【2-7】※図表あり
電話機のダイヤルボタンを押すことで、かず美さんは、こちらからアルファベットの単語が発信できることを発見した。
以下、彼女によるレクチャーがはじまる。
「ベタだけど、最初に110番にかけようとしたのよ。1、1、0て押したら……」
【A、A(1秒後に)不正解】
「──て音声が流れたのよ、女性の声で。もちろん自動音声だとは思うけど、クイズを出しているのは男性の声よね」
「こちらの解答が女性の声で発せられる、ってことですね」
「そう思った。で、つぎに2、2、0て押したら……」
【B、B(1秒後に)不正解】
「で、今度は0を抜いて1、1て押したら【A、A】としか言わないわけ」
「ははあ」
「ね? つまり、1がAで2がB。0は解答を決定するエンターキーみたいな役目ってことよ」
「なるほど」
「AからIがそのまま1から9、JからRが──2周目というか、番号プラス*。SからZが3周目になって番号プラス#。いろいろやって、そういう法則だってことが分かったの」
かず美さんは田中さんから紙とペンをひったくると、簡易ダイヤル変換表みたいなものを書いてくれた(図参照)。
「ふうん、」いままで大人しくしていた田中さんが口を開く。「じゃあこれで、ボクたちはクイズに解答できるってわけだ。正解すればミッションクリア、かもね。正解が分かれば──の話だけど」
「あの、さすがに安易すぎる気はしますけど……メカルーズそれ自体が答え、なんていう可能性は?」私は提案してみる。
「問題は正確なスペルだよな。まさかmecha(機械)にlose(負ける)じゃあるまいし」
「試してみれば? 解答するだけタダなんだし」かず美さんが言う。
「そうですね」
私は乗ってみることにした。ダイヤル変換にも慣れておく必要がある。
「えっと、メカルーズのスペルがmechaloseだとすると……」
変換表を見ながら、アルファベットを1文字ずつメモに書き出して行く。
【M(4*)E(5)C(3)H(8)A(1)L(3*)O(6*)S(1#)E(5)】
↓
【(4*)(5)(3)(8)(1)(3*)(6*)(1#)(5)】
ぜんぶ書き終えると、その番号と記号のダイヤルボタンを押して行った。
『M、E、C、H……』と機械の音声が呼応する。
なんだか、むかしのポケベルみたいだな──なんて考えながら、最後にエンターキーの役目を持つ0を押すのを忘れない。
【……不正解】
まあまあまあ、予想どおりの結果ではある。
ただ変換ミスやボタンの押し間違いなどの可能性もあるので、念のため、かず美さんにもチェックしてもらったが結果はおなじだった。
「やっぱり、そう簡単じゃないですね」
「あと考えるべきなのは、」田中さんが言う。「クイズの大本の部分だ。『あなたが何者だったか忘れたの?』っていう問いだったろ」
「どういう意味かしら……」かず美さんは腕を組む。
「ボクたち自身に対する問いかもな。──まさかとは思うけど、このなかで記憶喪失の人はいないよね?」
「でもアタシたち、ある意味で皆、記憶喪失なんじゃないの? わけも分からないまま宅配ピザ屋の恰好をさせられて」
「たしかに」田中さんは半笑いで言った。「するとやはり、これはメカルーズという人のお話なのかな。記憶をなくしているのは彼または彼女で……もう一度聞くけど、このなかにメカルーズさんは潜んでいないよね?」
「それ自体を忘れているってことでしょ、だから」
かず美さんがピシャリと言う。どこまで行っても平行線に終わりそうだ。
ふたりのやり取りを聞きながら、私は何気なく仏壇に触れてみた。紫檀でできた一般的な仏壇──電話機が収まっている観音開きの扉の下に、横にスライドさせる戸棚が付いている。
お線香でも入っているのかな、そんなかるい気持ちで戸棚を開けたのだが……。




