【4-1】
「ループしている……そうかもしれない、だが、それは水戸さんにかぎったことかもしれない。現にあたらしい出来事がオレらの目のまえで起こっている。田中さんの死もそのひとつだ」
私はうなずく。やっとその話題になったことに安堵する。
幽霊の青山さんと私が和室で話していた、ごく短いあいだに、このリビングで急死してしまった田中さん。
一刻も早くその原因を究明したかったが、幽霊との情報交換および認識のすり合わせもまた急務だったのだ。
ごめんなさい、田中さん。
私は死体のそばに落ちている食べかけの欠片を指さし、
「田中さんは、たぶんピザの毒で亡くなったんじゃあないかと」
「マジか」と青山さん。「他人を毒殺した人間が服毒死する、て何かの哲学かよ」
「ちょっと事情がありまして──じゃなければ、あの用心深い田中さんがピザに手を出すと思います?」
「……たしかに。事情って、なに」
そこで私は、これまであったことを彼に話した。
ピザリカの箱は私が持ってきたこと。田中さんが箱を勝手に開けて、ピザの下敷きになっていたメモを見つけたこと。
メモに、このピザに毒は入っていません、と書かれていたこと。彼はそれを信用し、ピザに齧りついたこと……。
「マジかよ──水戸さんとおなじくらいワイルドだな、彼」
「いま思うと、彼は多少イキっていたんじゃないかと。単純に私たちのまえで恰好つけたかったのか、あるいは、《誰か》の声を直接聞いたことで自分を特別と思うようになったか」
「なるほどね」青山さんはニッと笑い、「じゃあ一丁、探偵ごっこでも始めるとしますか。プロである若林さんをまえに、オレみたいな素人の、それも半分死んでいるようなヤツがおこがましい、と言われたらそれまでだけど」
私はただ苦笑で返す。
おこがましいも何も、やるっきゃないのだ。田中さんを殺害した犯人が、まだこの家に潜んでいるかもしれないのだから。
「田中さんの死、いいえ、はっきり殺害だと言えるでしょう……彼は自殺するような人ではないですから。で、私なりにいくつかの仮説を思いついたのですが──」
「うん、ただそのまえに、田中さんが和室を出てからの状況をおさらいしよう。彼は襖1枚隔てたこのリビングで、誰とも話していないし、もちろん争った形跡もない。その認識で合っているかな」
「はい」私は断言する。「彼はソファに腰かけて、のんびりと食べかけのピザに手を伸ばした──その前提で話を進めます」
「それじゃ、きみの仮説を拝聴しよう」
「ひとつめは、ロシアンルーレット説です」
「なるほど」青山さんは即座に理解した様子で、「メモに書かれていた、このピザに毒は入っていません──それ自体が大ウソだった、と」
「ええ、じつは最初から毒が入っていた。でもピザ全体にではなく、一部の欠片にだけ。田中さんが私たちの目のまえでイキって試食したとき、たまたま彼は当たりを引かなかった、というだけの話です」
「まあ、彼にしたら気の毒な話だな。そしてウソを書いた犯人もそうとう意地がわるい」
「ふたつめは、誰かが毒を盛った説です」
「そりゃ間違いない」彼はクスクスと笑う。
「ただし、時間はかなり制約されます。私、かず美さん、そして田中さんがリビングを離れていたのは、つまりピザがノーマークだったのは……例のクイズに取り組んでいた、和室にいたあいだだけですから」
「どんどん行こう」
「みっつめは、だいぶSF色が濃くなりますが、時間が巻き戻った説です」
「そりゃ豪気だ」青山さんはわりと真面目に、「でも、あるかもな。この第2ステージも第1に戻りつつあるのかもしれない」
「でしょ? けれど引っかかるのはピザです。時間が戻ってピザに毒が入る──第1ステージの状態になる、まではいいのですが、そうすると食べかけじゃなくなるはずなんですよ」
「なるほどね。用心深い田中さんのことだ、ピザが復元していたら、さすがにおかしいと思って手は出さないだろう」




