。
中には1本の金属の矢と糸が入っていた。
その中にもカードが・・・
「次の・・・世代は・・・お前がひっぱれ。期待しておるぞ。また怪我が治ったら戦おう。期待しているぞ、若造・・・。」
思わず手紙を口にして読んでいた火燐。しばらくしてこうつぶやいた。
「ジジイ・・・また戦いたいべや。」
火燐は静かに箱を閉じた。
次に大きな箱を開けると・・・
「うわ~♪綺麗だべ~!」
1段目にフルーツタルトなどのタルト類、2段目には焼き菓子、3段目にシフォンケーキなどのスポンジ系4段目にゼリーやプリンといったカップ系のお菓子がたくさん入っていた。
「椿ちゃん、はいこれ♪」
火燐から渡されたのは手紙だった。手紙の主は百合歌だった。
「主人から、今日春河さんが帰られると聞きました。道中は長いと思いますので、小腹が空いた時に食べてくださいね。
皆様にもよろしくお伝えください。ではまたどこかでお会いしましょう。近衛百合歌。」
「すごい量だな。」
「んだ。こんだけあると、家帰ってもまだ食べられるべや。」
あまりのケーキの量にみんなびっくり。
「とりあえず、食べるのは車に戻ってから。」
緑涼はそういいながら御重を紙袋に戻した。
「じゃ、帰るべ、お前達!」
「「「「「は~い!」」」」」
椿達は、離れを後にし、文乃に挨拶をしてフロントでチェックアウト。月下楼を後にした。
駐車場までの道。
みんなで離しながら歩いていると、後ろから複数のバイクがやって来る。
「椿さん!」
中央のバイクに乗っていたのは、和希と結城だった。
「結城さん・・・」
「今日帰るって言ってたから・・・」
結城は、バイクから降りると、椿にあるものを渡した。
「これ、弦月さんからっす。あんな事あったから渡しそびれたって・・・」
そういうと、3つの大きな紙袋を渡した。
「男義祭の商品。禮漸さんと風燕さんと蓮流さんの分って言ってたっす。」
「ありがとう。」
「あと、蓮流さんのは、着物も入ってるって。」
「だって、蓮流さん。」
「了解。」
そういうと、蓮流が紙袋を受け取り、中身を確認していた。
「また、会いたいっす!」
「私も。みんなでまた会おうね!」
「うん!」
そういうと、2人は、ハグをした。
その頃、和希は緑涼のほうに歩み寄ると
「来年、必ず参加してくださいね。俺、勝ちますから。」
といって右手を前に出し、握手を求めた。
「その挑戦、受けてたとう。おらも負けねぇから。」
緑涼はそう言って握手に応じた。
そして結城達は、バイクに乗って帰って行った。
(車内)
運転している緑涼以外で商品をチェック。
「うわ~♪牛肉、豚肉、鶏肉、ラム肉、馬肉・・・」
「肉詰め合わせだな、風燕の商品。」
「ウインナーも入ってる!蓮流さんのは?」
「俺のは・・・お茶?」
「紅茶と緑茶と・・・とにかくお茶の葉がいっぱいだべ!禮漸は?」
「味噌と納豆と・・・」
「あ~っ!紅葉庵の豆腐!油揚げに・・・厚揚げも・・・(泣)」
「「「紅葉庵の賞品詰め合わせ・・・。」」」
「どうすっべな~・・・。」
そこには、火燐が凛香に止められている大好物の商品ばっかり・・・
「とにかく、これは家に帰ってからどうするか決めよう!」
禮漸は、そういうと商品を紙袋に戻して、
ほかの紙袋と一緒に冷蔵庫に入れた。
それと入れ替わりに、百合歌の作ったケーキを出してきた。
「どれ食べる?」
禮漸がそういうと、椿と火燐と蓮流と風燕は一斉に好きなケーキを指差した。
「よかった、みんなバラバラで。」
そういいながら禮漸は、クッキーとシフォンケーキをお皿に乗せると緑涼の居る運転席へと向っていった。
みんなでお菓子を食べながら、ゆっくりとした時間を過ごしベットで寝る。
目が覚めると、いつもの見慣れた景色が窓に写っていた。
椿はその風景に「ただいま。」と小さな声でつぶやいた。




