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レオタード2〜マッドハウス〜  作者: 大原英一
第1ステージ:水戸かず子
5/28

【1-5】

 部屋と死体と死体とアタシ、プラス青山。

 脱出困難なこの狂った家(マッドハウス)に、いま死体がふたつとひと組の男女。青山はアタシを知っているらしいが、こっちは知らない──そんな感じ。

 ついさっきまで田中という色白で陰気な男がいたが、もうここにはいない。

「脱出成功したわけ? 田中さんは」

 アタシはいちおうさん(・・)付けした。


「どうやら、そうっぽいね」青山はアゴをさすりながら、「偶然の要素はあったにせよ、結果的に田中さんがビーフさんを殺したかたちになっている。イヤな予感が当たったかもしれない」

「それって脱出条件が殺人、てこと?」

「うん、だからA子さんも三沢さんを殺すことでここを脱出できた」

「ちょっと待って。田中さんはビーフさんが息を引き取ると同時にすがたを消した──それを脱出成功と呼ぶなら、A子さんも一瞬で……」


「言いたいことは分かるよ」青山が(かぶ)せる。「一瞬で消えたのなら、彼女がインターホンに出る(いとま)はなかった。ビーフさんに応答できなかった、てことだろ?」

 アタシがうなずくと青山は話をつづけた。

「さっきも言ったけど、ここのインターホンは信用できない。ビーフさんと話したのは遠隔操作をしている誰かだったかもしれない。自動音声って線もあるな」

「ちょっと……ちょっと待って」頭が混乱してくる。「だったら、A子さんそのもの(・・・・)があやふやにならない? インターホンの声が女性だったってことだけが、彼女の存在の()りどころなのに」


「そうだね、誰も彼女を見たわけじゃないし、もしかしたらA子さんじゃなくてA男さんだったかしれない。──不明な点は山積みだ。犯人が女でも男でも、どうやって三沢さんを殺したかが分からない。あと、最初の疑問に戻るけど、そもそもこの死体が本当に三沢さんなのかどうかも」

 ようするに全然だ。アタシは質問を替えた。

「全部のピザに、毒が入っているのかしら」


「たしかめようがないけど、可能性は高いと思う。自分で持参したピザを食べたら、それは自殺ってことでノーカウント。他人に自分のピザを食べさせて殺害する──すなわち脱出成功、ていうロジックじゃないかな」

「田中さんは、そのことを知っていたのかな」

「いやー、どうだろう」青山は首をかしげる。「もともとピザを交換してくれって言い出したのはビーフさんだ。彼がキノコを食べられないということも、田中さんには知りようがないわけだし」


「たしかに……でも、ピザに秘密がありそうだって、なんとなく田中さんは気づいていたんじゃないかしら。ピザを食べればいいじゃん、て提案したのも彼だったでしょ」

「まあ、憶測はさておき食糧問題は切実だ。頼みのピザに毒が入っている以上、ほかに食べるものを探さないといずれ餓死してしまう」

 意外と現実的だな、この男。アタシは彼に質問が山ほどある。


「ねえ青山くん、図らずもふたりきりになったから聞くけど──あなた、アタシのことを知っているんでしょう? こっちは全然だけど」

「あ、そうだね、いまのうちにその話をしちゃおうか」

「いまのうちに?」

「ほら」と彼は時計に目をやり、「これまで1時間ごとに、あたらしい宅配ピザ屋がここを訪れている。最後のきみが16時にきて、あと15分ほどで17時だ」

「その法則がつづくとは、かぎらない。……ごめん、話の腰を折っちゃった。あなたの話を聞かせてちょうだい」


「──うん、いいけど、そうとう奇妙な話だから覚悟しておいて」

 これまで奇妙じゃない点がひとつでもあった? というセリフをアタシはグッと飲み込んだ。また話の腰を折るところだった、あぶないあぶない。

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