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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第三章 イングズ共和国動乱記
83/362

83 出会い

魔獣討伐協会で調査をした次の日、私は一旦宿を引き払い移動する事にした。

昨日、協会で話を聞いた限りだと今すぐに何かが起きるという状況でない事は把握できた。

であれば、今の内に他の街の様子でも見ておこうと思ったのだ。

それに、何だかんだとこれまでゆっくりと町や景色を見て回る事も出来なかったし、折角だからついでに観光でもしようと思い立ったのである。

ちなみに、イングズ共和国には首都であるイングズの他に、南に一つ、東に一つ、北に二つの町がある。

どれもそこそこの規模ではあるけれど、昔と比べるとやはり縮小傾向にあるという。

十数年前まではもう少し町はあったらしいのだけど、色々な事情があってかつての王族の血筋が途絶えてしまい、近隣の町の一部として統治されていったそうだ。

今では村として格下げされ代官による運営がされているようで住人の流失が続いている、とも。

あと数年もすれば村としても維持できなくなり、廃村と共に統治している町に全ての住人が移住する事になるだろう。

結局、かつて力で奪い取っていた物を今では政治と謀略で勝ち取る形に変わっただけなのだろう。

そこに住む者達にとっては迷惑も良い所だろうけど、そこはそれ、上手い事甘い汁を吸わせる事で不満を抑えているようだ。


事前に仕入れた情報を整理しながら馬車に揺られる事三日。

まず私が最初に来たのは共和国南部にある町。

かつては海を背にしていた事もあってかなりの勢力を誇っていたそうだけど、残念ながらその海は崖の下にあり、加えて南東方面に広がる森が厄介であった。

始めの内は魔物達が潜むこの森を盾として攻め手の動きを制御していたが、時間が経つに連れてそれを逆に利用されてしまい挟撃を受ける形となり、逃げ道を失ってしまったのだという。

幸いと言うか、攻め滅ぼされる前に同盟が組まれる事になり、生き残る事が出来た。

今では、森が近いという事もあって訓練に向かうハンター達が身支度を整える町としてそれなりに栄えており、フェオールにある港町とも距離が近い事もあって南の行商拠点としても機能している。

紆余曲折を経てそういう形に落ち着くとは、何がどう転ぶか世の中分からないものであると、しみじみ思ってしまう。


気を取り直して、町の中をのんびりと散策する。

ここは首都と違って落ち着いている感じだ。

住人も普通に過ごしているし、チラホラと見掛けるハンター達も特に忙しなくしている様には見えない。

「こっちは案外平和ね」

不自然にならない程度に辺りを見回してみても、特に気になる事は見つからない。

そのまま一度町を抜け、海を一望できる展望台へと向かう。

イングズに来てから知った事の一つにここがあった。

なんでも、かつて戦乱の時代にここは戦地に赴く男とそれを見送る女、つまり恋人達が再会を約束する場所として古くから使われていたそうだ。

時を経て、今では恋人達の逢引の地として観光名所の一つとして有名らしい。

残念ながら私は独り身だし、そもそも相手を作る気も無い。

それでもここに来たのは、

「これは想像以上の景色ね」

思わず息を吐いてしまう位に、そこからの景色は綺麗だった。

一面に広がる海と、果てしなく広がる空。

本来なら天と海を隔てる水平線が、今日みたいにいい天気だと混然一体と化し、無限に広がる光景に様変わりするのだ。

ちなみにではあるけど視線の先、海の向こうには以前行こかと考えていたエオロー連合国と、それに隣接するヤーラーン帝国がある。

前者は五つの小さな島で構成された島国で、後者は三つのやや大きめの島を跨ぐ列島国だ。

それらの国にもそのうち行ってみたいなぁ、なんて思いを馳せながらぼんやりと海を眺めていると。

「いい景色ですよね、ここは」

いつの間にか少し離れた所に一人の男性が立っていた。

少し草臥れては見えるけど、身なりの良い服を着ているから多分それなりに地位の高い人だろう。

それにしても見ず知らずの、それも一人で居る女にいきなり声を掛けてくるとは、これはもしかしなくともそう言うヤツなのだろうか?

「ああ、突然失礼。ここしばらくは人を見掛けなかったものですからつい声を掛けてしまいました」

柔らかな笑みを浮かべたその人は距離を保ったままこちらに向き直ると、背筋の伸びた綺麗なお辞儀をした。

「私、この国で議員を務めておりますハルヴィル・ディートリオンと申します」

「リターニア・グレイスです。まさか議員さんとは思いませんで、失礼しました」

「いえいえ、お気になさらず。先に礼を失したのは私ですから」

いや、本当に驚いた。

危うく返事を返し損ねるところだったのを何とか取り繕えたのはたまたまだ。

気さくな感じから大した役職ではないだろうと思っていたら、まさか議員だったなんて夢にも思わないでしょ普通は。

相変わらず人当たりの良い笑みを浮かべる彼、ハルヴィルを改めて観察してみるけど、どうしても最初の草臥れた印象が強くて、名乗られた今もそれが覆らないの一体どうした事なのだろう。

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