【2-8】
仏壇下部の戸棚──そのなかに入っていたのは、筒状に丸められ輪ゴム留めされた白い画用紙だった。
絵画か図面か、そんな予想をしながら輪ゴムをはずすと、それは一幅の絵だった。子どもが描いたような、パステル調の。
その絵に私は何か邪悪なものを感じた……うまく言い表わせないのだが。
かず美さんと田中さんにも絵を見せる。彼らも私とおなじような印象を持ったようだ。
「何だか気持ちわるい絵ね」かず美さんははっきりと言う。
「たしかに」田中さんも顔をしかめ、「この家自体、子どもの生活感がないっていうか……。ほかの部屋でも見なかったろ? オモチャとかぬいぐるみとか」
「そうですね──あ、もしかして、これって三沢さんが子どものころに描いた絵なのでは?」
「でも、あきらかに女の子が主役の絵だよ」
「あ、」
ド天然ぶりを露呈し、思わず顔が真っ赤になる。画中の少女が私を見て笑っている、べつの意味で。
それにしても、見れば見るほどに違和感をおぼえる絵だ。
画面中央におさげ髪の女の子。青いスクール水着すがたで、胸のところに白いゼッケン? でMeと大きく書いてある。帰国子女か。
人物が水着なので海かプールかというシチュエーションを期待しがちだが、象やキリンが描いてあり、どうも動物園らしいことが見て取れる。
そしてナゾの乗用車が1台。ほかの家族や人物が乗っているわけでもなく、正直それ必要? って感じがする。
「あっ──ボク、分かったかも」
田中さんが急に言ったので、かず美さんと私はビクッとする。
「あのさ、武士の情けでいちおう解説はするけど、解答はボクがするからね? 答えを思いついた人間がボタンをプッシュする、そのルールで行こうじゃないか」
「ずいぶんな自信ね、じゃあ聞かせてよ」
かず美さんの挑発に表情を変えることもなく、田中さんはすらすらとメモ用紙にペンを走らせる。
【MECARZOO】
「このアルファベットの並びに、見おぼえはないかい」
「──メカルーズ!」とっさに私は叫んでいた。
「そう、簡単なアナグラムさ。ZOOをちょいと入れ替えてやれば、ほら、
【MECAROOZ】のできあがり」
調子に乗る田中さんに対し、かず美さんは無言のままだ。内心では悔しがっているのかもしれない……。
その彼女がこさえた変換表(前話参照)を使って、田中さんは英文字をダイヤルに直して行く。
【M(4*)E(5)C(3)A(1)R(9*)O(6*)O(6*)Z(8#)】
↓
【(4*)(5)(3)(1)(9*)(6*)(6*)(8#)】
「まあ、この第2ステージがイチ抜け方式か、あるいは全員合格方式か分からないけど、とりあえずリーチをかけてみるよ」
言いながら田中さんはダイヤルボタンをプッシュする。彼の解答がもし正解ならば……否応なしに緊張が高まる。
「──くそっ!」
え? ということは不正解だったのだろうか。あんなに自信満々だったのに……。
「アタシがダイヤルしてみる」
言ってかず美さんは、田中さんからメモをひったくった。
たしかに、数字の変換ミスやボタンの押し間違いという可能性も考えられる。二重チェックの意味で彼女は再試行するつもりなのだろう。
ところが。
消えた……かず美さんのすがたが、急に。彼女が握っていたはずの受話器が、いまは畳の上に転がっている。
一瞬何が起こったか分からず、私と田中さんはお互いに顔を見合わせ、ただポカンとするのみだった。
「いやいやいやいや……ウソだウソだウソだ……!」
数十秒もしないうちに、田中さんが念仏のように唸りはじめた。
「大丈夫で──」
「やられた」田中さんがもろに被せてくる。「……あのおばさんに出し抜かれたんだよ、ちくしょう!」
「はい?」
意味が分からなかった。けど、彼が血の滲むほどに口唇を噛んでいる様子だけは見て取れた。




