No.1 農民
帝国暦 1757年2月15日 ブラテン帝国 アレリア州 東部
「おい、ハク。サボらないで作業しなさい。」
また言われたとうんざりした。貧農の家族のせいで、学校に行くのは2日に1回。ほかの時間は仕事だ。学校と言っても、読み書きに四則計算と退屈なものばかりだった。読み書きは不得手だったが、四則計算は得意だった。
ただ、母親からは
「そんなものがいつ役に立つのか...」
と心配していた。
自分の作業は農作業。重い道具を使って耕したりしていたので体格が良くなると思っていたが、栄養失調のせいで体格は良くなかった。
なぜこんなに貧しいのか。
原因は1つだけだった。
父親の死。戦争だった。1752年ごろの隣国フリエスでの戦争で国は勝利したが父の乗っていた軍艦は沈没し死亡した。というより死亡したかもわかっていない。海に沈んで何も残っていないのだ。
さて、自分にとって何気ない1日であるはずだったこの1757年2月15日。この日は異様なほど暑く農作業が大変だった。
そんなとき、突然「""ドン""」という大きな音が山から聞こえたような気がした。
大きな音に聞こえたのに気がしたというのはいささか不思議だが、そのように聞こえた。
そのとき東にあったカッロ山から煙が出ているのがわかった。
ハクには何が起こっているのかわからなかったが、近所の顔を真っ青にした農民がこう言った、
「噴火だ!!!」
ハクには何を言っているのかわからなかったが、子どもながらにしてマズイことはわかった。
大人たちが「避難するぞ!」と言い始めたからだ。
帝国暦 1757年2月16日 ブラテン帝国 アレリア州 州都:アレリア
「なんだって...どうすればいいんだ」と州知事は呟いた。
州都アレリアでも噴火の知らせを受けた。しかし、まだ技術や科学の未発達なこの国では噴火で飢饉が起こっても対策のやり方などわかるはずもなかった。
対策は何もなかった。事実上、アレリア州東部の避難民は見捨てられていたのだった。
帝国暦 1757年2月16日 ブラテン帝国 中央特別行政区 首都:ロムロン
皇帝ジョン3世とガラッド率いる内閣は噴火の報告を受けた。
唯一アレリア地方東部にとって幸運だったことはガラッドが地方の農業政策を重視していたことだったろう。この内閣は地方に支持基盤を持つため、支援をしなければならない立場にいたからだ。
すでに67歳であるジョン3世は当初アレリアに行って災害の被害を見ようとしたが内閣や皇后に止められた。
首都はアレリアを"まだ"見捨てていなかった。