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2話 翌朝

 佐々木灯は、どこにでもいるような女の子だった。それ故に、どこにもいないような女の子だった。

 もし、どこか一つ特徴をあげるとしたら、朝早くから行動しだす所だろうか。でも、誰も彼女の行動の意図を知る者はいなかった。まあ、誰が何をしているかなんてどうでもいいことで。そんなことよりも、どうしたら自分が楽に幸せに生きられるかを考えた方が得策なわけで。

 もはや当たり前の、そんな考え方を無視して、彼女に近づこうとする一人の男がいた。

 厄介ごとは簡単に訪れるから、長々と説明はしない。それに、男が女に近づく理由なんて数えるほどしかないよね。

 それで、何を言いたいかと言うと、彼女にとってその男の存在は厄介ごと以外の何でもないわけ。踏み込まれたくない一線は誰にでもある。そこを越えられたら、温厚な彼女も不快感を感じる。

 最初は、ね。




  * * * *



 彼女は今日も、家族の誰より早く目を覚ましていた。


「マフラーしてきてよかったぁ。うーっ 寒い」

 首にぐるぐると巻いたマフラー越しに握りこぶしを口にあてる。手袋をしていない彼女の手は、例のごとくかじかんでいた。

 冷たい空気、空間とフェンスは、なにも言わずにただそこにある。

 寒さを少しでもまぎらわそうとその場でぴょんぴょんと飛びはねだした。

 体温が上がり、肌と服の間の空気に温かい色がつく。

 彼女が、右を向くと、そちらからまたあのバイクが来た。バイクに乗った男は、彼女の方に顔を向けると、ヘルメット頭をぺこっと下げた。

 それを見届けて、彼女は歩き出す。

 彼女の一日はそうはじまって、そう終わる。

 彼女が毎日立っている場所から学校までを、平坦で静かな道が繋いでいる。それがこの道をこの方向で歩く時の唯一の救いだった。


 暖かな風がふわりと頬をかすめるときも。

 熱気の日射しを全身に集めるときも。

 今みたいに自らの体温を愛しく思うときも。

 冷たい風が体をつき抜けていくときも。

 毎日彼女は、この道を歩いてきた。そしてこれからも歩いていく

 変化があるとかないとか関係なしに。


 一台の黒い車が彼女とすれちがう。

 とても静かに。



「いたっ! なに…」

 不意に彼女は背中に衝撃を受けた。そこに左手を当てながら、足下を見ると、黒い鞄が落ちていた。

「鞄……」

 彼女はいぶかしげに首を傾げ、しゃがみながら、鞄を手に取った。

「悪い、それ俺の」

 目線を落として鞄を見ていた彼女が上を向くと、数歩後ろに男が一人立っていた。彼女と同じ学校の制服だ。黒のスタンダードな制服は、女子のそれとは違い、手のこんだ箇所など皆無だ。制服も黒いうえに、髪も黒い。真っ暗だ。真っ黒だ。

「手が滑った」

 彼女の背中に伝ったた衝撃と比例するほどの手の滑り方ってどんなだろう。無器用って可哀想。

「あ……」

 戸惑いつつも、彼女は弾けたように立ち上がり、鞄を男に手渡した。

男は軽く頭を下げながら

「どうも」

と呟いた。

「あのさ…」

 頭を上げたかと思うと、今までの調子とは違う長文を吐き出した。

「アンタって、毎日あそこに立ってるだろ? 朝早く。何してんだ? ……あ、これは別に、俺がアンタのこと見てるとかそういうんじゃなくてだな。たまたま、今日早く目が覚めたから、気まぐれに早めに学校行くのも悪くないかなと思って。それで、アンタがたまたまそこに立ってたから、こんなに朝早くにどうしたんだ、と思って……思ったから」

 一見して無口だと思っていた男が栓が抜けたように話し出したことに驚き、彼女はただただ目を丸くして男を見ていた。

 すると突如、男は顔を真っ赤にして、それを隠そうとするかのように、左腕の肱辺りを近づけるよう、顔をくっつけた。そして、さりげなく横を向いた。

「何……見てんだよ」

 まだ顔を真っ赤にしたままの男は横目に彼女をにらむように視線を定めた。

 腕は、顔を隠しきれず、声は、心を隠しきれず。

 彼女は、男の言動の意味が分からず、まばたきを何回もしながら男を見ていた。

「あの、顔真っ赤だよ。熱でもあるんじゃ……。最近寒くなってきたから、気をつけないとだめだよ」

 男は腕を中段あたりに戻しながら、呆れたように彼女に投げかけた。

「は? アンタ何言って――」

 ふわりと、男の頬に温かさが触れる。

 彼女は背伸びして自分のマフラーを男の首に巻きつけた。

「よかった、今日は水色のマフラーで。いつもは黄色か桃色なの。……桃色じゃなくてよかった」

 一、二度クスッと笑いながら、男の首元を見て、満足そうに微笑んだ。


 足早にその場を後にする彼女を、またまた顔を赤らめた男は立ち尽くし、見ていた。

 勇気をだしてのはじめての接触は、目的を果たせぬまま、時間ではなく彼女に、終わりを告げられるまでもなく去られてしまった。

 後に残ったのは、彼女の後ろ姿と、温かい水色のマフラー。

 黒色の男。水色をワンポイントに。


 さあ、何がはじまる?








読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。


ちょっとずつ更新していきたいと思います。

ふー 連載って難しいですね( ´ー`)

二回目でこんな感じですが、最後まで書き続けるので、次回も読んでもらえるといいです!(?)


まだまだ序盤ですが、感想、評価、アドバイス、気づいたことなどあれば、書き込んでもらえると嬉しいです。


お付き合いいただき、ありがとうございました。

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