85 友情の形
ハルヴィルとアグルが無事に合流したことだし、私はその場を去ろうとしたのだけど。
「いや、寧ろ旅の方の意見も聞いてみたいですね」
「むぅ、俺としては余り部外者を巻き込みたくはないんだが、、、しかし手詰まり感があるのも確かだしなぁ」
ハルヴィルは嬉々として私を引き留め、アグルも渋々ではあるけど同意を示した。
と言うか、私は巻き込まれたくないんですけども。
取り繕う事無く半目でハルヴィルを睨みつけるが、相変わらず彼はにこやかな表情でそれを受け流す。
空いている席に腰を下ろしたアグルは自分で淹れたお茶を豪快に飲み干してから、私を遠慮がちに窺いながら改めて自己紹介を始めた。
「ハル坊がわりぃな。改めてだが、俺はアグル・ラグル。魔獣討伐協会の会長をしているが現役のハンターでもある。コイツの親父さんと古い知り合いでな、その関係で良く面倒を見ていたもんで」
成程、アグルは見た目は若々しく見えるけど、どうも実際には五十歳は超えているらしい。
鍛え上げられた体ど少し乱暴な口調でそうは見えないけど、態度や纏う雰囲気、そして言葉の端々に老成されたそれを感じ取れた。
「しかしまぁ、コイツもこの若さで色々と苦労してるからなぁ。浮いた話の一つでもありゃ俺としても安心できるんだが、とは言え見ず知らずのお嬢さんに粉を掛けるたぁ流石になぁ」
「そういうのじゃありませんよ。彼女に迷惑を掛けてしまいますからね」
しかしまぁ、二人は親子程の年の差があるのだけどそれを感じさせない位には気さくなやり取りをしているし、互いの立場もあるだろうにそれも気にせずに居られるのは良い事なのだろう。
件の噂は気になるけれど、この二人が居るならそれも一安心だろうか。
そうこうしながらもようやく一息吐いたアグルが咳払いをして気怠げだった表情を引き締める。
それに合わせるかのようにハルヴィルも笑みを消して真剣な顔になった。
「んでだ、お嬢さんも気付いてるだろうが、この国はちょいと厄介な事が起きててな」
そう切り出したアグルは一度ハルヴィルの方を見ると、
「北の平原のさらに北、つまり断絶山脈の麓から大量の魔物が溢れて来てやがる。しかもどいつもこいつも狂暴化してな」
「もしかして、ハンターがたくさん居るのは」
「ああ、その為に呼び戻してる」
これはまた新しい情報だ。
これまで魔物に関する話なんて何処も出てなかった。
という事は、それなりに重要で尚且つ秘匿度も高い、つまりは緊迫した状況だという事だ。
だとしても、それを私の様な無関係な外部の者に話してもいいのだろうか。
表情に出ていたのだろう、私を見たアグルがニヤリと笑みを浮かべる。
「おっと、気にするな。こいつはそろそろ公表する情報だ。寧ろ、ここからが本題とも言える」
「それについては私から話しましょう」
どうやらここからが本題のようで、表情を引き締めたハルヴィルが一つ頷いて口を開く。
「魔物の狂暴化はここ最近の事なのだけど、それより以前から別の問題が起きていたんだ。まあ簡単に言うと国と協会の対立だね」
「古くからちょいとしたいざこざはあったんだが、ここ数年特に激化してなぁ。俺が会長になって、んでハル坊が折良く議員になったってのもあってこうして裏で何とかしてきてたんだがなぁ」
アグルが坊主頭を撫でながら困ったような声で続ける。
「なんか他所でキナ臭ぇ事が起きてるってんで浮足立ってやがんだ。どういうこったか、それと俺ら協会が絡んでるんじゃねぇかって言い掛かりを付けて来てんだ」
「若い議員はまだしも、お歴々方がね。協会の規模拡大は謀反の証だー、なんて間抜けた事を言ってて。それとフェオールやアンスリンテスで何かあったらしく、どうしてそれらをひっくるめて協会のせいだって騒いでるんだ」
なるほど、ようやく話が見えてきた。
議会と協会の対立はそもそも議会の年寄り連中の妄言がきっかけだったと。
そこに運悪く魔物の発生と狂暴化が重なりハンターを呼び戻したせいで余計話が拗れている。
しかも、フェオールとアンスリンテスの事も聞きつけているとは。
お陰でさらに勘違いが暴走している感まであるから始末に負えない。
「つまり、現時点では議会側の一方的な敵対意志があるだけなんですね?」
自分で言っておいておかしい話ではあるけど、恐らくそれだけではないという確信がある。
そして、それを肯定するようにアグルが深い溜息と共に首を振る。
「残念ながらそうじゃねぇんだよ。若いハンター共は血の気が多くてな、ジジイ共の言葉を真に受けて先走りやがったんだ。俺の監督責任でもあるんだが、、、」
「うん、残念な事に、数人のハンターが議員の一人を襲撃しちゃってね。幸い、脅すだけのつもりだったらしくて大した怪我じゃなかったんだけど、まぁ、ね」
うん、最後まで言わずとももう分かってしまった。
結局、そのハンター達の行動が議会側の発言を裏付ける事になってしまった。
どのような思惑があろうが、言葉でなく暴力で訴えてしまった時点でこの対立は確定してしまったのだ。