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レオタード2〜マッドハウス〜  作者: 大原英一
第1ステージ:水戸かず子
3/28

【1-3】

 意を決してビーフ氏は家のなかに上がり込んだ。

 玄関からいちばん近いドアを開けるとそこはリビングで、晴れて彼は死体とご対面となったわけである。

 ふつうならテンパってしまう状況だが彼は冷静だった。とりあえず床に倒れている男性の脈を採ると、すでに事切れていると分かったらしい。


 いずれにしても救急車だ、そう思ったがビーフ氏はケータイを持っていない。

 固定電話がないものかと家中を探したが、どうもこの三沢宅には置いていないようだ。

 ならば仕方ない、表に出て助けを呼ぼうと氏は考えた──ところが。

 玄関のドアを開けて外に出た瞬間、彼は内側の三和土(たたき)に舞い戻っていたという。


「ウソでしょ……」

「論より証拠さ」青山はさらっと言う。「水戸さんも試してごらんよ。ここにいる皆、田中さんもオレも実証済みだから」

 めっちゃ怖かったが断るわけにも行かなかった。アタシひとり拒絶して、あらぬ疑いをかけられるのもあれだし。

 青山を伴って玄関へ。そこで靴を履き、ドアを開ける。向こうの景色は庭で別段おかしな感じはしない。

 だがドアから一歩踏み出した瞬間、アタシは玄関のなかで青山と相見(あいまみ)えていた。


「まるで回転ドアね──これって、どうなの。一瞬だけアタシのすがたが消えて、またパッと戻る感じ?」

「そうだね、水戸さんがつかんでいるドアノブをリレーのバトンにたとえると……つぎの走者に渡したときのオシリのアングルと、渡し終えた顔のアングルが一瞬で切り換わる感じ、っての?」

「分かり(にく)っ」スニーカーを脱ぎながらアタシは言う。「──ようするに、電話もなければ外に出ることもできない。ここにいる全員、閉じ込められたってわけね」

「そういうこと」


「そういうこと、じゃなくて!」若干イラッとした。「ヒドいじゃないの。ここから出られないと分かっていて、あえてアタシを招き入れたのね」

「あのね、いちおう……」

「インターホン」アタシは(かぶ)せた。「──そうよ、あのとき助けてって言えばよかったじゃないの。家のなかに死体があるって言えば、こっちだって外にいるまま警察を呼べたわけだし」

「言ったさ」

「え、」


「言ったけどきみには届かなかった。てゆうか、ここのインターホンはぶっ壊れているんだ。『通話』ボタンを押しても会話ができない」

「何言っているの、さっきアタシと話したでしょ」

「オレは何も話していない」

「はい?」

 意味が分からない。なぜそんな見え透いたウソをつくのか……。

「鍵は開いているから玄関のなかまで入ってきて──て、アタシを招き入れたじゃないの」


「オレは言っていない、けど、そのセリフはここにいる誰もが聞いている」

「どういうこと……」

「さあね。インターホンのなかの小人がしゃべっているのか、あるいは、遠隔操作で誰かが応答しているのか……。いずれにしても、この家はどこもかしこもマトモじゃないよ」

「……そうだったの。ごめんなさい、事情も聞かずに噛みついたりして」アタシは頭を下げる。


「チャイムと液晶画面は生きていて、それきっかけで水戸さんを玄関まで迎えに行ったってわけ。ちなみに、玄関のドアを開けてそこから大声で叫んでも、外の人間は誰も反応してくれない」

「玄関以外の、例えば窓なんかは?」

「結果は一緒だった。こちらからの声は外部に届かないし、窓から脱出してもまた部屋に逆戻りさ」

「ハンパないわね……」思わず全身の力が抜ける。

「楽観はできないけど、あまり悲観的になってもね。それより気になるのはA子さんだ」

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