【2-6】
沈黙が訪れた。皆──かず美さんも田中さんも、これからどうするべきかを考えているのだろう。
私も頭のなかを整理してみる。とりあえず分かったことは、この家がマトモじゃないということ。まさに狂った家だ。
この家は基本的に脱出困難である。ドアや窓から外へ出ようとしても、どういうわけか内側に引き戻されてしまう。
だが、ある条件を満たすとつぎのステージに進むことができる。
それが誰の意図するものなのかは分からない。あと、ステージを重ねた果てに解放が約束されているのかすらも……。
はっきりしているのは、私たち以外の《誰か》がこの家を監視していて、ときにヒントをくれたり罠を仕かけてきたりするということ。
これまで登場したアイテムとしてはピザ(毒入り、毒抜き)、インターホン(1階、2階)などがあった。とくに後者はかなりミステリアスだ。
田中さんの話によれば、彼は《誰か》と直接通話したらしい。
が、この天邪鬼なインターホンはちょいちょい通話不能になったり、自動音声に切り換わったりするらしいフシがある。
音声も男性のものであったり女性のものであったりと、さまざま。相手が機械か人間か、単独か複数か──そのへんもよく分かっていない。
そして、私にとって重要人物である水戸さん。
彼女が取っていたという不可解な行動も気になるところだ。田中さんが言うように、水戸さんもまたトランシーバ的な何かで誰かと通信していたのだろうか。
だが彼女は、結果的に田中さんに情報面で遅れを取り敗退してしまった。第1ステージに取り残された彼女はいま、どうしているのか……。
不意に音が聞こえはじめた。
リビングにいる皆の視線がインターホンに集中する。しかし、どうやらチャイムの音ではないようだった。
「電話の呼出音……」
かず美さんがつぶやく。私にもそう聞こえる。
「となりの部屋からみたいだ」
言って田中さんはソファを立った。そして、隣室との仕切りである襖をおもむろに開け放つ。
隣室は8畳ほどの和室だった。もちろん私は見るのも入るのも、はじめてだ。
パッと見、電話らしきものは見当たらない。まあそう簡単に見つかったら、第1ステージで亡くなったビーフ氏の立つ瀬がない。
「このなかから聞こえる」
田中さんが開けたのは仏壇だった──まさに観音開きというやつ。
すると、空っぽの仏壇のなかから家庭用の固定電話があらわれた。なんというシュールな……。
「もしもし」田中さんが受話器を取った。電話と言えば彼の役割になりつつある。
だが、そのあとの会話がない。まさか無言電話? しばらくすると彼が受話器を私にパスしてきた。
「紙とペンを探してくる」
言って彼は和室を出て行った。わけが分からないまま、私は受話器を耳に当てる。それをかず美さんが心配そうに見ている。
電話の相手は男性──というか、それこそ自動音声みたいだった。短いセンテンスの英語を何度も繰り返している。
私はかず美さんに受話器をパスした。真剣な表情で彼女もそれに耳を傾ける。
田中さんが戻ってきた。リビングで紙とペンを調達してきたらしい。
「ここにいる三人、電話の内容を聞いたね? いったん、電話を切ってみよう」
かず美さんはうなずき、受話器を置いた。
ふたたび電話がかかってくる気配はない。彼女はまた受話器を取る。通話が切れているか、たしかめたかったのだろう。
「(通話は)切れていない。ずっとおなじ英語を繰り返しているわ」
「自動音声であることは間違いないみたいだね。ちなみに、音声がしゃべっている英語はこれで合っているかな」
言って田中さんは、紙に書いた文字を私とかず美さんに見せる。
【Did you forget who you were? XXXX(メカルーズ、と聞こえる)】
「私にもそう聞こえます。『あなたが何者だったか忘れたの? メカルーズ』って意味ですよね。メカルーズが何か分かりませんが……」
「人名っぽいけど」田中さんは頭を掻きながら、「音声だけじゃ正確な綴りも分からないしな」
「でも、どうやらこれが第2ステージのミッションっぽいわね」
かず美さんは受話器を片手に電話機のダイヤルボタンを押しはじめた。ダメ元で発信できるか試しているらしい。すると、いきなり──
「あっ、」彼女が叫ぶ。さらに、ぽちぽちとボタンを連打する。「やっぱりだ……アタシ、発見しちゃったかも」




