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4話 ある日の会話

 黙る背中を見てもわからない。笑顔を見つめてもわからない。言葉を聞いてもわからない。

 君の。あなたの。本心がわからない。

 そう、誰もが。

 いつだって隠している。




  * * * *




 彼女がいつも立っている場所から学校までは二百メートルあるかどうかだった。今日は普段よりも車の通りが多く、少し活気づいた車道を横目に、彼女と男は前後にわかれて歩いている。

 歩きながら、と言う言葉を鵜呑みにして、男は彼女の後ろ姿を見ていた。男からしてみれば、後ろ姿は、最も見慣れた彼女の姿だ。

 少し茶色がかった髪が腰の上辺りまでのびて、歩を進める度に揺れている。

 一つ、男は違和感を感じていた。同じ後ろ姿であるはずなのに、何かが違う。今日の彼女は、男にとってのはじめての光景である赤いコートを着ていた。でもその大きな違いに、男は違和感を感じることまでしかできていなかった。髪を何センチ切ったかどうかを気づけとまでは言わないけれど、コート――しかも赤いコートを着はじめたことに気づかないなんて……。

 男の首元でかすかに憂いの雰囲気をつくっている水色のマフラーが、妙にさみしい。

 すずめだかツバメだかわからないけれど、鳥がいくら鳴いても彼女は黙ったまま歩き続けている。それでも男は何も言わずに彼女を見ていた。飽きることもないし、逸らすこともしないで。

「あっ……」

 突然彼女が声をあげ、男の方に振り向いた。髪が風の流れに乗ってささやいた。

「ごめんなさい。歩きながら話すとか言っておきながら……悪い癖です」

 ささやかに表情をつくりながらも、普段の彼女よりもうつ向き気味に謝る。彼女より頭一つ以上背の高い男には、今の彼女がどんな顔をしているのか知ることができなかった。声色で心情を察知できるほど、きっと男は全てに敏感ではない。それこそ――

「で、なんでいつもあそこにいるんだ?」

 ――それこそ、この男は鈍感な方だから、読み取ることなんてできるはずもなくて。こんなふうに言葉を投げられる。彼女が受け取り、当たり前のように返せるのだと信じて疑わない。

 男の言葉を聞いて、下を向いていた彼女は、上目使いに男のマフラーに隠れた喉仏あたりに目をやり、数回瞬きをした。その間も男は彼女の見えない表情を見ようともしないで、一心に彼女を見つめ、その言葉に耳を傾けている。

 彼女は何度か軽く頷きながら、目を力強く見開き、深めの呼吸をした。

「大切な人からの……手紙を待ってるの」

 右肩に鞄を掛けている彼女の、自由でいて居心地の悪そうな左手が、赤いコートの裾に隠れている。

「大切な……それ男かっ!?」

 男は数歩先にいる彼女に歩みより、掴みかかるような勢いで大声を発した。

「えぇ? あ、たぶん……」

「たぶん!? たぶんてなんだよ」

 男はすっとんきょうな声をあげた。それを取り繕う様子もなく、彼女に答えを求める。電線にとまったすずめかツバメが二人を見ていた。

「いや、あの……あまりにもあなたの勢いがすごくて……」

 彼女は目を大きく開き、黒目は男に注目している。口ごもりながらもなんとか言い終わると、体を半分に折り、頭を下げた。

「それじゃあ、私、もう行きます。……それじゃあ」

 男と必要以上に目を合わせることなく、逃げるようにそそくさと道を進んでいき、右に曲がり校門に吸い込まれていった。

 男は、また後ろ姿を見ていることしかできなかった。愕然としていて、鞄を地面に落としてこそいないが、後ろから背中に衝撃を受けたなら、はらっと前かがみに倒れてしまいそうだ。

 そう、後ろからの衝撃は、本当に危ない。でも、後ろばかり気にしてもいられない。だから、弱い。だから、疲労がたまる。だから、ちょっとしたことで過去を思いだしてしまう。

 後ろも見ないといけないから、人間はいつまでたっても過去を忘れられない。……忘れたくないから、後ろを見る。

「男……」

 そう呟きながら、男はマフラーに左手をかけた。目をつぶりながらマフラーの内側に口元を寄せると、そこに彼女はいなく、自分を感じることしできなかった。


 きっと、今日も男は風邪をひく。








寝起きに誤字脱字チェックなんて、初の試みをして更新しました。


お腹がすいた……お母さんはまだ寝ているので、ひとりさみしく買い置きの菓子パンを食べることにします。

眠気と寒さにぶるぶる震えながらの後書きですので、いつも以上に意味がわからない文章かもしれません……



心も、不安すぎて震えているので、感想、批評、アドバイスなど、気づいたことありましたら、教えてくださると嬉しいです。



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