87 ハンターとは
数日後、首都に戻ってきた私の下に早速アグルから連絡が来た。
のだけど、その内容がちょっとまぁ、ね。
「聖女と共に魔物討伐に行くってだけなのに、なんで揉めてるの?」
思わず使いの人に問い掛けるけど、その人も困った笑みを浮かべるだけだった。
まぁ、ここで考えてもしょうがないし、とりあえず協会に向かうとしよう。
「で、これはどういう状況なの?」
着いて早々、そこは非常に愉快な事になっていた。
「あー、スマンな。フェオールの戦いに参加した連中がアンタの活躍を話したら、何故かこうなっちまった」
坊主頭を掻きながら呆れたように話すアグル。
そんな私達の目の前では、ハンター達が殴り合いを繰り広げていた。
流石実力社会、私と共に戦う栄誉を勝ち取る為にまさかこんな事になるとは。
無関係なら楽しめたのだろうけど、騒動の中心が私なのは間違いないし、ここは止めに入った方がいいのだろうか。
そう思って隣のアグルに視線を送ると、彼は任せたとでも言う様に肩を竦めてみせる。
なら、ここは遠慮なくやらせてもらおう。
一歩足を踏み出し、胸の聖痕に魔力を流す。
(うーん、三割位で丁度良いかな)
少しだけ考え、聖痕を解放する。
その瞬間、あれだけ騒々しかった室内が凍り付いたかのように静かになる。
全員からの視線を一身に受けつつ、彼らの様子を観察する。
予想通り、私の力への反応は二つ。
一つは、冷や汗を搔きながら硬直する、まぁそれなり程度の連中。
もう一つは、即座に戦闘態勢を取りつつこちらの様子を窺う、そこそこな連中。
(残念だけど、望んだ反応をしたのは居なかったかぁ、、、おや?)
内心で落胆しつつもう少しだけ気配を探っていると、これまでとは違う反応をしている者が居た。
彼等はこの乱闘には参加せずに、少し離れた所から様子を見ているようだった。
数は五人、それぞれがそれなりの実力者のようだ。
(へぇ、ならこれはどう?)
その彼らに向かって鋭い殺気を飛ばす。
「おい!?」
リーダーと思しき男の怒鳴り声が響き、直後に彼らが戦闘態勢に入る。
武器を構え、強化魔法を施し、次の手を打つ手前までに要した時間は大体三秒ほど。
「アグル、あの五人にする」
「お前さん、もうちょい穏便にやれんかねぇ。まぁアイツらなら申し分無いけどなぁ」
私が満足そうに告げると、相変わらず渋い顔のアグルが深い溜息と共に応え、私が目を付けた五人組に顎で階段を示す。
それでようやく合点が行ったのか、彼等も警戒を解きつつもまだ少し緊張感を漂わせたまま先に上階へと上がる。
「よし、お前らこれで解散だ!今回は特殊な任務だ、これ以上の騒ぎも詮索も許さん!」
アグルの怒声が響き渡り、好き放題していたハンター達が不承不承ながらも散っていく。
その際、何人かのハンターが私を恨めしそうに睨んでいくけど、中身の無い凄みなど受け流すまでも無い。
寧ろ、ニッコリ微笑み返すと一転してだらしない顔になるから面白い。
横でアグルが呆れている様な気配があるけど、まぁ気にしないでおこう。
騒ぎが落ち着き、私とアグルも二階にある応接室へと向かった。
中に入ると先に来ていた五人は思い思いに待機していたようで、私とアグルが入って来たのに気付いて二組あるソファの一つに集まる。
その反対側に座ると、同じく隣に座ったアグルが一度彼らの顔を見回す。
「よし、細けぇ話は既にしてあるから省いちまうぞ。コッチのお嬢さんがフェオールで一暴れした聖女様だ」
「人を獣扱いしないでくれる?」
「いきなりハンター共を威圧する奴が何言ってんだ。どちらにしろじゃじゃ馬なのは間違いないだろが」
アグルの言い分に肩を竦めつつ、改めて正面の彼らに声を掛ける。
「さっきはごめんなさいね。一応試験とでも思ってもらえれば助かるわ」
「あ、ああ。いきなりでビビりはしたが、まぁ流石にあそこまで強烈なのは勘弁願いたいぜ?」
リーダーらしい男性が苦笑いを浮かべつつも答える。
「全くだ。しかしまぁ、こんなお嬢ちゃんがあれだけの殺気を放ってきたんだ、言うだけの事はあるのは間違いないだろうさね」
その隣に座る、鍛え上げられた体躯の女性が腕を組みながら鷹揚に頷く。
座っている姿でさえも威圧感が凄いし、実際さっき見掛けた姿も下手な男よりも大柄で頼り甲斐がありそうだった。
「あれ?」
その時、ふと彼らの姿に既視感を感じて思わず声が出た。
アグル達が何事かとこちらを見てくるけど、それを置いておき記憶を探る。
そして、
「ああ!貴方達、フェオールの森で魔物と戦ってたハンター達じゃない!」
「え?あ!それってもしかして、熊型の魔物か!?フェオールの南の森の中!」
リーダーの男性も思い出したのか、身を乗り出して私を見つめてくる。
彼の言葉に頷いて、戸惑うアグルに説明する。
「私がフェオールで色々してる時に偶然彼らが戦ってる所に出くわしてね。成り行きで手助けしちゃったのよ」
思えば、あれからもう大分時間が過ぎていてすっかり忘れていたけど、まさかここで再会するとはね。