【3-3】
けっきょくビーフさんも田中さんも、ふつうに水戸さんに接することができ、幽霊はオレ独りだという寂しい結果に終わった。
だが、水戸さんにだけオレのすがたが見え、声も聞こえるのは何故なんだぜ?
彼女はまさか、ビーフ、田中の両名にオレが見えていないとは思っていないはず。
その事実をひた隠しにしながら彼女と話すのは、けっこうたのしかった。
この家からは出られないことを説明するために彼女を玄関にふたたび誘導し、そこでふたりで話し込んだ。
ビーフさんたちから見たら、あの女、いったい誰と話しているんだろう? てな感じになるんじゃないか。
まあ、服装からしても水戸さんはかなり攻めた路線を行っているので、アタオカ系と思われている可能性は否定できない。
ちょっと気の毒な気もするが、オレだってだいぶ気の毒だ。おなじ世界線の出身として、ここは付き合ってもらおうじゃないの。
ところが。
ビーフさんが毒殺され、かつ、田中さんが脱出に成功したっぽい状況となり、事態は一気にきな臭くなってきた。
この狂った家にオレと水戸さんのふたりきり──もはやオレが幽霊であることを隠す必要もないかと考えたが、いざとなるとなかなか言い出せるものではない。
以前の世界線では彼女のほうが幽霊だった。それを救いにきたオレがそうなっては、実際そうなのだが、ミイラ取りがミイラになるのほぼ実写版である。だいぶ恥ずかしい。
*
「ちょっと2階を見てきても、いい? 独りで考えたいこともあるし」
「いいよ、オレは階下で留守番しているから」
水戸さんがきてから、はじめての別行動となった。オレはオレで気になる点もあった。
それは死体のこと──ビーフさんのではなく最初の、だった。
こいつはいったい誰なのか。なぜオレは、しばらくこいつとサクランボのごたるくっついていたのか。
そして、なぜ急にその呪縛が解けたのか……。
タイミング的には水戸さんがここへきたのと同時だった。とすると、彼女のおかげ?
あらためて死体──《たぶん三沢さん》を観察してみた。
アルマーニのYシャツ、金のブレスレットなど、身なりはわるくない。この家もリビングからして立派なので、おそらく裕福な部類に入ると思われる。
……ん? 何かがヘンだ。
そこで気がついた、死体から死斑が消えていることに。
はっきりと憶えている。オレがこいつと二個一だったとき、たしかに死斑は出ていた。
いまはそれが消えている──のみならず、死体自体になんだか元気がない。
死んでいるから当たり前、と言われればそのとおりなのだが。なんだろう、このハリボテ感……。
死体に変化が起こった? とすれば、やはりオレが原因だろう。
分離したことで、こっちにも変化があったし、死体にも影響があったのだ。
水戸さんはこのことに気づくだろうか、そして、どう思うだろうか。
そんなことを考えていると彼女が2階から降りてきて、すぐ死斑の話をしだした。
以心伝心、いや、こうなる運命なのかも。
死斑なんて知らないよと嘯き、オレはトイレに立った。立つフリをした。
彼女の見ているまえでドアを突き抜けるわけにも行かず、わざとキッチンへ回ることでその目から逃れた。
独りきりになって、ふと思った。幽霊のオレなら玄関のドアから出られるんじゃね? て。
てか、キッチンの端にもう勝手口がある。そもそも壁ですらオレには障害でもなんでもない。
だが壁に向かって突進するのは、ちょっと勇気が要る。やはり勝手口にしよう。
……ダメだ。お得意の物質透過をかまそうとするのだが、カラダが入って行かない。
そうこうしているうちに、リビングのほうで窓をガラッと開ける音が聞こえた。
キッチンを抜けてリビング全体が見える場所までオレが戻ったとき、水戸さんはすでにその態勢に入っていた。
彼女は三沢さんの死体を外にぶん投げようとしていたのだ。
あっ、というオレの声は届いただろうか。その直後、部屋は光の渦──まるで千のフラッシュを焚いたような、に飲み込まれた。




