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8話 数日間


1月22日にメッセージをくださった方、ありがどうございました。匿名ということで、この場で伝えるしか方法が思いつきませんでした。とても嬉しかったです。


では、本文をお読みください♪

 これからも、きっと。

 ずっと、そう。

 時間は流れることを変えはしないのに、その中には変えられないものがあるから。



  * * * *



 昨日の暖かさなんて嘘のように、薄着の彼女を冷やす冷気。

 ガラス戸越しから見える、ほのかに白く霜の降りた景色にみとれた様子の彼女。柔らかく変わる目と口。彼女は微笑みながら、遠くどこかを見つめ、冷たい板ガラスに左手でそっと触れる。

 体温のかよった彼女の素肌と、外気に冷やされた透明板が触れ合うと、そこにはたちまち白い跡が生まれる。放ってしまえばすぐに消えてしまう程度のもの。

 体との距離が近くなればなるほど、温かい白に染まる冷たいもの。


 白い縁側その下に、きちんと二つ綺麗に並ぶピンクの履物。

 庭に出た彼女の足下は、見るからに寒そうなピンクのサンダルで、白い足首がより綺麗に見える。

 芝生の感触を確かめるように、爪先をパタパタ上下に数回動かす。そんな彼女の口元は深くため息をこぼしていて、すぐに上唇に下のそれが覆われた。足の動きが止まると同時に彼女は目を伏せた。

 霜の降りた芝生は、短いながらも確かにそこに伸びており、かぶさる重さにしなりをみせることなく生きている。もっと言えば、白く冷たいそれを利用して朝日を反射し、燦然とキラキラ輝いている。

 遠くから、少しずつ大きくなる音。

 彼女の家の囲いは緑の葉をつけた植物で、標準サイズの彼女が横に立つとちょうど胸辺りの高さだ。

 聴き慣れた音が近づき、合わさる瞬間。緑の境壁の上を白いヘルメットがすべっていく。上下せずに前方――彼女から見た左――に迷いもなく進んで消えた、底辺が欠けて見える少し傷ついた白い球体。

 彼女は肩をすぼめて震えだし、細く永い息を吐く。踵を返して家の中へと入り、ガラス戸をしめた。

 縁側の下には少しだけ揃えられたサンダル。それと石の床との間から、何かが染みだす姿を残して、彼女は寒さを切り放した。


  * * * *


 昨日とは違い、暖かい空気。霜が降りていないことや、家族がすでに起きていること。

「タッくん」

 縁側にちょこんと座る青い背中。振り向いて笑う、無邪気な表情。くっきりとえくぼがでている。

「おはよう。大丈夫? 寒くない?」

「さむくないよ。あったかい」 牛乳のたっぷり入ったコップを両手で持ちながら、にっこりと明るさを彼女に返したタッくん。

 その姿をみて彼女の暖かさも増したようで、口元が優しく緩んだ。彼女が隣に腰かけると、タッくんは行儀よく下げていた足をバタバタと動かした。

「牛乳美味しい?」

「うん! お姉ちゃんはキライなんだよね。おいしいのに」

 タッくんは、コップに口をつけてチビチビ牛乳をすすっている。

「今日は動物園だね。何が見たい?」

 頭一つ以上小さな高さにあるタッくんの顔を、のぞき込むように適度に頭を傾ける彼女。

「んーとね。んーんと……キリンさん!」

 タッくんはコップを両手で守るように膝に置いて、こぼさないようにか顔だけを彼女に向けた。

 彼女は何も言わないで、ただ口をとじたまま口角を上げて微笑んだ。

 またタッくんは、のばした足をバタバタさせている。靴下の柄はゾウさんだ。

「タッくんももう十歳になるだね。誕生日おめでとう」

「うん!」

 家の中では二人の両親が動きまわって、それぞれの準備をしている。動物園と遊園地。のんびりやな家族は、早くに出発しなければ、大切なお祝いの日を有意義にすごせないらしい。

 タッくんの持つコップの中の牛乳が半分くらいになった頃。今日もまた、緑の壁の上を白のヘルメットが走っていった。

 彼女はそれを見届けると、胸をなでおろした。目をつむり、息を吐く。白い色はついていない。

「さ、もう中に入ろ? 風邪ひいちゃうよ」

 立ち上がる彼女を見ても、何も言わずに牛乳に口をつけているタッくんに問いかけた。

 タッくんは首を横に振った。牛乳を一口含む。

「ちっちゃなころ。まいにち、お姉ちゃん――灯ちゃんがいて、お兄ちゃんがいた。ボクのキオクがおかしいのかな」

 彼女はガラス戸の取っ手に手をかけたまま、動きをとめてタッくんを見ている。

 少しひらいた戸は、寂しく冷たい風を家の中へと招き入れている。

 風の流れはとまらず、日の光も絶えずそこにある。違いは、目には見えず、耳にも聴こえず。

 彼女は眉間にシワを作りながらも微笑み、タッくんに向けた。

「ううん。タッくんの記憶違いなんかじゃないよ」



  * * * *


 昨日と一昨日、連休を通しての今日。彼女の当たり前の日々がぐるぐると回り、どこまでも続く。

 朝早く起きることが全てではないし、フェンスを背に郵便やさんのバイクを待つことが彼女の仕事でもない。ただ――。

 繰り返しそうしてきたことは、簡単には崩せない。

 時間も行動も気持ちも。


 時間は流れることを変えはしないのに、その中に変わらないものがあるから。


 彼女はフェンスのあるこの空間に身を委ねる。首もとには白いマフラーを忘れない。目をとじることもあけることもして、彼女はそこに立っている。

 いつものように、グラウンドには背を向けて。

 今日も彼女は、誰かからの手紙を待っている……。








期日はなんとか守れました(^v^;) よかった…。


えっと、騒ぎなどありまして、不快に思われた方もいると思います。

私は今まで通り書き続けますし、私自身はあそこまで騒がれることをした覚えは全くないです。(熱くはなってしまいましたが…)


傷ついてへこんで体調がいつも以上に悪かったので、弱気にもなりました。

読者さんがどう思っているのかとかとても不安でした…。一人でも待っていてくださる方がいたらそれだけで、くらいの気持ちで書きました。


ブログはじめました。評価欄に書き込んだり、メッセージを送ったりは気が引ける、といった読者さんがいるとしたら少しでも交流出来たらなと思いまして。気軽に覗いてもらえたら嬉しいです。(作者ページあたりからとべます)

では、読んでいただきありがどうございました。


(次回更新は2月の1、2日を目標にします)

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