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レオタード2〜マッドハウス〜  作者: 大原英一
第2ステージ:若林芽衣
15/28

【2-8】

 仏壇下部の戸棚──そのなかに入っていたのは、筒状に丸められ輪ゴム留めされた白い画用紙だった。

 絵画か図面か、そんな予想をしながら輪ゴムをはずすと、それは一幅の絵だった。子どもが描いたような、パステル調の。

 その絵に私は何か邪悪なものを感じた……うまく言い表わせないのだが。

 かず美さんと田中さんにも絵を見せる。彼らも私とおなじような印象を持ったようだ。

「何だか気持ちわるい絵ね」かず美さんははっきりと言う。


「たしかに」田中さんも顔をしかめ、「この家自体、子どもの生活感がないっていうか……。ほかの部屋でも見なかったろ? オモチャとかぬいぐるみとか」

「そうですね──あ、もしかして、これって三沢さんが子どものころに描いた絵なのでは?」

「でも、あきらかに女の子が主役の絵だよ」

「あ、」

 ド天然ぶりを露呈し、思わず顔が真っ赤になる。画中の少女が私を見て笑っている、べつの意味で。


 それにしても、見れば見るほどに違和感をおぼえる絵だ。

 画面中央におさげ髪の女の子。青いスクール水着すがたで、胸のところに白いゼッケン? でMe(わたし)と大きく書いてある。帰国子女か。

 人物が水着なので海かプールかというシチュエーションを期待しがちだが、象やキリンが描いてあり、どうも動物園らしいことが見て取れる。

 そしてナゾの乗用車が1台。ほかの家族や人物が乗っているわけでもなく、正直それ必要? って感じがする。


「あっ──ボク、分かったかも」

 田中さんが急に言ったので、かず美さんと私はビクッとする。

「あのさ、武士の情けでいちおう解説はするけど、解答(ダイヤル)はボクがするからね? 答えを思いついた人間がボタンをプッシュする、そのルールで行こうじゃないか」

「ずいぶんな自信ね、じゃあ聞かせてよ」

 かず美さんの挑発に表情を変えることもなく、田中さんはすらすらとメモ用紙にペンを走らせる。


ME(わたし)CAR(くるま)ZOO(どうぶつえん)


「このアルファベットの並びに、見おぼえはないかい」

「──メカルーズ!」とっさに私は叫んでいた。

「そう、簡単なアナグラムさ。ZOO(どうぶつえん)をちょいと入れ替えてやれば、ほら、

【MECAROOZ】のできあがり」

 調子に乗る田中さんに対し、かず美さんは無言のままだ。内心では悔しがっているのかもしれない……。

 その彼女がこさえた変換表(前話参照)を使って、田中さんは英文字をダイヤルに直して行く。


【M(4*)E(5)C(3)A(1)R(9*)O(6*)O(6*)Z(8#)】

 ↓

【(4*)(5)(3)(1)(9*)(6*)(6*)(8#)】


「まあ、この第2ステージがイチ抜け方式か、あるいは全員合格方式か分からないけど、とりあえずリーチをかけてみるよ」

 言いながら田中さんはダイヤルボタンをプッシュする。彼の解答がもし正解ならば……否応なしに緊張が高まる。

「──くそっ!」

 え? ということは不正解(ダメ)だったのだろうか。あんなに自信満々だったのに……。

「アタシがダイヤルしてみる」

 言ってかず美さんは、田中さんからメモをひったくった。


 たしかに、数字の変換ミスやボタンの押し間違いという可能性も考えられる。二重チェックの意味で彼女は再試行(リトライ)するつもりなのだろう。

 ところが。

 消えた……かず美さんのすがたが、急に。彼女が握っていたはずの受話器が、いまは畳の上に転がっている。

 一瞬何が起こったか分からず、私と田中さんはお互いに顔を見合わせ、ただポカンとするのみだった。


「いやいやいやいや……ウソだウソだウソだ……!」

 数十秒もしないうちに、田中さんが念仏のように(うな)りはじめた。

「大丈夫で──」

「やられた」田中さんがもろに(かぶ)せてくる。「……あのおばさんに出し抜かれたんだよ、ちくしょう!」

「はい?」

 意味が分からなかった。けど、彼が血の滲むほどに口唇を噛んでいる様子だけは見て取れた。


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