召喚(短編と同じです)
通学路の交差点で、現実が音を立てて砕けた。──それが、わたしの物語の始まりだった。
次の瞬間、「私は存在していなかった」。
重力も、時間も、言語も、色彩すらも存在しない空間で、ただ「意味」を「定義」しようとする「欲求」に似た何かだけがあった。
空間に「振動」が生じた。空間の揺れではなく、意味の軸の振動。
その「振動」が終わるとき、わたしは「解像」された。
あたりには建築物も地面もない。見えるのは、果てしない「思考模様」で構成された空間。
数式のようでもあり、言語のようでもあり、そもそも思考や存在が「視覚化」された状態だった。
〈おまえは、欠片か〉
〈おまえは、定義か〉
〈おまえは、まだ定義されていないものか〉
声が響く。
いや、声のように認識される何か。
音ではない。だが聞こえる。「これは音とは限らない」とわたしの思考が訴える。
やがて、無数の槁線たちが集まってきた。
棒のような形状をしているが、「それ」が自分の背後を通過すると、「かつての私の記憶」が一部失われる。
そして、ある「意思」がわたしに向かってきた。
それは音声ではなかった。「意味の振動」であり、「構造の補完振動」。
だがそれは確かにわたしに問いかけた。
〈定義を提示せよ。おまえの在り方に関わるものを〉
問いの意味がわからない。だが、直感で答えた。
「わたしは、わたしで、いたい」
その瞬間、空間が「震えた」。わたしの形が固定され、言語が復活した。
「意思」が満足気に言った。
「《識体メニファクト》召喚確定」
「《na》が砕けた。第四環の《翻律》が乱れている。おまえのような『未定義』の存在が必要だ」
「第四環裂層、翻律再構築工程に転送」
何を言っているのか全く理解できなかった。
ただ、「異世界召喚」されたのだということだけは、どうやら間違いない。
だがここには魔法陣もなければ、王も魔王も勇者もおらず、戦争も魔術もない。
あるのは「存在」という概念の仕組みそのものを調整する役割らしい。
わたしは「私」であることを忘れた。
あるいは、はじめから「私」は存在していなかったのかもしれない。
──否、思考そのものが錯覚だ。
わたしの存在が世界に刻まれる。
それは祝福でも、運命でもない。
この世界が、「定義の外」に位置する存在として、修復の欠片として、わたしを呼んだのだ。
世界の名は《レキタス・クオルム》。
世界がわたしを必要とするならば、わたしはこの世界に「意味」を与えるだろう。
あるいは、世界に「意味のない破壊」を与えるものになるのかもしれない。
定義は常に二重であり、削られることで輪郭を得る。
そのときに起動するものを、人は「槁線」と呼ぶ。