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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第三章 イングズ共和国動乱記
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80 プロローグ・ハンターの集う国

夕暮れ過ぎから降り始めた雨も夜明け後すぐに上がり、日が高くなる頃には街道もすっかり水気が乾いていた。

そんな道を一台の馬車がのんびりと進んでいた。

二頭の馬は気持ちよさそうに足を進め、御者も手綱こそ握ってはいるものの馬の進むに任せて暢気に空を見上げていた。


中央大陸、その東に位置するイングズ共和国。

大陸中央のフェオール王国から国境まで馬車で約六日。

国境を越えてから共和国首都まで約五日ほど掛かる道程。

馬車は二日ほど前に国境を越え、丁度首都との中間地点に差し掛かり始めた位置に居た。

道中で雨に降られるなどしたものの、それ以外は何事も無く旅程を消化していた。

そのせいもあって、御者は特に警戒する事も無く暖かな日差しにウトウトとさえし始めていた。


最初に異変に気付いたのは馬車引く馬達だった。

真っ直ぐ東に延びる街道、そこから北にある断絶山脈へと広がる広大な草原の彼方から何かが土煙を上げながら近付いて来ていた。

その気配を敏感に察知した馬達が嘶いて足を止めて、その反動に揺さぶられた御者が何事かと寝惚けながら周囲を見回す。

そしてすぐに北から迫る異変に気付いて手綱を引く。

「急げ!魔物が来るぞ!」

御者の声に、しかし馬達は動こうとしない。

いや、足を踏み出そうとはしているのだけど、まだ遠く離れているはずの魔物から放たれる明確な殺気に怯んでしまっているのだ。

そうこうしている内に魔物はみるみる迫り、その姿もはっきり見て取れるほどになっていた。

「ひえええ!もうダメだ、お客さん逃げるんだ!」

客室へと声を掛けながら馬車から飛び降りようとする御者だったが、その客室から伸びた手によってそれは制される。

「大丈夫、もう片が付きそうよ」

「へっ?」

落ち着き払ったその声に気勢を削がれた御者が改めて魔物へと視線を向ける。

いつの間にか魔物は動きを止めていた。

それだけでなく、その周りには数人の人影がいつの間にか現れていた。

彼等は遠目からでも分かる程に見事な連携で魔物を翻弄し、的確に傷を負わせていく。


時間にして僅か数分程度だったであろうか。

どこからともなく現れた五人のハンター達は瞬く間と言っても過言でない程に素早く鮮やかに魔物を討伐した。

そんな彼らは絶賛魔物を解体中である。

ここから見ても怪我を負った様子は見られないし、こちらも被害もある訳が無いので特別やり取りする事も無い。

という訳で、ようやく歩き始めた馬達にやれやれと思いつつ私は窓の外を眺めている。

斃された魔物の傍にはこれまたいつの間にか別のハンター達がやって来ていたようで、何やら和気藹々と語らっているようだった。

傍から見てる分にはハンター同士の何でもない交流に見えるのだけど、、、

「まさか、あの噂は本当だって事なのかしらね」

彼らの姿に、フェオールを通過した際に聞いたある事が脳裏を過る。


イングズ共和国は魔王との戦いよりも少し前、複数の国が狭い土地に乱立する戦乱の地だった。

当時、中央大陸の覇を競っていたフェオールとの戦争に際して東の国々が同盟を結び対抗。

色々とあった末に停戦が為され、そのままなし崩し的に彼らの戦いも収まったらしい。

しかしその後に魔王の侵攻が始まり、その脅威に対抗すべく再び同盟が結成された。

その中でフェオールや他の国との連携をするにあたって同盟のままでは戦後に不利が生じると判断した彼らは、同盟の立役者足る物を中心に一つの国に生まれ変わった。

これこそが今現在のイングズ共和国の始まりである。

そしてその当時の名残から、この国は議会政治の形式を取っている。

選挙によって選ばれた代表者足る議員達によって運営されているこの国だが、もう一つ、大きな組織が存在する。

それこそが魔獣討伐協会。

世界中のハンターが集う総本部がこの国にあるのはかつての群雄割拠の名残ともされており、国や権力に対しても一切媚びる事も降る事も無く、一種の独立勢力として存在している。


だけど、その共和国議会と協会の間にここ数年不和が生じているという。

そして、共和国側は独自の戦力を持つ協会を危険視してその力を削ごうと様々な法案を作っては規制を強めている。

対する協会も黙ってはいなかった。

各地に散らばるハンター達を続々と呼び戻しているらしく、更には武器や魔導具までもを買い集めているとの噂も出ている。


何があってそのような事になっているかは当事者達のみが知る所だろうけども、こうして魔物一匹に二組のハンター集団がやって来ているのを見ると、否応なく噂が正しいと感じてしまう。

そしてそれは詰まる所、

「ホント、どうしてこう行く先々で厄介事に巻き込まれるのかしら。これも聖痕のお導きってワケ?」

私しか居ない馬車の客室、一人皮肉を口にしながらこの先に待ち受ける面倒事にウンザリとしているのであった。

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