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9話 くる日

 多少のさじ加減が、不幸をまねく。だから、おちおち昼寝もできなかったりするのに。

 そんな気も知らないで。



  * * * *



 今日は、とても澄んだ空で。どこまでも、高く続く青のようだ。

 まばらに広がるうすい雲は、測りを務めるかのように上へ上にと重なり、姿を映している。

 カーテンの隙間から見える空は、とても狭くて。内側から見るだけだの印象だと、空はちっぽけなものでしかない。そんな形。


 クシで髪をとかす彼女の動きは、少しの淀みもなく。

 実物と鏡に映る彼女にも、少しの違いもなく、そこに。


 今朝の彼女の朝食は、昨日の夕食の残りだった。

 徐々に暖かくなるリビングと共に、温まる鳥のから揚げと白いご飯。くるくると電子レンジに回されながら熱をおびていく。

 本意ではない体温。苦痛でもない上昇。


 湯気の上がる、ご飯とから揚げ。それに、冷蔵庫から取り出された、小皿に盛られたサラダを足す。プチトマトとうすく切られたきゅうりが、朝食に彩りを与える。

 うす茶色のランチマットが、今日のカラーだ。


 玄関を出て、外気の温度に震えた彼女は、コートの上から両腕を交差させ、同一のそれらをさすった。白い手袋が上下して、見え隠れするはずの赤い生地。その存在は常に消え入ることなく、繰り返しの摩擦力を蓄えている。

 そして、手袋と同じ色のマフラー。

 指の別れていない手袋で、器用に郵便受けを覗き立ち直ると、彼女は一度大きく震えた。

 そして歩きだす。

 すれちがう風を気にもとめないで、今日も彼女は坂道をのぼりきる。



 遠く彼方で飛ぶ飛行機を、包み込む空。

 見上げることしかできない包み紙。想うことで存在する、水色の包装紙。


 白い息が上へと進む。

「わぁ、空が高い」

 揃えられた彼女の前髪が、微かな重さで左右に別れた。

 グラウンドはまだ静かで、フェンス越しものどかな一時。

 通りを行く車が影を作る。

 そんな繰り返しの動きを、澄んだ瞳で追う彼女がいる。先ほど別れた彼女の前髪は、音もなく元通りになっていた。

 風が吹く度に場所を変える、髪の毛先。数分も変わらず、一点を見つめる彼女。

 ものの動きを追う、黒目が動く。いつしか彼女は、ぼやけた自らの視界に目を預けていただけのようだ。

 いつの間にか、グラウンドがにわかに活気づき始めていた。土香りの流れにのって、並び重複する声。広がった空気が反響している。

 彼女のぼやけた視界は一瞬でどこかへと流され、黒目は一二度左右に迷いを見せた。

 フェンスに寄り添うかのように立つ彼女の頬が、わずかに染まった。マフラーは、顔へ吹く今日の寒さを防いではくれないのか。


「よ、よう」

 また一瞬、彼女の黒目が迷いを見せた。声のした方を、彼女の目線が包む。

 まだ明るくなりきらないこの時間帯。空の青も、水色といったとこだろうか。

 その空を背景に、そこに立つ男のするマフラーも同色だ。

「あ……」

 彼女の口から小さくもれた呟きは、弱く吹く風に流された。マフラーの下で、彼女の喉が小さく動く。

「おはよう」

 言葉の後に出、切れた白い息が再度吐かれた。

「ああ」

 男は短く答えると、おもむろに彼女の隣、どちらが手をのばしても届く距離に、立ち位置を移した。

「久しぶり」

 男の低い声が、車道を行く車に合わさりながら彼女の耳に届いた。

 一人の時とは違う、彼女の瞬きの回数。口元をマフラーで隠すように、首をすぼめている。

「そうだね」

 そっけなく声だけで答える彼女。落ち着きのない睫毛。

 通りすぎる動きの雑音が二人を束ねて、空間を作っている。細やかな鳥の鳴き声など聞こえない、さながら雑な玄人。

 放っておいたら、崩れ落ちてしまいそうなカラ時間。


「男の手紙、待ってる! って……」

 唐突に切りだした男の発言は、大きく空気を壊した。

 車道とは空気が隔たれた。

 彼女へと向けられた男の強い視線。彼女はと言うと、その視線を受け流すわけでもなく、反らすわけでもない。ただ男を映す黒目。

 マフラーから浮き飛び出て、あらわになった彼女の口元は小さくひらいている。

「な、なんだ…それかぁ」

 彼女の目は動かず、あいた口から声だけがもれた。

「なんだ、って?」

 彼女の様子がおかしいとでも思ったのか、男は眉をひそめた。

「い、いえ! えっと、手紙……?」

 掌をマフラーの前でせわしなく動かす彼女。問いを思い出したからか、明るく声をあげた。

「ああ」

 彼女から車道へと向き直る男。

「そいつとはどんな関係なんだよ。もしかしてつ、付き合ってるとか……」

 段々と小さくなり、消え入った声。雑音は穏やかに、数えも少なくなっている。

 彼女は体をななめにして、そんな男を見ている。

「そんなんじゃないよ」

 彼女は左手で、首辺りの後ろ髪触った。マフラーに抑えられ、心なしか輝く髪。

「八年前にね、ちょっとあったの。隣に住んでいた同い年の子でね、すごく仲良かったの。ちっちゃな頃から」

 彼女の言葉が切れると、男は彼女を見て催促をする。

「……で?」

 彼女の目が、ゆっくり大きくひらかれた。

「でも、お引っ越ししちゃったの。その時に約束してくれたの。……手紙のこと」

 それから男はしばらく黙り、彼女もそれに習い口をとじていた。

 幾台の車は通るも、バイクは一台も来ず、変わらない場面と音響。

「だからって毎日来て手紙待ってるなんて馬鹿みたいだ」

 いつも唐突に投げ掛けられる言葉。知りたいから聞く。問いたいから問う。否定したいことはそうする。

 自分の――男の――真っ直ぐな意思。

「そんなことないよ」

 男の右手が硬く握られた。だけどそれは、真っ直ぐ、正面遠くを見つめる彼女の目には入っていない。

「大切な人だから。待つのは当たり前だよ」

 清々しく流れる、声と一瞬。繰り返されることなく、ただ一度の声明。

 崩れだす足音は、もうそこ近く。







本当に…あの、遅くなりまして…(-△-;)


これからも遅くなったりあるかもしれないので、ブログにちびちび報告していきます(汗)

話数的にあと少しなので、見捨てずに付き合っていただけると嬉しいです(^v^)

……できればお願いします(?)


お読みいただき、ありがとうございました。

(次回) 16日とか17、18とかに……(涙)


個人的に(?)この回は感想いただけると助かります(^^;)


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