【3-6】
私は青山さん──幽霊の彼に、田中さんから聞いた話をした。
第1ステージで田中さんが《誰か》から毒殺ミッションを仕入れたということを。2階のトイレにあった内線電話で直接声を聞いたことを。
その《誰か》とは、青山さんの言葉を借りればこの狂った家を監視している人間、ということになる。
「第1ステージにおいて、田中さんの勝利はほぼ確定していたのか。エグいね」
その田中さんは、ソファとガラステーブルの間でうつ伏せに横たわっている。ぴくりとも動かない。
手遅れなのは明白だったが、私は彼のところへ行ってその脈を採った。やはり事切れていた。
「若林さん、こっちの死体……《たぶん三沢さん》にも触れてみて。全然ちがうから」
あまり気が進まないけど、ここは避けて通れそうにない。あ、なるほど──見た目からしてもう、ちがう。
「本当だ、こっちはまるでゴム人形ですね」
私でも持ち上げることができるくらい、三沢さんの死体は軽かった。
「これが、言えば死体のタイプB。タイプAのときは、ヘンな言い方だけどもっと瑞々しい死体だ」
「青山さんと三沢さんが二個一のとき、それがタイプAですね」
「そういうこと。水戸さんが死体をぶん投げて、いっさいが破算になった。オレはふたたび死体に取り込まれて──タイプAになって、きみがいるこの空間へやってきた。言ったら死体はボートみたいなことかな、分かる?」
「分かります。……なるほど、ここに私がいたから、ふたたび制限が解除され青山さんはある程度自由になったと」
「そう」彼はうなずきつつ、「そして三沢さんの死体はまたゴム人形みたいになった、と。──ああ、これでやっと、田中さんが和室を出る直前のところまで話がつながった」
「私たちの話を、どれくらい立ち聞きしていたんですか。そこに、まだかず美さんはいましたか?」
「いいや、タイミング的にオレはそのかず美さんと入れ違いだったらしい。田中さんが、あのおばさんに出し抜かれた! て、騒いでいるあたりくらいかな」
「じゃあ、まあまあガッツリですね」
「田中さんは、かず美さん=水戸さん説を打ち出していたね。歳を取った水戸さん、すなわち、かず美さんであると」
「──青山さんもその意見に賛成なんですよね」
「ああ」彼はちょっと間をおいて、「さっき、ここの監視者の怒りを買ったんじゃあないか、て話をしたろ? 田中さん風に言えば、監視者は《誰か》になるのか」
私は無言でうながす。
「ようするに、これは罰だ。正規ルートではない、邪道によって脱出成功した者……水戸かず子への、ね」
「罰で人に歳を取らせたり、記憶を自在にコントロールしたりできるんですか。すごいですね、その《誰か》は」思わずため息が出た。「──あっ、」
「どうしたの?」
「かず美さんから聞いた話を思い出したんです。彼女、生前の三沢さんに会ったと言っていました」
それから私は、かず美さんが自分のことを1期生だと言っていたこと、彼女が勝ち上がったのは……結果的に三沢さんを毒殺したからだということを青山さんに話した。
「そうか──つまりループしている、と」
「ええ、」私はうなずく。「かず美さんは第2ステージへ進出した、でも三沢さんの死体は第1ステージに残った。その死体と青山さんの魂が合体し、ビーフさんたちがやってきて第1(ステージ)がはじまった」
「……たしかに、そのとおりだ」
「そしてレオタードすがたの水戸さんが最後にやってくる。彼女は青山さんと再会し、三沢さんの死体を窓の外に放り投げ、それが《誰か》の怒りを買って罰を受ける。浦島太郎のごとく老け込み、記憶もなくしてしまった彼女──かず美さんは、いずれまた生前の三沢さんと出会って、この流れを永遠に繰り返す」




