第 2 章 魔法 (2)
2.2.1. 建国暦 4220.03.14 : ローランド国 - ザルト山脈
ローランド国カーサシス州の東に、南北に連なる山脈がある。ザルト山脈。山々の中で最も標高が高いジアムール山は、 14.2 × 10^3尺の高さを誇る。メートル換算で 8,520m だ。 8,800m 超のエベレストには及ばないものの、天を突くような高さだ。
俺たちはザルト山脈の向こう側に用があった。
ジアムールを筆頭に 7,000m 級の山々が 60 座以上も連なるザルト山脈は、気象が変わりやすく、道らしい道もない。山越えには不向きな地形だが、かといって迂回するには距離がありすぎる。ではどうするのかと言うと、飛行体で山越えするのが手っ取り早い。
しかし、街乗りの飛行体では高度が足りないし、航続距離も足りない。ザルト山脈を一っ飛びに越えたいなら軽量なペガサス級、もしくは激しい気象にも対応できるドラゴン級のスペックが必要だ。
俺はドラゴン級飛行体の窓から、雲を突き抜けたジアムールの山頂を感慨深く見下ろした。雪に覆われたジアムールは、人を寄せ付けない厳しさと、人を惹きつける魔力を持っているように思える。
「シドー様はザルト山脈は始めてですか?」
エリアルさんが柔らかいアルトで問いかける。まだ少女のような外見を持った美しい成人女性だが、リティとはタイプが異なる。可愛いよりは、儚く美しいという形容が似合っている。
瞳は濃い青。背中まである長い髪は水色で、青を基調としたチュニックに映えている。特筆すべきはその下半身だろう。白い毛並みの胴体から、細く締まった 4 本の脚が伸びている。
ケンタウルス族のエリアルさんは、上半身が人間、下半身が馬の特徴を持っている。
彼女の種族は、普通の席に座ることができないから、広いスペースが確保できるドラゴン級で目的地に向かっている。飛行体もこのクラスになると、俺たち 4 人の装備を積んでも、収容スペースが余裕で余る。エリアルさんは開いたスペースに足を折りたたみ、行儀よく座っていた。
「様なんてつけなくていいですよ。エリアルさん」
「では、シドーさんとお呼びします」
エリアルさんは軽い笑みを浮かべた。
「様よりはその方がいいですね。エリアルさんの言った通り、ザルト山脈を越えるのは初めてなんですよ。何もかもが美しく見えます。中でも白く雪化粧されたジアムールは格別ですね。あの山に、いつか登ってみたいものです」
「ジアムールは、自力での登頂に成功した者がいない過酷な山です。冬場は特に危険で、山間に踏み入ることすら危険です。自殺行為だと思いますよ」
「前人未踏の地というわけですね」
「飛行体を使った探索はされているようですけど」
「山があれば登ってみたくなるもの。それがロマンです」
と言いつつ、登山の経験は皆無なわけだが。
「まだ見ぬ風景を求める、冒険者の心をお持ちですね。
シドーさんは冒険者になって間もないとか。砂虫はレベル 8 指定です。不安はないんですか?」
レベル 7 とレベル 6 の蟲を討伐したチームの俺たちに、ローランド国から依頼があった。より正確には、政府から冒険者ギルドに依頼が出され、冒険者ギルドは現在もっとも実績のあるエセルデに依頼を出したのだった。
その内容は、リーティング州の向こう側に広がる砂漠地帯に出没する砂虫を退治して欲しいと言うもの。討伐にかかる経費はギルド持ちで、チーム編成はエセルデに一任された。いくつかの回避不能な条件はあったが、その 1 つに、エリアルさんを見届人にするというものがあった。
エセルデが選んだのは、バルバドスと俺を含めた 3 人。エリアルさんを入れても 4 人だ。政府やギルドは、まさかたった 4 人のチームで討伐に行くとは思ってもいなかっただろう。エリアルさんが一番焦ったのではないだろうか。
通信機で呼び出された俺は、飛行体に乗ってからその内容を知らされたわけだ。道具一式はエセルデとバルバドスが用意したし、俺の方は準備に時間がかからないからいいんだけど、行き先不明の旅に連れて行かれるって、水曜どうでしょうか。とりあえず言われた通りに着替えと戦の準備はしてきたが。
俺は、操縦席と副操縦席に座るお気楽獣人の後ろ頭を見ながら、肩をすくめた。
「不安ですけど、考えてもしょうがないことは悩まないことにしてるんです。せいぜい足を引っ張らないよう、フォローに徹しますよ」
「ククッ……グハハッ!」
「突然笑わないでください、バルバドス」
「シドーは相変わらずだな。謙虚な振りして煙に巻きやがる」
「別に振りなんかじゃありませんよ!」
謙遜は日本人の美徳だっつーの。失敬な虎だ。第一デカブツが相手だと短剣しか持っていない俺は戦いようがないじゃないか。
「よぉ、ねーちゃん。蟲退治は俺たちのチームでやったことにはなってるがな、ほとんどシドーが単独で殺ってるんだ」
「えっ……そうなのですか?」
「その通り。実力に関しては心配いらん。儂らとタメを張ると思って良い」
「いやいや、訓練のデータを無視してるでしょう!」
「あんなもんは最低限の動きができるかどうかを見てるだけだ。俺や爺さんは、シドーが戦力だと判断してるぜ。だから俺の分まで働いてくれや」
「なるほど。エセルデ様に匹敵する冒険者が 3 名のチームだったのですね。それは頼もしいです。失礼致しました」
「違いますよ!?」
頭を下げるエリアルさんに手を振って否定する。ヨタ話を信じられちゃたまらん。つーか何 2 人分働かせようとしてるんだバルバドス!?
「というわけで近接にバルバドスとシドー、中距離が儂、長距離にエリアルを考えておる」
魂の叫びがあっけなく流され、戦力として組み込まれてしまった。しかも近距離だし。
「砂虫相手に近距離とはぞっとしねぇな」
「素人に何て配置を……鬼ですか」
近距離組の心境はビミョーだ。
そうこうしているうちに、ドラゴン級飛行体はザルト山脈を越えてしまった。ゆっくり景色を見さしてくれよ。
山脈の東側にも、麓に深い森が広がっていた。ちなみにザルト山脈の西側は、ローランド国の王宮がある森だ。俺たちが蟲の大集団に邂逅した場所でもある。
高度を落として森を通過するときに、村の子供たちに手を振られたりした。和む。
リーティング州には、都市と呼ばれるほどの街はなく、大きなものでもせいぜい町レベル。そのため州の区分はかなり大雑把で、森を南北二つの市で分け、北ザート市、南ザート市としているだけだ。
俺たちが目指すのは、北ザート市のエスパ町だ。その先に広がっている砂漠のどこかに、砂虫がいるらしい。
2.2.2. 建国暦 4220.03.14 : リーティング州 - エスパ町
森と砂漠の境界、エスパ町に降り立った。
「相変わらず砂まみれの町だぜ」
バルバドスがぼやいた通り、エスパは砂にまみれている。道は歩くたびにじゃりじゃり言うし、風で砂が舞うので目に入って痛い。大口開けてしゃべっていると、文字通り砂を噛むことになる。
バルバドスやエセルデは、砂が入らないように布を顔に巻いてガードしている。
2 m オーバーの 2 人が顔を隠していると強盗にしか見えないのだが。エリアルさんは黒いベールを着けた貴婦人スタイルだ。
俺も真似をして、いつもは肩にかけておく布を顔に巻いて目と口を守った。意外と目に入らなくなった。布イラネと思っていた時代もあったが、その土地の格好には何かしらの意味があるんだと正直感心させられた。
俺はおのぼりさん気分でエスパの町を見回した。そこには、センダー都市とは違う白い町並みがあった。
大通りの左右には高くても 2 階建までの建物が、軒を連ねている。大通りにある建物のほとんどが、生活物資の店か金持ちの家だ。一般市民は大通りから分岐した小道に家を建てている。
東を見れば一面の砂漠であり、西を見れば森の向こうに大いなるザルト山脈が見える。行きかう人々は、俺たちと同じように布を巻いて顔を保護していた。
「傍が砂漠なんだから砂が舞うのはしょうがないでしょう。活気にあふれたいい町じゃないですか」
「ハン」
バルバドスが投げやりに言葉を返した。
俺たちはエセルデを先頭に、装備を持ってエスパの港へ向かった。バルバドスは最後尾でついて来る。様子のおかしい虎族に内心首を傾げていたが、そんな些細な違和感は、港に着いた時に綺麗に消え去ってしまった。
港には、俺の見たことがない風景が広がっていた。
視界が日没のオレンジ色に染まる中、 1 艘の船がエスパの港に入港した。 3 本マストの帆船だ。しかし、その船が浮かぶのは、海ではなく砂漠なのだ。
俺は目を見開いた。
「砂の上を走る船……」
帆船は砂上を掻き分けて停泊し、荷物を搬出し始めた。
おお、なんて神秘的な光景だろう。この世界には、俺の想像もつかない光景がある。
「素晴らしい! あの船も魔具なんですか!?」
「そうじゃ。飛行体や走行車の中間に位置する乗り物じゃな」
「帆に風をはらみ、砂の海の彼方まで往く船というわけですか」
「シドーさんは詩人ですね」
「心が揺さぶられるようです。凄い……」
帆を張った巨大な船が、砂の上を滑走していく姿は圧巻と言う外ない。
間近で見たジアムール山の雄大な姿には畏怖を覚えたが、砂船にはそれとは別種の感動があった。
しかし、その感動を感じていない奴もいる。
「やっぱ俺は飛行体で行くからな」
「いまさら何を言っておるんじゃ」
「ドラゴン級をぶち当てれば、砂虫だろうが星虫だろうが一撃だろうが」
「いやぁっ! それだけはご勘弁を!」
装備の入った大荷物をかかえたバルバドスが引き返そうとするのを、エリアルさんがしがみついて止めた。
たかだが害獣を退治するのに、大金貨数千枚の砲弾を使われては、たまったもんじゃないだろう。
バルバドスが荒っぽいのはいつものことだが、この依頼に関しては妙に敬遠している素振りがある。砂虫だろうが 5 m 大のミートボールだろうが、喜んでハルバードを振り下ろしてそうなものだが。
「この依頼、バルバドスは乗り気じゃないようですね?」
俺はエセルデに聞いた。
「バルバドスは砂が苦手なんじゃ」
「砂虫ではなく砂が? どうしてですか?」
「昔、砂船から落ちて溺れたらしい。ガハハッ!」
「爺さん、うるせーぞ」
「溺れた? え? 砂って、溺れられましたっけ?」
「それはバルト砂漠の性質によるものです。
ここはそれほどでもありませんけど、東へ行くほど砂粒が小さくなります。更に進むと肌理細かなパウダー状になり、砂に流れが出てきます。
シドーさんが仰った通り、砂の海ですね。落ちた人間は、砂の流れと自らの重さで沈み込んでいきます。バルバドス様が溺れたのもそういった場所なのでしょう」
砂が嫌いだから、エスパ町に入ったときからぼやいてたのか。虎が蟻地獄に飲み込まれているところを想像するとシュールだ。
「バルバドスが溺れたって……フフッ」
「笑いごっちゃねー。お前も落ちてみろってんだ。あっという間に沈んで身動きが取れなくなるんだぜ」
「そんな不安定な足場で、どうやって砂虫を狩るんですか?」
「足の速いヨットに乗って攻撃するんじゃ」
はて、ヨットに乗ったまま短剣を振り回して、巨大な砂虫に痛痒を与えられるのか? 掠った程度にしか傷つかないと思うのだが。
「ダメージを与えられないと思いますが、もしかして、毒を使います?」
「いや? そもそも毒なぞ持ってきておらん。シドーとバルバドスには、砂虫の上に飛び乗って攻撃してもらおうと考えておる」
「冗談ですよね?」
「だから嫌なんだ」
「砂虫の上でって……砂漠に落ちたら沈むんじゃなかったでしたっけ?」
「そこはクルーが上手く拾い上げます。私も少し無茶な気がしないでもありませんが、エセルデ様の作戦ですので、信頼しています」
クルーに拾ってもらえなかったら、俺たちは砂の海に輝く星になるのだろうか。
俺とバルバドスは、エセルデを半目で見つめた。
「何じゃい。仕方あるまい。人的被害が最も少なそうな方法がこれしかないんじゃから。人海戦術も考えんではなかったが、確実に人死にが出るわい。
それにお主らの役割は変わらんぞ。とにかく斬って斬って斬りまくって、砂虫を出血死させるんじゃ。
その場で倒せなかったとしても、出没しなくなれば討伐したと判断していいじゃろ」
「死骸が確認できるのが一番なのですが、いなくなればそれで構いません。
それでは、当方で用意した砂船に荷物を積み込みましょう」
エリアルさんが先頭切って進み、俺とバルバドスはとぼとぼと付き従った。
「話が違うじゃないですか……」
「シドーには何も話しとらんが」
「ひどい D だ……」
「ディーって狼族のか?」
「ディレクター――この場合は監督とか企画者の意味です」
「同感だぜ」
「ぼやいてないで早よ来んか」
港の端の方に 3 本マストの大きな帆船が係留されていた。クルーが甲板を行きかい、荷物を運び入れる中、俺たちは船体側面のステップから甲板へ登り、そこから階段を下りて船室に入った。
船室は 2 段ベッドが 5 つの 10 人部屋だった。
ベッドの 1 つがケンタウルス族用に改造されている。 3 方をクッションに囲まれた空間と言えばいいのか、要はエリアルさんが脚を折りたたんで座ったまま、寄りかかって眠れるようになっている。床にマットを敷いて、かつクッションを置いているということは、横たわって眠ることもあるのかもしれない。
男女一緒の部屋だが、スペースに限りのある船内では大部屋が普通なのだろう。荷物を積み込んだ後、再び甲板に登り、ミーティングルームで打合せを行なうことになった。
「今夜は船内で 1 泊して慣れていただきます。不足しているものがありましたら、遠慮なく仰ってください。出航予定時刻は明日 12 刻です」
10:00 出発か。砂虫を仕留めるまで長い航海になるかもしれない。その前にいくつか確認しておくか。
「基本的なことを確認してよろしいでしょうか」
「はい。どういった内容でしょうか」
「私たちが乗るヨットは、甲板にくくりつけられていたアレですよね」
「はい、そうです」
「砂虫の速度とヨットの速度はどのくらいなんですか」
「砂虫はおよそ 30 × 10^3尺/刻(エルリー毎ミラ) の速度で地上を進みます。地中にいるときは遅く、その半分も出ないでしょう。
ただし、砂船は 25 × 10^3尺/刻 の速度しか出せませんので、地上にいる砂虫からは逃げることができません。
2 人用のヨットであれば、 40 × 10^3尺/刻 ほどのスピードを出すことができます。風向きによっては、 50 × 10^3尺/刻 まで出せるでしょう」
砂虫よりヨットの方が速いのは分かるが、もうちょっと感覚的に理解したい。この単位系ではそれが難しいのだ。
「計算しますので、ちょっとお待ちください」
エルは 1,000 、尺は 0.6 m、刻は 50 分だ。尺/刻を時速に換算するには、地球の単位系で計算しなおす必要がある。
0.6m / (50/60)h = 0.72 m/h
0.72 を掛ければいいんだな。そうと分かれば話は早い。俺はブレスレット型端末にテキストエディタ型計算アプリを呼び出した。
地上にいる砂虫の速さ 21.6 Km/h
(地中にいる砂虫の速さ 10.8 Km/h)
砂船の速さ 18.0 Km/h
ヨットの速さ 28.8 Km/h
(ヨット最大速 36.0 Km/h)
ヨットの最大速が、アスリートが走る速度くらいか。思っていたより速いな。
「ふむ、作戦を前半と後半に分けて考えると分かりやすいですかね。
砂船を囮にして砂虫を誘き寄せるのが前半。追いかけてきたらヨットで攪乱し、攻撃するのが後半。
前半について確認です。この砂船はずいぶん大きいと思うんですが、砂虫に対しての囮になるんですか? むしろ怯えられません?」
「大丈夫だと思います。この砂船は 80 尺あります。砂虫のサイズは 50 尺程度と見られていますが、このサイズの砂船でも、砂虫に襲われ、沈められています」
エリアルさんは表情を曇らせて、話を続けた。
「砂船を襲えば食料を得られると覚えてしまったのでしょう。味を占めて航路上に出現するようになり、何隻もの砂船が沈められました。
このままではオアシスに住む砂の民に物資が供給できなくなります。砂の民は多くの食料を輸入に頼っているので、この状況が続けば餓死者が出るのは時間の問題で、今はその瀬戸際にいると思ってください。
この大きさの砂船を選んだのは、砂漠のオアシスに物資を届けるためでもあります」
「なるほど、そういうことでしたか。我々は輸送船を護衛する任務も請け負っていたんですね。理解できました。ありがとうございます。
作戦の後半についてはどうなんです、エセルデ?」
「砂虫が出現するのは、砂船の後方からだと思う。待ち伏せされる可能性はあるが、砂虫が潜んだ砂の上を通過する確率はほとんどないと見ておる。速度の点からも、砂虫は地上に姿を現し、追いかけてくるはずじゃ。
儂ら 4 人は甲板上のミーティングルームに詰めて待機する。砂虫が姿を現したら、エリアルは弓矢で時間稼ぎをするのじゃ。
儂らはすぐさまヨットを下ろし、攻撃に向かう。ある程度砂船から砂虫を引き離したら、そのまま殲滅するので、エリアルもヨットに移って攻撃して欲しい」
「畏まりました。ケンタウルス族の神祖に誓って、最後まで貴方方と戦いましょう」
「ならば儂らはチームじゃ。様づけなどせんで名前で呼ぶといい」
「呼び捨てにはできませんので、せめてさん付けて呼ばせていただきます」
「強制はせぬよ」
「あらためて、よろしくお願いします。
今、オアシスからの特産品が届かなくなり、南北のザート市民や、私たち統一機構に様々な影響が出始めています。今回の航海で、砂虫が討伐されることを切に願います。これは統一機構だけの思いではなく、砂漠に関わって生活する全ての人々の願いなのです」
統一機構は、ローランド国を含めた、複数の国家から選出された人員で構成される、バルト砂漠を統治する機構だ。突き詰めていけば、今回の依頼元でもある。
「といっても、砂虫が出るかどうかは運次第じゃからのぉ。二手に分かれることも考えたんじゃが、戦力を分散した状態では、おそらく倒しきれまい」
「発見しても倒せないんじゃ意味がありませんね。私も、最大火力で一気に殲滅するのが最善と思います」
打合せを終えた後は自由時間になった。
「夕食はいかが致しますか? 食堂に行けば無料で食べられますし、エスパで食べて来られてもかまいませんよ」
「俺は外で食ってくる」
いたのかバルバドス。部屋の片隅で空気になってたから気づかなかった。
「儂も外で食べようかのぉ。明日からずっと船内食じゃし」
「シドーさんはどうしますか」
「私は船で食事させていただきます」
貧乏が憎い。しかし俺の金使いに根本的な原因がありそうな気がしてきた。多分気のせいではあるまい。
ともあれ、俺が言いたいのは 1 つだけだ。
「エセルデ。逃がさないでくださいね」
「もちろんじゃ」
「逃げるかっての」
バルバドスの砂嫌いを知った今となってはイマイチ信用できない。逃げたら世界の果てまで追いかけて砂風呂に埋めてやる。
「エセルデ様、バルバドス様。日付が変わる前にお戻りください」
「うむ」
「わあーったよ」
俺は只飯を喰らいにエリアルさんに続くのだった。