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レオタード2〜マッドハウス〜  作者: 大原英一
幕間:若林芽衣
20/28

【3-5】

 青山さんは、私の目のまえで、いきなり田中さんの頬を張った。

 いや、張ろうとした(・・・・・・)。その(てのひら)は頬まで届いているのに、虚しく空を切るだけ……。

「ご覧のとおり、いまのオレは幽霊なんだ──ひさしぶり、若林さん」

「どういう……」

「とりあえず、田中さんにそれだけ伝えてくれないかな。(幽霊が)見えない人からすると、気味がわるいだけだから」

 私は無言でうなずく。おなじタイムリープ組の青山さんの言葉なら、信用できる。


「田中さん、ちょっと問題がありまして」

「うん」

「いま、私の目のまえに幽霊がいます。どうやら私にしか見えていないようです」

「……うん」

「しばらく彼──幽霊さんとお話させてもらっても、いいでしょうか」

「いいよ。ここまできたら、もう何が起きてもおどろかないって。ボクはリビングにいるから」

 そう言って彼は和室を出て行った、律儀に(ふすま)も閉めて。


「おひさしぶりです、青山さん。お元気でしたか」

「でもない……幽霊だけにね」

「いったい何が──」

「そのまえに、」青山さんが(かぶ)せてくる。「会話のルールをきめよう。オレは彼、田中さんをあまり信用していない。彼がどこで盗聴していないともかぎらないし。だから、きみが彼に聞かれたくない事柄と判断した場合は、口に出さず仕草で返してもらってかまわない」

 理解したことを示すため、私はペンとメモ用紙を指さした。

「筆談ね……まあ、必要ならそうしてくれ。オレはペンを握れないけど」


 そして彼はこれまでの経緯(いきさつ)を語りはじめた。

 タイムリープ直後に幽霊(制限あり)になってしまったこと。第1ステージに最前までいたこと。そこで水戸さんと再会し、制限が解けたこと……。

「どうやら、元の世界線の仲間が近くにいると制限が解けるみたいだ。その仲間たちにはオレのすがたが見えるし、声も聞こえる」

「水戸さんとは、その後どうなったんですか」

「恋(ばな)みたいに言わないでよ」

「茶化さないでください。ステージ脱出の話です」

「ステージ?」


「ええ。田中さんと、もうひとり女性がいたんですが、彼らは第1ステージからの脱出成功組です。それで便宜的に、ここを第2(ステージ)と呼んでいます」

「なるほど──するとビーフさん、オレ、そして水戸さんは第1ステージの敗退組だ」

「え、そうなんですか」意外に思った。「てっきり、青山さんもミッションクリアして第2(ここ)へきたものと……」

「いやあ、オレは頭数(カウント)に入っていないみたい──でだ、若林さんにぜひ見せたいものがある」


「何でしょうか」

「そこの(ふすま)を開けてみて」

 私は言われたとおりにする。田中さんがリビングへ移動して、まだいくらも経っていない。

 襖の向こうは……地獄のような景色だった。

 男性がふたり倒れていて、遠目に見ても絶命しているのが分かる。そして、片方は私の知っている人──田中さんである。

「見せたいものって、これですか」


「あれっ! いやいやいやいや……」青山さんはあわてて手を振りながら、「オレが見せたかった死体はひとつだけだ。見せたかったていうか──その死体(おっさん)が《たぶん三沢さん》で、最前までオレはそいつとサクランボ状態だった」

「え、でも水戸さんに会って制限は解けたって……」

「彼女がとんでもないことを、しでかした。三沢さんの死体を窓の外に放り投げたんだ」

「それは、ワイルドですね」

「ワイルドだろ? 直後、部屋全体が光の渦につつまれた」


「それって──」

「うん、若林さんもきっと見たはず。タイムリープが起きるときの感覚にとても似ていた」

「水戸さんは、じゃあ、どこかへタイムリープしてしまった?」

「かもしれない。けど、死体を放り投げたからそうなるて、ちょっとおかしくないか」

「たしかに、」

「オレはむしろ、この狂った家(マッドハウス)を監視している人間の怒りを買ったような気がする」

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