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レオタード2〜マッドハウス〜  作者: 大原英一
第2ステージ:若林芽衣
9/28

【2-2】

「へ?」

 思わず声が裏返る。いまのいままで、ここの奥さまだと思っていたからだ。

「もしかして、アタシを三沢夫人だと思ってた?」

「思っていました」

「いま、この家に三沢さんはひとりもいない。もう三沢さんのお宅とは呼べないかもね──ただのお化け屋敷。で、あなたは?」


「若林芽衣です」

「若そうだけど、年齢を聞いてもいいかな」

「26です」

「そうなの。アタシは48歳……見てのとおり、おばさん体型です」

 かず美さんは自虐的に言うと、太鼓腹をぽんと叩いた。

「私たちは、つまり、この家に閉じ込められたってことでしょうか」

段階(ステージ)があるのよ」


「ステージ?」

「そう、ここは第2ステージ……とりあえずアタシと、階上(うえ)にいる田中にとってはね」

「田中さんておっしゃるんですね、さっきの方」

「ええ。アタシと彼は言わば同類──うれしくないけど」

「第1ステージを突破したという意味で、ですか」

「……そのまえに確認したいんだけど、芽衣ちゃんは第1ステージを経験していないのね?」

「はい、私にとっては、いまが第1ステージです」


 すると彼女はうふふ、と笑いながら、

「そうだよねー、ほんと、何なんだろうこのシステム……シード権かよ」

「第1ステージの概要を教えてください」

「うん、まずアタシと田中は、第1(そこ)では一緒になっていない。いまさっき知り合ったというか──ここでね」

「はい」私はうながす。

「で、彼の話を聞いたらアタシとおなじ経験をしているわけ。もっと言うと、芽衣ちゃん、あなたもよ」

「じゃあ、皆さんも宅配ピザ屋の恰好をしてここに?」


「そういうこと……でもね、いま思うと、アタシだけちょっと特殊だったかも」

「特殊、とは」

「特殊っていうか、1期生だったのかもしれない──ごめんね、分かり(にく)い言い方で」彼女は大げさに手を合わせる。「あのね、たぶんアタシしか会っていないんだ。ここのご主人の三沢さんに」

「なんだか雰囲気的にレアっぽいですね」

「でしょ?」かず美さんは不意に悲しい目をした。「でも三沢さん、すぐに死んじゃった……毒入りのピザを食べて」

「えーっ!」


「まあ、ふつうにビックリするよね、誰も自分が毒物を持ち込んでいるなんて思わないもの。アタシだって知らなかった──」

「三沢さんは?」

「彼は知っていたっぽい。『代金を払うから上がれ』って、わざわざアタシをリビングに入れたの。そして彼はアタシの目のまえでピザを(かじ)って、そのまま息絶えた」

「死体は、その……」

「言ったでしょ、ここは第2ステージだって。アタシが気づいたときにはもう、死体も毒入りピザも消えていた。一瞬で場面転換したってわけ」


「──かず美さんは、第2(ここ)で長いこと独りぼっちだったんですか」

「いいえ」と彼女は首を振る。「田中がきたのは、わりとすぐだった。テレポーテーションみたいにしてパッとあらわれたのよ」

「なるほど、私とは入り方がちがうんですね」

「うん。第1ステージの人たちはピザ屋の恰好をして、インターホンを押して玄関から入ってくる……そういう決まりみたいね」

「それから田中さんとお話を?」

「ええ、とりあえず彼が敵か味方か分からなかったから。で、話してみて分かったのは敵──まで行かないにしても、ライバルであることはたしかね」


 かず美さんの口から田中さんの話を私は聞かされた。彼はまるで武勇伝のごとく第1ステージでの経験を彼女に語ったらしい。

 彼女とちがい、複数のライバルを打ち破って第2ステージに進出した、とも。

 驚きだったのは、どうも三沢さんと思われる死体がさきに存在していたらしいこと。

 田中さんは死体の特徴をおぼえていて、アルマーニのYシャツ、金のブレスレットなどがかず美さんの持つ三沢さん像と一致した。

 つまり彼が入った第1(そこ)は、彼女が抜けた後の設定だったということだ。

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