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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第三章 イングズ共和国動乱記
96/362

96 合流

草原を駆ける柔らかな風に流れる髪を撫で透かしながら空を見上げる。

昨日までの晴れ空は夜が明け、陽が中央に差し掛かる頃には分厚い雲が張り込めてきた。

空気も少しづつ湿気を帯び始めているから、午後からは雨が降り始めるだろう。

「もう少し急ぎますかね」

既に駆け足気味ではあったけど、雨に降られるのは面白くない。

北の町は既に見え始めているから、身体強化を使えばすぐにでも着くだろう。

まぁ、急ぐ理由はそれだけではないのだけれども。

(ハルヴィルは上手くやれるかしらね)

後ろ髪が引かれる思いではあるけれど、私は私で為すべき事があるし、そちらに集中しないといけない。


アグルを含むハンター達が町から消えて、その件に関してハルヴィルと話し合ってから三日後。

私は単身、北にある町へと向かっている。

目的はランデル達と合流、そして魔物の群れの排除だ。

当初の予定を変更しているのは勿論アグルが消えてしまった事にもよるけど、その件を話した翌日にハルヴィルの下に追加報告として寄せられた情報にキナ臭さを感じたからでもある。

どうやら、新たな魔物の群れが現れたらしいのだけど、その群れの様子がおかしいのだという。

かなり狂暴化しているようで、加えてどうも赤黒い靄みたいなものを纏っているのだという。

それを聞いた私は説明もそこそこにこうして飛び出してきた、というのが今現在の状況だ。

ちなみに、首都から北の町までは馬車で四日程、馬単身で駆ければ二日と半日。

それを私はほぼ一日で強行軍で駆け抜けてきた。

街道を通れば流石に人目に付いてしまうから草原のど真ん中を通ってきたのだけど、そのお陰でこうして少しだけ速度を緩める事が出来ていた。

「流石に少し疲れたけど、ここまでくればとりあえず一安心ね」

一度呼吸を整えてから左目の聖痕を使って彼方を見つめる。

そこに聳えるのは断絶山脈、即ち魔物が現れた方角でもある。

そして、

「信じたくは無いけど、これはもう決まりね」

聖痕を宿す左目が捉えたのは、渦巻く魔力。

それも、恐らく魔物が纏うのと同じ赤黒い、禍々しい力。

それが麓を中心に森の方にまで広がっていた。

明らかに不自然な魔力、その存在が自分の考えが当たってしまっている事を如実に示している。

「帝国はこの国にも手を出しているのね」

まだ距離があるこの場所から見ても異常な状況、それを作り出してるのが何なのか。

(魔導具だとは思うけど、、、駄目ね、ここからじゃ見えない)

魔力が濃すぎてどこが発生源なのか今いる場所からはもはや確認できない。

もしも見えていたら真っ直ぐにその場所に向かってしまおうかとも思ったけど、流石にそうは都合良くは行かない。

諦めて予定通り町へと向かいランデル達と合流すべく、私は緩めた速度を再び上げて走り抜けていく。


程無くして北部の町に着いたのは良いんだけど、

「うわぁ。ま、そりゃそうか」

目に飛び込んできた景色は噂で聞いていた長閑で牧歌的、とは程遠い物々しさだった。

町を囲う様に立てられた防護柵、そしてそれに沿う様に掘られた水堀。

それ以外にも、所々に積み重ねられた石の山や背丈以上ある盾の様に組まれた木の板。

まるで戦争の最中かの様な雰囲気をさらに引き立てているのが悲しい事に住人達である。

そもそも出歩く人影は少なく、たまに見掛ける人も暗い表情で俯き気味に行き交うのみ。

擦れ違っても挨拶どころか顔すら上げない。

魔物の群れが現れただけならまだしも、それが前例のない程に狂暴化しているのだ。

加えて、恐らくこの辺りを治める領主も先祖代々引き継ぐ土地を魔物如きに好き勝手されているのを知られたくはなかったのだろう、議会や協会への応援要請を出していなかったのだろう。

とは言え、結局は協会が事態を把握した事で状況が明るみになったのだろう。

だけど、

(アグルはこの有様を放置したの?それとも、当初は本当にそれ程の規模じゃなかった?当人から話を聞きたいけど、それはハルヴィルに任せるしかないわね)

こうして直接見た事でアグルの動きが益々怪しくなってしまったけどそれはとりあえず置いておき、まずは。

「確か宿はこの先よね」

事前に確認はしておいたから、暗い表情の住人に声を掛けるなんて難易度の高い会話をする必要が無くて済む。

どんよりとした町の通りを進み、ランデル達が泊まっている宿が見えてくる。

そしてその入り口付近に、数人の人影が何やら話し込む様に顔を突き合わせていた。

その内の一人が徐に顔を上げ、

「あれ、リターニアさん?」

まさしく訪ね人であるランデルが私に気付いて驚きの声を上げる。

それに釣られて他の面々もこちらに顔を向けて一様に驚いたりしている。

この様子だとまだハルヴィルからの連絡は届いてなさそう。

「私が先に着いたようね。直に連絡が来ると思うけど、事情が変わって私もこっちに対応する事になったわ」

軽く挨拶しながら事情を説明する。

さて、まずは彼らがアグルについてどう考えているかを確認しないといけないわね。

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