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レオタード2〜マッドハウス〜  作者: 大原英一
第1ステージ:水戸かず子
4/28

【1-4】

「いまここにいない女性のことね」

「うん。A子さんが本当にいたとしたら、三沢さんを殺したのは彼女である可能性が高い」

「本当にいたら──って、ビーフさんを疑っているの?」

 すると青山は含み笑いをしながら、

「彼には申し訳ないけど、A子さんの存在が架空(ウソ)なら、そのウソを言ったビーフさん本人が三沢さんを殺したってことになる。そして犯人はマヌケにも、ここから出られなくなってしまった──」

 アタシは黙ってうなずいた。


「ただ、A子さん犯人説のほうが可能性は高いけどね。彼女は犯罪に手を染めて、ここから逃げ出した。つまり、この家から脱出できた」

「(そのほうが)まだ希望が持てるわね」

「いや、逆だよ」青山は真顔で言う。「殺人が脱出のカギなら、オレらも殺し合いをしなくちゃいけなくなる」

 たしかに……だが、何かが気になる。

「でも、どうして三沢さんだったのかな。家のなかに、あたらしくビーフさんも入ってきたわけだし、殺そうと思えばどちらでも──」


「まあ、玄関で憶測の話をしていても仕方ないさ。皆のところへ戻ろう」

 それもそうね。アタシたちはリビングへ移動した。

 部屋に入るやいなや、ぐう、と腹の鳴る音がした。どうやらビーフ氏が発したものらしかった。

「あ、いや失礼」

「これは切実な問題ですよ」と青山。「オレらはこの家に閉じ込められている。脱出できなければいずれ食糧は尽き、餓死してしまう」

「ピザを食べたら、いいんじゃない」

 田中がはじめて発言した。すくなくともアタシは初耳だった。


「オレも田中さんの意見に賛成。さいわい、ここには人数分のピザがある──各々(おのおの)持参したやつがね。それは自分の分として食べていいと思う」

 青山がこっちを見るので、

「アタシも、それでいいと思う」と答えた。

「お腹が空いているようでしたら、ビーフさん、どうぞピザを召し上がってください」

「うん……それじゃあ」

 ビーフ氏は恥ずかしそうに言うと、ピザパッドの箱を持ってリビングの奥にあるダイニングテーブルに座った。


「けったいな家だけど」青山は小声で、「時計だけはちゃんと動いている。これまで1時間ごとにひとりずつ増えている──きみを含めてね」

 時刻は16時半。アタシがきてから、もう30分が経とうとしていた。

「あの、」ピザの箱を手にビーフ氏が戻ってきた。「こんなときに申し訳ないんだが、私はキノコの(たぐい)がまったくダメで」

 言って彼は箱の中身を見せてくる。わりとめずらしい、マッシュルームとチーズしか載っていないピザだった。


「だったらボクのと換えてあげるよ」

 また田中が口を開いた、しかもタメ口である。ビーフ氏はだいぶ目上やぞ……まあ、そのやさしさは評価できるが。

 田中がピザーヤの箱を開けると中身はシンプルなマルゲリータで、ビーフ氏は満足したようだ。

 トレードが成立し彼はふたたびダイニングテーブルへ──そして悲劇は起こった。


 がちゃん、といきなりすごい音がした。

 見るとビーフ氏がテーブルに突っ伏している。倒れ込んだときにテーブルの上の花瓶を割ったらしい。

 青山が即座に駆け寄って、痙攣(けいれん)する氏の背中を叩いたり口をこじ開けようとする。


「まさか、毒物……」

 アタシが近づいたときには、もう青山は一連の動作を止めていた。ビーフ氏は事切れてしまっていた。

「水戸さん、見て」

 彼はビーフ氏の死体とはべつの方向──リビングの中央に視線を誘う。

「田中さんがいない」

「本当だ」言われて気づいた。「どさくさに紛れて逃げたのかしら」

「どうやって?」

 そうだった、ここは外界から切り離された閉鎖空間……。

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