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戦えない俺にできること

「お前は、もう必要ない」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひどく静かになった。


怒りも反論も、驚きすら湧いてこない。

予想していた結末だったからだ。


剣を持てば手は震え、魔法を詠唱すれば必ず失敗する。

戦闘能力がすべての冒険者パーティで、

俺が役に立てる場面など最初からなかった。


「今日で終わりだ。明日からは別でやれ」


リーダーはそれだけ言うと、俺を見なかった。

他の仲間も同じだ。

同情すら向けられないのが、かえって救いだった。


俺は荷物をまとめ、黙ってギルドを出た。


外の空気はやけに冷たく、

胸の奥に溜めていたものが、ようやく形になり始める。


――悔しい。


できないことを責められるのには慣れていた。

だが、「できること」を誰にも見てもらえなかったのが、

何より苦しかった。


俺には、スキルがある。


戦えない代わりに、人を見ることだけができる力。

相手の癖、思考、才能――そして、どう動けば一番いいか。


けれどその力を説明しても、

誰も信じなかった。

派手じゃない。分かりやすくもない。


結局、俺は独りだ。


そう思った時、後ろから小さな声がした。


「……あの」


振り返ると、まだ幼さの残る剣士の少女が立っていた。

装備は安物で、手入れも行き届いていない。


「さっきの話、聞いてしまって……」


言いにくそうに視線を落とし、それから意を決したように続ける。


「私も、パーティに入れてもらえなくて。

 動きが悪いって、よく言われるんです」


その瞬間、視界がわずかに歪んだ。


――【スキル:最適命令】

――解析中……対象:剣士(未熟)

――特徴:反射神経良好/判断遅延/過剰な恐怖心


……やっぱり、か。


無意識に彼女を観察していた。

力はある。身体も素直だ。

ただ、間違った動きを教え込まれている。


俺は小さく息を吐いた。


「なあ、一つだけ聞かせてくれ。

 俺の指示通りに動く覚悟、あるか?」


少女は驚いた顔をして、それから俯いた。

きっと今まで、何度も裏切られてきたんだろう。


「……失敗したら、どうなりますか?」


その問いに、俺は一瞬詰まった。


正解なんてない。

俺の指示が間違っている可能性だって、ある。


それでも――。


「その時は、俺の責任だ」


はっきりと言うと、

少女は少しだけ目を見開き、ゆっくりと頷いた。


「……分かりました」


ギルドの模擬戦場。

相手は経験のある中堅冒険者だ。


周囲の視線が集まる中、少女の肩が震えているのが分かった。


「大丈夫。

 最初に半歩、左にずれろ。剣は振るな」


「で、でも……」


「いいから。相手の足だけを見ろ」


戦いが始まる。


少女は一度、焦って踏み込み、

相手の剣がかすめた。


周囲がざわめく。

失敗だ、という空気。


だが、俺は叫んだ。


「違う! そこで止まれ!」


少女の動きが、ぴたりと止まる。


次の瞬間、相手が体勢を崩した。


「今だ。足を払え!」


――決着は一瞬だった。


中堅冒険者が地面に転がり、

少女は剣を下ろしたまま、呆然と立っている。


「……勝った?」


震える声でそう呟いた彼女の視界に、

初めて自信の色が宿っていた。


俺の中で、確信が硬く固まる。


やっぱり、間違っていなかった。


俺の力は、

俺自身を強くするものじゃない。


人を、最強に導く力だ。


「なあ」


俺は、少女に向かって言った。


「俺と組まないか。

 戦い方なら、いくらでも指示する」


少女はしばらく黙って、

それから満面の笑みを浮かべた。


「はい! よろしくお願いします!」


その笑顔を見た瞬間、

胸の奥にあった冷たい塊が、ようやく溶けた。


戦えなくてもいい。

前に立たなくてもいい。


俺は、指示する。


――俺の言葉で、仲間たちを最強にする。


その物語は、

ここから始まる。

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