プロローグ~10年間を埋めるように~
(10年前)
「もう嫌だ!」
初夏の生温い風が吹く中、私は家を出た。
いわゆる家出。この家にいることにかなりの苦痛だった。
なんか、苦痛だった・・・。
(半年前)
「椿ちゃ~ん!お客さん。」
「は~い!すぐ行きます!」
私が働くカフェに少し初老の男がやってきた。
懐かしくもあるが、あまり会いたくなかった男・・・
「久しぶりだな。」
「親父・・・」
10年前
私は、親父のあることがきっかけで家を飛び出した。
それ以来、連絡も取らなきゃ、何もしなかった。
もちろん会うのも久しぶり・・・
でも、この日会った親父は・・・少し様子が違っていた。
カフェのオーナーの計らいでこの日は仕事を切り上げ、親父と話をした。
私が住んでるアパートで・・・。
「いきなり何しに来たんだよ、親父。」
「あぁ・・・お前に伝えたいことがあってな・・・」
親父は少し笑いながら、グラスに入ったビールを飲み始める。
私はその様子に違和感があった。
見た目とは違い、頑固で口下手な親父とは少し違った雰囲気だったから・・・
「椿・・・父さんな・・・あと少しで死ぬらしい・・・」
「は?いきなりなんだよ。冗談だろ?」
「いや、医者に言われた。末期の胃がんだってよ・・・」
親父はまたビールに口をつける。
「マジかよ・・・」
私の前に突きつけられた現実。
10年間、確執状態の親父と私はどう向き合うか迷った。
私には・・・親父しか肉親がいない。
だから迷った。
「父さんな・・・お前に最後は看取ってほしいと思ってな・・・今日来たのはそれだ。」
「いきなりそれかよ・・・自由に振舞って、苦しめといてそれかよ、信じらんねぇ。」
私はグラスに入ったビールを一気に飲み干した。
(病院5階 親父の病室)
「親父。」
「ありがとな、椿」
私は親父を見取ることにした。
迷った
ずっと迷った。
親父を看取るのかどうか・・・。
10年の空白の時間を、数ヶ月のものすごく早い時間で埋めようと私も親父も必死だった。
2ヵ月後
親父は少し笑って死んだ。
家族は私だけになった・・・。
病室の整理をしている時、引き出しから手紙が出てきた。
痛みに耐えながら書いたのか、いつもとは違う筆跡になっていた。
そこには、今までの謝罪とかいろいろ・・・
私は、手紙の最後に書かれていた遺言が気になった。
“家に帰って来い。”
その言葉に・・・




