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レオタード2〜マッドハウス〜  作者: 大原英一
幕間:青山ケイイチ
16/28

【3-1】

 気がつくと、オレは死体を見下ろしたまま(たたず)んでいた。何これ。

 まだ頭がぼうっとする……が、だんだんと記憶が(よみがえ)ってきた。そうだ、女占い師の吉田さんがメールを送ったんだった。

 メールを過去に──それでタイムリープが起きた、たぶん。

 にしても足元に死体って、エグすぎるだろ! とりあえず、いま自分が置かれている状況を把握する必要がある。


 見たところ、ここは一般家庭のリビングらしい。

 すぐ目に入ったのはインターホンだった。受話器と、液晶画面がべつに付いているやつ。

 何気なくそれに手を伸ばして異変に気づいた。受話器がつかめない……最初、遠近感が狂っているのかと思った。

 ついで死体から離れようとして、さらなる恐怖に襲われた。

 離れられない──ていうか、オレの片足が死体の胴体に生け花のように刺さっているじゃあないの!


 じたばたと力一杯にもがく。そして分かったのは、あらゆる感触が失われていることだった。

 インターホンにも、サイドボードにも、死体にも、いっさい触れている感覚がない。

 オレの手も足も顔も、言ったら空気……幽霊(ゴースト)だ。そんなタイトルの映画がむかし、なかったっけ?


 ──冗談じゃない。タイムリープに失敗して死んでしまったのか、オレ。

 だとしても、ぜんぜん知らない家の知らないおじさん(死体)に、文字どおり足を取られているのは何故なんだぜ?

 何にせよ移動制限がかかっているので不便きわまりない。このリビング内を見渡すくらいが精一杯である。


 サイドボードにピザの箱、そして宅配員が着るようなジャンパーが載っていることに、ふと気づいた。

 オレが店員の恰好をして持ってきたのか、それとも、そういう設定なのか……。

 箱の上に伝票みたいのが貼付(はっつ)けてあって、汚い字で「ミサワ様」と書いてある。

 ということは、この死体がご主人の三沢さんなのか。それとも、もともと彼が着ていたジャンパーなのか、これは。


 不意にインターホンのチャイムが鳴り響いた。これはマズいよ、てか、オレに何ができる?

 液晶画面に映っているのは、べつのおじさんで、やっぱりピザの箱を持っていた。どんだけピザが好きなんだよ、この家庭!

 だが、いまこの家でインターホンに出られる人間はいない。

 そりゃそうだ、居間(リビング)に死体が転がっているのに、のうのうと生活している家族もないだろう。

 かと思ったら結果はちがった。女性の声がおじさんに応答しはじめたのだ。


「ドアの鍵、開いているので、玄関のなかまで入ってきてください」

 見るとスピーカーモードと書かれたランプが点滅しており、受話器を上げていないのに彼らのやり取りが聞こえる。

 自動応答なのか、それとも遠隔操作……。

 とにかく、なぞの女性の案内でおじさんは玄関まで入ってくるらしい。でもそのさきは?


 案の定おじさんは玄関で呼びかけるが、誰も彼を出迎える者はない。しびれを切らし彼はリビングに入ってきた──まあまあ、そうなるよね。

 そこからは画に描いたような死体発見劇である。もちろん、おじさんにオレという付属品(オプション)は見えていない。

 あたふたと電話を探しまくるおじさん、だが、どうやらこの家には固定電話もケータイも置いていないらしい。

 とうとうおじさんは外に助けを呼びに出た──と、そのときオレは思った。

 リビングからは玄関の様子が見えないので、てっきりそう思い込んでいたのだが……。


 ところが、待てど暮らせど警察が駆けつけてくる気配がない。何やってんのおじさん、とオレはやきもきした。

 まさかおじさんがこの家から出られなくなっているとは、ゆめ思わなかった。その事実が発覚したのは、おじさんのつぎの店員がやってきてからだった。

 もちろん彼らは本物の宅配ピザ屋ではない、やらされているのだ。ここの家族がただのピザ好きではないこと、いい加減それが分かってきた。

 さすがにオレや死体だけじゃなく、ここを訪れる人たち──いや、家全体がおかしいと気づきはじめた。

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