【4-4】
「まさに、ね」
言って青山さんはしばらく黙った。
何の因果か幽霊になってしまった彼。それが彼の配役だとしたら、あまりに不憫だ。
考えがまとまったのか、ふたたび青山さんは口を開いた。
「この殺人劇は2部構成──水戸かず子が片方の主役で、もう片方が畑中かず美だ。ふたりは同一人物でもある、けど役割がちがう」
「というと?」
「水戸さんは復讐の前段階を担う。その後、田中さんを激しく憎むようになる」
「どうして……」
「分からないかな、田中さんの罪を思い出してごらんよ」
「ビーフさんを毒殺した、」
「そのとおり──ただし、彼が斃れた時点では、まだ水戸さんは彼との関係を忘れている。言わば復讐の予告編だな。で、彼女がかず美さんになったとき、はじめてそれを思い出して田中さんを殺そうと決意する」
「水戸さんとビーフさんに、どんな関係が?」
「分からない、けど、彼女がビーフさんの仇を取ろうとしたことはもはや疑いようがない」
「なるほど──あれっ」
「どうしたの」
「かず美さんが田中さんを憎んで殺そうとしたのなら、どうして毒入りのピザを1ピースだけすり替える、なんて、まだるっこしいことをしたんですか。そっくりぜんぶ入れ替えたら、成功率百パーじゃないですか」
「いい質問、いいお客さんだねえ」
青山さんのニヤケ顔に私はちょっと引いた。
「茶化さないでください」
「そこがまさに、第2部の主人公かず美さんのジレンマだ」
「ジレンマ?」
「うん、彼女は一概に田中さんを責められない。だって彼女自身も三沢さんを毒殺しているから」
「……でも、それは不可抗力じゃないですか」
「だから田中さんの死も不可抗力、ていうか、神の采配に任せた」
「なんだか、ずいぶんアバウトな殺害計画ですね……」
「うん──ところで、若林さんは運命を信じる?」
「どうしたんですか急に」
と思ったが、青山さんの言わんとしていることに気づいた。
「つまり、舞台の筋書きみたいに私たちは毎回おなじ動きを繰り返している、てことですか」
「そう、それこそ何千、何万公演と繰り返しているかもしれない」
私はゾッとしながらも、
「その度に田中さんは毒入りの1ピース──当たりを回避している、とすれば、それが確定事項ではないか。青山さんはそう言いたいんですね」
「ああ、しかし」彼は十分にタメをこさえて言った。「神様はいなかった……いてもブレブレだった」
「どれくらいの低確率か分かりませんが、やっとこさ田中さんはジョーカーを引くことができた。できた、ていうのもヘンですけど」
青山さんはうなずきつつ、
「それでさっきの話に戻るけど、かず美さん──水戸さんの願いは、いったん叶ったんじゃあないかな。いま玄関のドアを開けたら、外に出られるかもよ?」
だが私は首をかしげる。
「そんなにシンプルに行くでしょうか。まだ《誰か》の正体も分かっていないんですよ?」
と、いきなりドンッ、ドンッ! と扉を叩くけたたましい音が聞こえはじめた。
どうも玄関ドアからのようだが、これまでずっとインターホンだったのに……的な、妙な違和感が拭えない。
青山さんはどう考えているのだろう、そう思って彼のほうを見ると、彼自身がたいへんなことになっていた。
「──うわっ、何だこれ」
「えっと、あの、消えかかっていますよね?」
彼の身体がどんどん透明になって行く。十秒もしないうちに、青山さんはそれ以上言葉を発することもなく完全に消滅してしまった。
ドアを叩く音は鳴りつづけている。急かされるようにして私は玄関へ向かった。
憶えているかぎり、このドアはとりあえず開けることはできるはず。勇気を出して私はドアを押し開く──と、
外の景色は一変していた。まさに漆黒の闇、そのなかに、見知った人物が立っていた。




