仮面
______聖王歴六〇三年 山脈を背景にしたロベルナ王国は、大国に準じる王国だ。
採掘される貴重な鉱物資源は、王国に富を齎してはいたが、それは王族と貴族たちのみの恩恵となっていた。
無能な国王ロベルナ三世は、政事を大臣たちに任せて、自分は栄耀栄華、贅沢三昧をおくる日々を繰り返すのみなのだ。
敵国シーザック王国との国境堺は、毎年紛争が絶えない地でありながら、そこそこの兵力しか配置していなかった。その理由は、背後に本命の部隊が展開していて、敵戦力を図る為の最初に捨て駒にされる地だからだ。
「昨年もこの時期に攻めて来たが。今年はどう思う?」
そうワイングラスを片手に言うのは、その地を任された代官のブライデン。
「間違いなく攻めて来るでしょうが、最前線の捨て駒部隊に任せておけば、今年も小競り合いで終わります。我が国の鉱物資源が目当てでしょうが、我が王国の戦力は万全でございます故」
「ふ、だろうな、レイダン副騎士団長」
その捨て駒にされる辺境の地で、いつも戦いに駆り出される街の名は「オクサリナ」。
「毎回、小競り合いで済んではいるが、それでも死者と負傷者が出ている。それに関してお代官様は何も考えていないとは、無策としか言いようがない!」
そう愚痴るのは、まだ兵士になって一年目のラロ・ケトスだ。
少ない給金が支給されると、仲間と共に酒場に集まるのが恒例となっていた。しかし仲間だった兵士は次第に数を減らして、今は三人だけになってしまった。
「畜生、俺たち兵士は誰の為に、何の為に戦っているんだ!」
「その通りだラロ、だがな......」
酒場で何を言おうが、代官様に報告するような下種な人間はいない。みんな代官ブライデンに不満を持っているのだ。
スパイがいたとしても、この辺りの人間でなければ、まず疑われる。幸い、酒場は顔見知りばかりだ。
「なぁ」とラロは声を絞った。
「貴族と愚王を倒す為の、反乱軍を組織しないか」
「え?」
「何だって!」
突然の言葉に何を訊いたのか、二人共耳を疑うしかなく、理解が出来なかった。
「しっ、声が大きいぞルネス、アレン」
ルネスとアレンは、ラロとは幼馴染で一番信頼できる相棒だ。
「気持ちは理解するが、王国軍十万にどうやって?」
比較的冷静なアレンが、飲みかけのエールを置いて訊いた。
「慌てるな、まず地道に地固めをするしかない。まずはお前たちと俺の三人でな?」
あははは。
「たった三人でか? 笑い事ではないぞラロ!」
ルネスは一体どうやってと言う顔をして、ラロに食い下がった。「だから、これから始めるんだよ」
ラロは安物のエールを一気に飲み干すと、腰から鉄の長剣を抜いて、刀身に映った顔をじっと見つめた。二人はそれは決意の表れだと理解した。
「本気なんだなラロ」
「あぁ本気だ」
圧政の元、反乱を企てていたと知られたら即、処刑されるのは分かっている。
それでも困窮し疲弊した王国民を救済するには、腐った貴族と怠惰な愚王を打倒さなければ、安息の日々はけっしてやって来ない。ラロの決意は、その瞳が確固たるものだと証明していた。
今日、聖王歴六〇三年七月七日は、酒場で運命的と言えるたった三人だけの革命軍が、産声を上げた日となったのだ。
______二〇二六年七月七日は、私の誕生日。
十六歳になった私、新藤桜は毎年、人気のないとある神社に来ていた。その理由は神に命令する為だった。
その神社の御利益は「家内安全」というどこの神社でもある平凡なものだ。
私は別に信仰心がある訳ではないが、信じられない話がお願いではなく、神に命令をしに来るという大着者だった。
そんな私は余りの可愛らしさから将来を有望視され、蝶よ花よと甘やかされて育った。私の願いは、この美貌で億万長者になって、一生贅沢に暮らす事なのだ。
賽銭も投げずに私は言い放った。
「神がいるなら、私の命令を訊きなさい。私を億万長者にするのよ」
神をも恐れぬ物言いを、数年続けたけれど、今まで罰が当った事など一度もない。
そんなお嬢様でもコンビニくらいは行く。わざわざ歩いて行くのは、私に注目させる為だ。
「SNSでもなんでもいい。私の可愛らしさ、知名度を上げる為なら、なんだってやってやる」
出かける時は、ヘアスタイルと服装にも気を遣った。キュートなモデルに見える事が肝であって、ティーン向けモデル雑誌に採用されるのが、今の目標になっている。
近くのコンビニで買い物を終え、ドアを開けた時にそれは起こった。
フロントガラスに高齢者マークを付けた車が、私に向かって突進して来たのだ。
「え? 私、死ぬの? いやぁ」
最後に見たのは老人の引き攣った顔だった。
転移
ドウ
落雷のような音が、酒場「アゲイン」で飲んだくれていた三人の耳に響いた。
アゲインとは戦死した兵士なら、またあの世で会おう。生きて帰ったなら、またも戻れたと喜びを分かち合う、二重の意味があった。喜びも悲しみも、アゲインと言う言葉にに込められている。
「なんだ? 敵襲かもしれん。行くぞルネス、アレン!」
「お、おうよ!」
三人だけではなく、酒場の何人かもラロたちに付いて来た。
「煙が立ち込めている。敵の爆裂玉かもしれん。警戒しろ」
煙が晴れて、ようやく音の正体が何か分かった。
地面に小穴が出来ていて、その中心には妙な服装の女が倒れていたのだ。
「ラロ、この女......顔と体に酷い怪我をしているが、どうする?」ふりふりした服は、この地方の物ではない。
「とりあえず酒場まで運んで、怪我の治療だけでもする。敵のスパイにしては手が込んでいるしな」
「しかし、顔に酷い傷が」
「あぁ、これでは一生残るだろう。生き残っただけでも幸運だと思うしかない」
こうして私は、どこか分からない所へ運ばれた。勿論、私は意識がない間の出来事だった。
いったいどれだけの時間が経ったのだろう。周りのざわざわした声が訊こえたけれど、何語なのかが分からなかった。テレビで洋画でも流れているのだろうか。だとするとここは......。
『そうだった。私はコンビニで......じゃぁ私は病院に居るのね』
薄目が空くと、私の予想は見事に外れる事になった。
粗末なベッドに薄いシーツで、私は包帯を巻かれて横たわっているのだ。
「か、体が動かない」
見知らぬ女が私に向かって、何か話かけて来たけれど、英語でもない外国語に私は混乱してしまった。
その女が私を介抱してくれたのは良かったけれど、まず部屋が暗くて汚い。食事は残飯かと思うほど酷かった。
風呂にも入れず、着ているものは汚れたシーツで作ったような簡素なもので、贅沢三昧をして来た私には、とても耐えられないのだが、よく見ると周りの人間が大抵、そんな服装をしていた。
時々帯剣した男が三人、私を見に来たが、相変わらず何を喋っているのかが理解できないでいた。
テレビもなければ、新聞さえなく、この状況を確認する事が出来ない。
私がここに持って来た物と言えば、ブランドのショルダーバッグに入ったスマホとコンパクト、それに財布程度だ。
スマホの電源を入れるとWiFiは繋がらないけれど、時間だけは表示した。
「事故ったけれどスマホは無事。えっと、今は午後四時?」
電話もメールも出来なかった。
時間表示が出たのは何故だか理解出来ないけれど、地球のどこかには違いないと、その時の私は、そう思うしかない。
「けれど電源がないし、バッテリーが切れたらどうしよう」
私が心配するところは、そこでは無かったのだ。
何日かが経過しても、全く言葉が理解出来ない。相手の女もそうだが名前は分かった。
「つばき」と呼ばれていたからだ。
私も「さくら」と名前だけを伝えると、彼女はにっこりと笑った。語学の苦手な私でも、ようやく簡単な意思疎通が出来るようになったのは嬉しかった。
彼女も男も、中世ヨーロッパかと思える風体で、男が帯剣している所を見ると、貴族社会かと思うしかない。
こんな所で、わざわざ中世騎士ごっこなど、する筈がないのだから。
やっと包帯を取る日が来た。
ショルダーバッグのコンパクトを開くと、別の女が驚いて目を見開いた。
「そ、それは貴重な宝。革のバッグも凄いけれど、あなたはさる王家の......」
何を言っているのかは分からないが、私はその後、気絶しそうな程、驚く事になった。
手がぶるぶると震え、まともに顔を見る事が出来ないのだ。
「夢なのよ、これは夢なんだわ」
頬に醜い傷。腹には打撲の痣。肝心なのは顔だ。
「これで億万長者の夢が、完全に断たれた」
私は自殺したい気分だった。
どこの国かも分からず、時代も言葉も分からず、衛生面は最低。こんな所で、お嬢様の私が我慢できる筈がないのだ。
ただ、名前だけが分かったラロ、ルネス、アレンたちが、この酷い状況の元凶を倒そうとしている事が、彼らの態度で分かるようになった。
「でもそんな事など、もうどうでもいい」
私は、ラロの短剣を奪うと自分の頸動脈に当てて力を込めた。しかし短剣はびくとも動かなかった。
「止めろ、俺たちはな、人の幸せの為に剣を振るう。自殺させるためじゃない」
何を言っているのかは理解出来なかった。しかし生を諦めるなと言う、強い眼差しが眩しかった。
兎に角、生きてみようと私は思い直した。
そこで介抱してくれた「つばき」の計らいで、酒場の給仕をするようになった。
「給仕? この私が?」
料理の名前と注文した客のテーブルさえ覚えれば、案外何とかなるものだ。
現代人の私からすれば計算も出来る為、とても重宝された。酒場の人間たちは言葉は喋れるが、読み書きが出来ない者ばかりだったのだ。
私は生きる為に、言葉を覚える事にした。
住まいは住み込みで、朝六時の仕込みから午後九時の閉店まで働いた。
使った事のない筋肉が、毎日痛んだ。
日給など雀の涙で、住まいと食事があるだけマシだろう。
酒場でも活気がないのは、ラロたちが目指している目的と関係があるのだろう。私は次第に、彼らの目的を知るようになった。
「なるほど。悪代官を打倒するのね。それなら私も、何かで協力出来るかもしれないけど......お嬢様の出る幕はなさそう」
けれど顔に酷い傷を持ち、生きる希望のない私にとって、ある意味、目的になった。
戦略の打ち合わせは、私の働く酒場だ。
ラロたちは、酒場の隅を選んで飲んでいる。
「作戦だが」とラロがルネス、アレンを前にして口火を切った。
「敵国シーザック王国に寝返る」
「なんだと!」
「馬鹿な!、何の為に戦っている! 今までに死んでいった仲間を裏切る行為だぞ!」
そしてラロ・ケトスは静かに語り始めた。
「ロベルナ王国十万の兵を倒す事が出来るのは、シーザック王国だけだ。我々がこちらの兵力、部隊配置などの情報と引き換えに、攻め込ませる」
「待て待て、そんな裏切り行為が許される訳がない」
「祖国はここロベルナだ。どうしてそんな考えになる!」
給仕をする私には、何の話かは理解出来ない。しかし、かなり切迫した話だと言う事は理解出来た。
ちょうど「つばき」もその話に耳を傾けていて、意味しげな視線を私に向けて来た。
「なんの話だったのか、後でつばきに訊いてみようかしら」
私は閉店後につばきの部屋に出向いた。
驚いた事に、つばきは私が来る事を予想していたようだった。
「どうぞ」そのくらいの言葉は理解出来た。
そこで私が驚いたのは、つばきは日本語で話し出したからだ。
狐に摘ままれたような、ポカンとした私の顔を見て、つばきは微笑んだ。
「まぁ、ここに座りなさいな。私が会う事が叶わなかった妹」
「今、なんて? 私を妹?」
そこでつばきの正体が明かされた。
「私はね桜。あなたが生まれる前に病死した椿。墓石にちゃんと刻まれていたでしょ?」
確かに墓参りの際、墓石に椿の名前が刻んであったのを覚えていた。
「私も不思議なのよ。病気で死んで気がついたら、こっちの世界に居てね、初めは桜のように戸惑っていたわ。でも十六年も暮らせば、自然と言葉を覚えたけどね」
「あ、そうそう、最初から日本語で話したら、桜が戸惑うと思って。時間をかけて見守っていたのよ」
唖然とする私は言葉が出なかった。ようやく日本語が訊けた嬉しささえ忘れ、ただ姉、椿の顔から視線を外す事が出来なかった。
「まぁ不味い紅茶でも飲んで、落ち着いて」
私が事態を飲み込むのに、恐らく二十分はかかっただろう。スマホを確認すると、午後十一時を表示していた。
「あらら、そんな物まで。電池が切れたらそれまでだけど」
確かにバッテリーはもう残り少なかった。
「椿姉さん、写真撮ってもいいよね」
「いいけど......電池が切れたら見れないよ」
「それでもいいの」
私は残り少ないバッテリーで、一枚だけ姉の椿を撮影した。
姉の言う通り、もう見る事が出来ないのに、何故と言う気にはなれなかった。
「じゃぁ肝心な事を言うわよ。私はね、ラロたち反乱軍と一緒に戦う事を決めたの。桜がどうするかは、あなたが決めればいい」
私は、ラロたちが代官に抵抗するらしい事は、何となく理解出来ていた。しかし姉椿の言葉は、想像を超えていたのだ。
「ロベルナ王国を裏切って、シーザック王国に情報を流し、ロベルナ王国を倒します」
血の気が引く思いだった。
「それもこれも、ロベルナ王国民の安寧の為。今のままでは王国民は死ぬ道しか残っていないの。例え王国の名が変わろうと、全ては生きる為よ」
確かにロベルナ王国民の顔には死相が出ている。酒場で訊こえる話は、暗そうな話ばかりで、注文する料理は最安の物ばかりだった。
「いい桜、私たちはシーザック王国の兵を使って、王国を倒す。それで平和な世が来るなら、同胞の兵士を殺す事になっても、仕方がないと思っている。桜には理解出来ないでしょうけど、あなたはただ静観していればいいわ」
現状は呑み込めた。
「姉さんがするなら、私も黙っていられない。姉さんも私もここに転移したのは、何か理由があったと思うの」
久々に話す日本語が、湯水のように口から流れ出た。
「それは心強いわ。だけどね、私と桜は武器を持って戦う訳じゃない。あくまで後方支援だと言う事を忘れないで」
反乱は大罪だ。恐らく最悪の事態も想定しているのだろう。平和な日本なら誰しも経験はないが、戦争とはそういうものだ。
______ラロ・ケトスが主導する寝返り作戦は成功したと言っていい。
反乱軍はシーザック王国から、報奨金を得る事が出来たのだ。
現在は私の住む「オクサリナ」の街を拠点に、シーザック王国の軍が展開している。
代官ブライデンは、「オクサリナ」が敵軍に落ちたと思い込んだ。それは私たちには都合のよい状況だ。
しかしラロたちは功績を上げれば、金が手に入ると欲が出始めた。
次第に、瞳が欲に染まった色の変わっていったのが分かった。
やがてシーザック王国軍は、遂にロベルナ王国を打倒し、もう圧政に苦しむ事がなくなったと誰もが歓喜した。
後日、私たちは新王の前で傅いた。
「オクサリナの兵士よ、こたびは良く働いてくれた。では褒章を与える故、頭を垂れよ」
私は嫌な予感に体が震えた。
ザン ザン ザン
血まみれのラロ、ルネス、アレンの首が、私の目の前に転がって来た。
「ひいぃぃ」
やがて、姉の番になった。
「どうか妹だけは!」
姉、椿は絶叫して私の命乞いを願い出た。
ザン
漸首係の兵士は、問答無用で椿の首をはねた。椿の見開いた瞳が私の前に転がった。涙を流していた。
あううう。
次は私の番。私は体を固くしたが、凶悪な刃に贖う事は出来ない。しかしそこで奇跡が起きた。
「ふむ、男であろうと女であろうと、顔の傷は勇敢な戦士の誉れよ。お前を戦士と認めよう。そして許す」
「は?」
新国王は確かにそう告げたのだ。
私は一人だけ生き延びた。ただ姉と一緒に死ねればと思ったけれど、それでは姉椿の嘆願が無駄になってしまう。
私は泣きながら、姉の頭を抱いてオクサリナに戻り、酒場のアゲインから遠くない森に姉、椿を埋葬したのだった。
「椿姉さん、アゲイン」
私がそう口にしたのは、またどこかで会える気がしたからだ。
しかしこの話には続きがある。
シーザック王国に変わった王政だったが、ロベルナ王国よりも酷い圧政になったと言うのだ。
悟り
私が生まれた時、既にこの世の人では無かった姉の椿。
「病死だったと訊いた事があった」
私の名前が桜なのは、きっと姉の名を受け継いでいたのだろう。
そんな姉とこっちの世界で出会って、いろいろな事が分かった。
まず私が蝶よ花よと甘やかされた理由が、姉の死に関係していた事。姉の椿は死後、この世界に来てからずっと私を見ていた事。
そして、私がコンビニで命を落とした時、どうやったのかは分からないけれど、転移した事。
最後に姉は身を挺して私の盾になって、代わりに死んでしまった事。
頬に傷のある女でも戦士の誉れだと言って、見逃された事。
事故で負った顔の傷に助けられたと言ってもいい。
「私は椿姉さんに、二度命を助けられたんだ」
そう思うと、コンビニの前で私をひいたあの高齢のおじいさんにも感謝しなければね。
「億万長者になるとか言って、神様に命令していた私は、何とお愚かで心の貧しい女だったのだろう」
それを気づかせてくれたのは、椿姉さんであり、その真逆が欲を出したラロたちの反乱軍だった。
「ラロ、あなたたちの志は清く正しかった。なのに何故! もう私が出来る事はない。ここを去ろう。椿姉さんが眠るこの地を」
______私は領主が変わったロベルナ王国を去った。
行き着く先はシーザック王国の辺境の地。ラロたち反乱軍と共に、何度か勝利に導いた国の辺境の地だ。
私は、そこでも小さな街の酒場で働くようになった。もう二十二歳になった。
「ロベルナ王国の悪政に対して、志を持って立ち上がった筈の農民、下級兵士たちは正義の仮面を被っていただけだった。前世の私も、ただお金を得る為だけにしか価値を見出せなかった道化の仮面を被っていたのね。それが転移して私の仮面が少しずつ剥がれていった。椿姉さんのお陰です。出来れば、こっちの世界で、仲良く平和に暮らしたかった。御免なさい私なんかのせいで」
店じまいした酒場から、一人安宿に向かう街路灯などない帰路を歩く。ショールを両手でくるむように顔の前に当てた。
「私はこの顔の傷を誇りに思う。だって今までの私は、可愛いだけの仮面を被っていただけですもの。私はこの顔のまま、隠さずに生きていくわ」
吐く息が白くなっていた。
「寒い季節になったわね。雪は苦手なの。きっと姉さんも」
見上げると転移前であろうと、この世界であろうと、黄色い月が相変わらず頭上に輝いていた。
「確かに兎が、餅を突いているように見えるわ。月は平和な世界なのかな?」
真相は私も椿姉さんも知らない所にあった。
全ては桜が命令した......その事実を知る必要はない。知ってどうにかなる物でもないのだから。




