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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第三章 イングズ共和国動乱記
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81 政治と武力

イングズ共和国。

魔獣討伐協会の本部があるこの国は、平時は人があまり居ない事で有名だったりする。

言うまでも無く、ハンターという仕事がそもそも一か所に留まる様な仕事ではないからだ。


この国は人口の四割近くがハンターを生業としており、各地の拠点へと派遣されている。

なかなかに面白い所がここで、ハンターと呼ばれる職業は基本的にイングズ共和国の人だけなのだ。

無論、他所の国から共和国へとやって来てハンターになる事も可能なんだけど、その後に自身の国に派遣されるかと言うとそうではない。

個々人の能力と、派遣先での討伐依頼に応じて協会が向かわせる人選をする。

ハンターは派遣先で依頼をこなし、現地で報酬を受け取る。

さらに、それとは別にハンターを斡旋した協会に対しても依頼料としての支払いが行われる。

一見すると依頼した側が二回も金銭を支払う形になってはいるけど、協会は必要最低限の金額設定をしており、協会の運営や国に納める税に充てている。

対してハンターが受け取る報酬は全て彼らが懐に入れられる。

となると、必要以上に高い金額を渡す事はしないし、かと言って足元を見過ぎると信用を失う事にもなる。

その辺り、協会は上手い事規約を策定して、それをしっかりと周知している。

無論、部外者である私が細かい所まで知る由は無い。

それでも、伝え聞く噂だけでも協会がしっかりと管理をしている事は窺い知れる。


前置きが長くなったけれど詰まる所、今私の目の前に広がる光景は普段のこの国からは掛け離れた物だという事である。

イングズ共和国の首都。

国の中枢という事だけあって多くの人が居るこの地に今、多くのハンターが集っている。

住人達も、行商人も、旅行者も、そして他ならぬハンター達自身もこの状況に驚きと戸惑いを隠せずに居る。

幸いというか、ハンター達用の宿舎があるらしく町にある普通の宿は空きがあった。

私はそんな宿の一つに部屋を借り、窓から町の様子を眺めていた。

「なんかつまらないわね」

フンと鼻を鳴らして呟いてみる。

一応、現時点で何かしらの制限やら規制やらが出ている訳ではない。

とは言え、町のアチコチのハンターが溢れていて流石に辟易としてしまう。

偏見の目を持っている訳ではないけれど、さすがにこうもむさ苦しい野郎共が闊歩していると嫌気が差してしまう。

それに、実際町で馬車を降りてからこの宿に来るまでに擦れ違った連中の中には、私の事を下卑た目で見てくる奴も少なからず居たのだから余計にである。

自惚れる訳ではないけれど、私は自分の容姿にはそれなりに自信はある。

けれど、だからと言って誰から構わずそういう目を向けられて嬉しい訳も無いし、度が過ぎれば気にも障る。

如何に荒事を専門とする連中だろうとせめてそういうのは隠して欲しいものだ。

などと益体も無い事を考えつつ、この後の予定にも頭を悩ませる。

元々、この国は観光資源と言う物があまり存在しない。

大半が魔獣討伐協会による他国との取引が主であり、その他には東の海を越えた島国との貿易が幾らかあるといった程度だ。

ちなみに、南は広大な森が広がりハンター達の鍛錬の場となっている。

北に目を向けると、断絶山脈の東端とその麓に広がるこれまた広大な草原があり、共和国に加わりながらも独自の生活を続ける遊牧民が点在している。

一見すれば長閑とも思えるけれど、実際には複雑な事情があったりもする。


かつてこの地方に存在していた複数の小国。

今では規模を小さくしつつも町として残っているのだけど、そこを治めるのはかつての王族の末裔。

今では大半が共和国の議員としてイングズに関わっている。

通常なら議員は国民による投票によって選ばれるし、事実今いる議員達もそうして選ばれている。

ただ、共和国が成立した当時はそういう訳にもいかなかった。

武力を以って覇を争っていた者達がいきなり平等に、しかも民によって為政者が選ばれる形式などすぐには受け入れ難かった。

そこで折衷案として提案されたのが小国の王達のみ議員として国の中枢に迎えるという妥協案だった。

同時に、かつての自国を自領として血族に運営させるという破格の対応。

無論、そうでもしないと彼らが大人しくする事もなく、最悪再び分裂する可能性もあったが為の、苦肉の策でもあった。

それ故、その全てにおいて付け加えられた条件として、その座を受け継ぐ事が出来るのは直系の子孫のみ。

養子すらも禁じたこの決まりに彼らは寧ろ歓迎の意を示して受け入れた。

そうして、表向き手を携えた彼らは、その裏で相手を蹴落とす為の暗躍を始めた。

民の声に応えて国を運営する傍らで、表には出せない手段でかつての敵を排除する。


ここに、政治と武力が歪に混じり合い、さらには第三勢力とも言うべき魔獣討伐協会が台頭し始めた、危うい均衡に保たれた国が誕生した。


そして、その均衡が如何に脆い砂上の楼閣であったのかを、彼らは思い知る時が迫っていた。

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