【3-4】
かず美さんが突然すがたを消した。
最前までダイヤルボタンを押していたので、状況を鑑みるに、どうやら彼女はクイズに正解したらしい。
脱出成功──それは、田中さんが死ぬほど臍を噛んでいることからもあきらかだろう。
畳に転がっている受話器を手に取って耳に当ててみた。無音だ、ダイヤルボタンを押しても反応がない。
ということは、ここ第2ステージのミッションは打ち切られてしまったのか……。
私は受話器を本体に戻しつつ、
「かず美さんはクイズに正解した──でも、あの短時間でどうやって?」
「あのおばさん」田中さんは吐き捨てるように、「畑中さんに、してやられたよ。ボクがヒントをあげちゃったんだ」
「それって、【MECAROOZ】……田中さんが思いついた」
「そう、でもそれは不正解だった。そのあと畑中さんは、おなじ言葉で再試行しようとした──二重チェックの意味でね。ところが、たぶん【MECAROOZ】のスペルを見て、彼女は正解に気づいちゃったんだろうな」
「瞬時に、そこがスゴいです」
「彼女がメカルーズだったのさ」
「え、」
「簡単なアナグラム──て言ったのはボクだったね。恥ずかしいよ」
「どういうことですか……」
田中さんは無言でメモ用紙にペンを走らせる。それを私に見せつつ、
「【CARZOOME】、かず美。あのひとの名前さ」
「えーっ! ……そんなダジャレみたいな、」
「まあ、スペルがどうこうよりも、クイズの大本の部分だろうな」
【あなたが何者だったか忘れたの? メカルーズ】
「……メカルーズはかず美さん、すると、彼女は何かを思い出したんでしょうか」
「分からない。けど、クイズがボクたち自身のことを言っているなら、3人の名前のうちひとつが正解ってことになる。確率は高いよ」
「なるほど。ダメ元でも試す価値あり、ですね」
「彼女に負けたのは悔しいけど、それ以上にイヤな感じがしてきた」
「というと?」
「畑中さんのことだけど、似ているんだ──水戸女史に」
思わずドキッとする。そうだ、田中さんは第1ステージで水戸さんを見ている……にしても、そんな大事な情報をいままで黙っているなんて!
「じゃあ」私はいったん気持ちを落ち着けて、「かず美さんが水戸さんの親類かもしれない、ってことですか」
「いや、それだとクイズの趣旨に合わない。あなたが何者だったか忘れたの? と聞かれて、そうだ私は○○の家族だった、じゃあまりに遠すぎる」
「遠い、て」
「──はっきり言おう、畑中かず美が水戸本人で、あのおばさんはそれを忘れていたってことさ」
「はい?」
意味が分からない。まったくの別人じゃあないの。
「彼女らを分け隔てているもの、それは年齢と体型だ。ひとは誰でも歳を取ると老け込み、体型も崩れてくる」
「どういうことですか……」
「つまり、時間の問題。問題は時間のみだ。浦島太郎的とでも言えばいいかな」
「──タイムリープ」
「そう、きみ自身がそれを経験しているんだから、否定できないよね」
「それは、そうですけど」
「考えてみれば、ボクらが閉じ込められているこの家も、時間の観念が有って無いようなものだ」
「すると、田中さんは第1ステージで水戸さんに会い、ここ第2で老けた彼女にもう一度出会ったと?」
「そうとしか考えられ──」
「オレも田中さんの意見に賛成だ」
いきなり声がしたので、私は死ぬほどびっくりした。
「あ、青山さん?」
いつの間にあらわれたのか、私の知っている青山さんが目のまえに立っていた。
「なに、なに急に……」
田中さんもおどろいて周囲を見回す。が、どこか様子がおかしい。
「オレが見えますか、田中さん。ハロー」
お道化ながら手を振る青山さん。でもその言葉はぜんぜん田中さんに届いていない。




