初日です。
翌朝。
「・・・何これ・・・?」
目を覚ますと凄まじい光景が目に入ってきた。
・布団はぐちゃぐちゃ。
・どこに誰が寝てるかすらわからないくらい物が散乱。
・浴衣肌蹴すぎて目のやり場に困る。
ちなみに、椿が目を覚ました場所は、寝室の隅っこ。自分が寝ていたはずの場所からかなり外れた場所だった。
「うわ~・・・何がどうなったらこうなるんだろう・・・?」
椿はそう思いながら別室で服に着替え、居間を片付け、縁側でのんびりコーヒーを飲んでいた。
「今日から祭りか・・・どんな祭りなんだろう。でも、2日目は・・・なんか凄そう。」
そんなことをつぶやきながら・・・
「おはよ。」
禮漸が椿の横に座る。浴衣はきちんと直しているが、ものすごい形の寝癖はそのまま。それを気づいていないのか、普段と変わらない様子でキセルを咥える。
「朝早いね。」
「禮漸さんも早いです。」
「おっと、俺はまだ敬語?」
「どうしてそれを・・・」
「緑涼さんから聞いた。徐々に直せばいいよ。それより、今日から祭りか~。夕方からスタートだから朝は町をぶらぶらしてみよっか?」
「やった!いろいろこの街お店見てみたかったんだ。」
「じゃ、決定。ついでにいろいろ食料とかも買うか。ネットで頼めないのもあるし。」
「わくわくしてきました。」
「そっか。とりあえず、火燐に紅葉庵連れてけって言われそうだから、そこからスタートだな。」
「はい。お豆腐やさんからですね。」
縁側でそんな打ち合わせを数分間。次に起きてきたのは狐姿の火燐だった。
「おはようございます。」
「おはよう、つばきちゃ・・・」
そういうと、寝ぼけているのか禮漸を椿だと思ったらしく、禮漸のひざの上でまた眠ってしまった。
「とりあえず、このまま起きたときのリアクションを楽しみにしておこう。」
そういいながら、禮漸はひざの上の火燐をそのままにしておいた。
そうこうしているうちにみんな起きだしてきた。みんな凄い寝癖だったり、浴衣がはだけすぎた状態で縁側を通過していく・・・。
風燕に至っては、浴衣の帯だけかろうじて残った状態になっていた。
そして・・・
「椿ちゃん・・・おは・・・」
火燐が起床。
でも、視界に入ってきたのは禮漸・・・
「おはようございます(笑)」
「おはよ。お前、寝ぼけて俺のこと椿ちゃんだと思ってたぞ(笑)」
火燐の顔がどんどん赤くなり、そのまま寝室に戻ってしまった・・・。
「すっごく驚いてたね(笑)」
「本当だな、恥ずかしいとか思ってる、絶対(笑)」
椿と禮漸は、互いに顔を見合わせくすくすと笑い始めた。
朝食は、お食事処で食べることになっていた。
みんなで本館まで移動。
「今年のバイキングはどんな料理がでとるかな~♪」
「お豆腐、厚揚げ、油揚げ、食べたいべ。」
「パンとかあるかな。久しぶりに食いたい。」
「親戚に会いませんように。悲しい再会がありませんように・・・。」
「喫煙席開いてるかな?」
みんなの意見が口々に出てる状態の中、椿はわくわくしながらテクテクと緑涼達の後をついていく。
会場に着くと、喫煙席をキープ。次に食糧確保。で、朝食。
椿と風燕はトーストとスープとサラダとフルーツ。火燐は、お豆腐と油揚げの味噌汁に焼いた厚揚げ、それとご飯とサラダ。蓮流は、卵焼きとお漬物、おにぎりと味噌汁とサラダとなぜかバターロール。禮漸と緑涼は、ご飯と厚揚げと漬物。コンソメスープとフルーツとベーコンエッグ・・・和洋折衷といった感じである。
「たくさん食べねぇと元気になれないぞ!お前たち。」
「そうそう。」
緑涼と禮漸はそういうが・・・
「俺、その食べ方無理だわ・・・毎回それだよね?」
と風燕は反論。
「パンだけじゃおなかは持たない。」
禮漸の一声。
確かに朝食バイキングだとこうなることあるよねと思いながら椿はトーストにイチゴジャムを塗っていた。
朝食の後、椿達はそのまま街へ
「紅葉庵!紅葉庵!」
火燐が椿の手を握りながらそう口ずさむ。
「火燐さん!痛いです!」
「・・・ごめん(泣)」
「言わんこっちゃねぇべな(怒)」
緑涼の手で椿は火燐から開放される。
「椿の手、真っ赤になってる(笑)」
禮漸は椿の手を見てくすくす笑いながらそうつぶやく。
「ま、とりあえずそのままにしてたら治るだろう。」
風燕は椿の手を見ながらそうつぶやく。
「とにかく、紅葉庵行こうよ。すぐそこだし・・・。」
「そう、そうだね。」
そして紅葉庵に向って歩みを進めた・・・。
「着いたべや~~~~!!!」
火燐がきらきらと目を輝かせるその先に紅葉庵があったが・・・
「相変わらずだね~」
「ならんでんな。」
「きゅ・・・(泣)」
「とにかく並ぶぞ、お前たち!」
並ぶことに・・・
ならびに並んで数十分・・・
「や・・・やっと買えたな・・・油揚げ。」
「みんなで並んだから、結構買えましたね・・・。」
「みんなありがとう!すんごく幸せだべ!早く食べたいべや~!」
「食べるのは、家に帰ってからだ!豆腐とか厚揚げ勝手に食うな。」
「えぇ~(泣)」
今にも泣きそうな火燐を緑涼はなだめる。
「次、いくべ、火燐。」
「んだ・・・」
次に向ったのは・・・
「煙翔館・・・?」
「タバコ屋さんだよ。ちょっと手に入れたいものがあってね。」
そういうと、禮漸を筆頭にみんなで館に入る。
「いらっしゃい。」
キセルをふ~っとふきながら、客を出迎える初老の女性。
頭の右側には人間の頭蓋骨の一部がお面のように乗っていた。
「いいのは入ってるよ、鬼の子。」
「その言い方もうやめてくれよ。」
「ガキのときからここに居たんだ。昔の呼び方で呼ばせてくれや、鬼の子。」
どうやら、女将と、禮漸は知り合いのようである。
そんな彼らの話そっちのけで、蓮流と火燐と椿は飾っているキセルを見つめていた。
「すごく綺麗・・・。」
「本当だべ・・・」
「すごい細工されてある。」
「綺麗なキセルだけど、お前たちが簡単に持てるようなものじゃないよ。」
女将は、蓮流達に向ってあきれたような口調でそう言い放つ。
「そうだな。もっても似合わないと思うし・・・(笑)」
「そうだべ。それにある意味から悪くするから、煙草は・・・(笑)」
なだめるように、禮漸と緑涼がそういった。
「じゃ、何でそれを売るべや?」
「おっ?それはあたいの仕事が意味無いとでも?」
「そうじゃないけど・・・」
火燐の言葉に、女将はこう答えた。
「これを必要としてるのも居るから、あたいは存在するって事だ。そこの子みたいに。」
キセルで禮漸を指しながら・・・
「女将・・・キセルで指さないでくれよ(呆)」
「ハハハハ・・・(笑)」
「本当昔と変わらないですね、女将。」
緑涼が、女将にそういって笑う。
「坊やもじゃないか。でも、あんたが居たから鬼の子・・・禮も変わったんだ。あの人間は?」
「正嗣は、今年のはじめに亡くなったんです。病気で・・・」
「そうかい。人はあたいらと違って寿命が短い。その分、欲や情に深い奴が多いからのう・・・で、あの子は?」
「その正嗣の娘。今は俺の娘だけど。」
「引き取ったのかい?」
「・・・俺が、みんなの親父ですから。」
女将は、くすっと笑いながらバックエリアに行き、一つの麻袋を持ってきた。
「禮、あんたの好きな幻想香だ。」
「マジで!」
そういうと、禮漸は袋をあけその葉の香りを味わう。
「どうやって手に入れた?」
「内緒のルートでな。お前がまた夏に返ってくるだろうと思って用意しといた。持ってけ。」
そういうと、女将は禮漸の右手にその袋を握らせた。
「ありがとな、女将。」
「あいよ。」
そういうと、禮漸は腰元に袋を吊る。
「じゃ、行くわ。」
「いっといで。」
そういって煙草屋を後にした。
禮漸は、みんなの少し後ろをぽつぽつと歩いていた。
椿は、緑涼に聞いてみた・・・
「煙草屋さんの女将と禮漸さんは知り合いなんですか?」
「んだ。禮漸は、親に捨てられてたらしい・・・それをあの女将が見つけて、自分の子供のように育てたって訳だ。」
「そうなんだ・・・。」
「おらも、元々親に捨てられた身なんだけど、あいつと違って育ててもらうなんて事もなかったし・・・ひたすらあの世やこの世で暴れまくって、悪の限りを尽くすというか、なんと言うか・・・」
少し黙った緑涼の横顔は、何かを懐かしむような顔をしていた。椿はなぜかその顔を見とれてしまった・・・。
「で、捕まって牢屋に入れられた。そこにあいつも居てね~・・・俺より凄い事してたけど(笑)」
「何・・・したんですか?」
「それは内緒ってことで。で、女将が禮漸を引き取りに来たんだけど、俺から離れなかったんだよ(笑)だから女将が一緒に引き取るって。」
「ふ~ん。そんなことがあったんだ・・・。」
「そう。だから子供のときから同じ釜の飯食って育ってきたって感じかな。おら達からすると女将は母親みたいなもんだから・・・。」
そういって、椿に微笑んだ。
「椿は、そんな悪い奴にならないように!」
緑涼は、そういうと頭を優しくなでた・・・。
「じゃ、次々回るか・・・。」
「うん。」
「なんかほしいのがあったら、遠慮なく言ってくれ!」
「わかった!」
親子のような会話がやっと出来るようになってきた・・・。
そう思いながら、椿は緑涼の横を歩き続けた。
やっと買い物が終わり、いろいろなお店でテイクアウトしながら月下楼に帰ってきた。
「じゃ、少し休んだら祭りにくりだしますか?」
禮漸のその言葉にみんなのテンションが上がっていった。
「椿ちゃんは今日どっちの浴衣着るの?」
蓮流の言葉に椿は微笑みながら青の浴衣を着ることを伝える。
「お、初日は青ですか~。」
「うん。」
「着れる?」
「あ・・・」
椿は自分で浴衣を着ることが出来ない。焦る椿を見ながら、緑涼はこう伝える。
「そうだろうと思って、文乃に頼んだ。」
「よかった。」
安堵の表情
椿のその表情を見て緑涼もにこっと笑っていた。
「じゃ~着替えていくか!お前達!」
「「「「は~い!」」」」
男性陣は先に着替えることに・・・。
「失礼します。」
文乃が到着。すると後ろから凛香も入ってきた。
「凛香先生・・・」
「お主を守るためじゃ。」
そういうと、男性陣が着替えている部屋のふすまを思いっきり開けた!
「うわっ・・・凛香・・・先生。」
「今から私達も着替える!覗くなどしたら、どうなるか、判って、おるだろうな~・・・」
もう半ば脅迫だ。
男性陣は思いっきり怯えている・・・。
「じゃ、着替えるかのう。」
「そうしましょう。」
「はい!」
女性陣の着替えも始まった。
数十分後
「お待たせしました!」
椿がふすまを開けると、男性陣は本を読んだりしてくつろいでいた。
「かわいいべ~!!」
火燐が浴衣姿の椿に見とれている。
「女は、いろんな変わり方があるからのう。お前にとっちゃ新鮮だろ?」
凛香はそういって火燐の肩をぽんと叩いた。
「飾り似合ってんじゃん。」
「少し長めの髪につたを巻きつける。いい感じ!」
風燕と蓮流は飾りに目が行っていた。
「じゃ、今から思いっきり騒ぎ倒すぞ!」
「でも、くれぐれも迷子になるようなまねだけはしねぇように!あと・・・」
そういうと、緑涼はピンをみんな渡す。
「これをつけないと。」
「「「「は~い。」」」」
街に繰り出すと、さっきとはぜんぜん違う景色が広がっていた。
出店が並び、活気がさらに増した世界。
椿にとっては新鮮だった。
「これ・・・かわいい。」
椿が目にしたのは、ガラスで出来た青い鳥の置物。手作りなのか、顔が一つ一つ違う。
「どれがいいの?」
「この子。なんか目が・・・かわいくって(笑)」
禮漸は、それを聞くと、店の店主にそれをくれと指を刺した。
「え?いいんですか?」
「いいよ。こういうときは、ほしいもの手に入れないと。遠慮してるといい思い出残せないよ。」
そういいながら、禮漸は店主に金を払う。
「禮漸~!何してんの?」
「これ、おいしいべや!」
「おめぇ達の分も買っといたぞ!」
「来なかったら俺が食う!」
「さ、続きを楽しむか!」
「うん!」
たくさん食べて、たくさん遊んで、祭りの初日が終了した。
椿は、月下楼に戻ると、かごに入った鳥の置物をじっと眺めていた。
月の光に照らされてか、きらきらと神秘的な輝きを放っていた。
「椿のお土産はそれか?」
風燕が鳥を見ながらそういった。
「だって、すごいかわいかったの、この子。」
「青い鳥って、人間の間では幸せの鳥って言われてるんだよな。」
「うん。」
「座敷わらしみたいな奴だな。」
「結構詳しいんですね。」
「本で見た。」
少しの沈黙の後、椿は男義祭のことを聞いた。
「明日、男義祭何に出るんですか?」
「俺は、避け。」
「どんな競技なの?」
「ん?障害物走みたいなもん。障害物走だと主催者が用意したトラップだけ避けたらいいけど、避けは、参加者自身がトラップしかけたり、戦ったりしてもいい競技なんだ。ま、俺は数秒で全員失格にするけどな。」
「ほ~・・・」
「あと、火燐が的打ち、蓮流が川泳ぎ、禮漸が力比べで緑涼が飛ばしってとこかな。」
「的打ちとか川泳ぎとかはなんとなくどういう競技かわかるんだけど、飛ばしって何?」
「飛ばしな・・・どう説明したらいいだろう・・・端的にいうと人間界でいう砲丸投げ。でも、投げるものが毎年違う。」
「毎年?」
「そう、去年は米俵3つセット。緑涼はそれをどこまで飛ばしたと思う?場外だぜ。」
「場外?」
「そう、それを毎年。」
「すごすぎる・・・」
「あいつの怪力には誰もかなわないよ(笑)」
椿は、空我が彼らのことを覇王と呼ぶ理由を改めて実感してしまっていた・・・。




