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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第一章 フェオール王国逃亡記
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8 波乱の旅立ち

王都から西の町へと続く街道は、北側はどこまでも続く平野が広がり、南は広大な森林が覆う、長閑な風景に囲まれている。以前は、馬車の後ろ側に座って時折吹く気持ちのいい風に当たったりしたのだけど、今は残念ながら逃亡中の身。西の隣国に逃れるまで観光はお預けだ。

式典から2日、捜索の手がどこまで伸びてるかは分からないが、あえて1日王都に留まって様子を見た限りでは、既に各方面の国境の確認は済んでるらしい。今は近くの町や、王都内の捜索に集中しているようだ。

だからこそ、今が国外へ出る絶好の機会なのだ。これがもう数日もすれば恐らく再び国境は監視の目が入るだろう。


気が付けば日が沈みはじめ、その頃にちょうど街道の途中にある野営用の広場に到着した。

「しかしまぁ、2年くらい前だったか?お嬢ちゃんと出会ったのは」

焚火を起こしたおじさんが気さくに話しかけてくる。

そう、このおじさんこそ、私が王宮で過ごしている時に訪れた楽団を乗せた人なのだ。その時、私は見つからない様に彼と接触し、協力を仰いだのだ。

「あん時は何事かと思ったが、まぁ話してみれば色々面白かったからな。乗ってやろうって決めたのさ!」

ガハハ、と豪快に笑うその姿に改めて礼を言う。ともすれば、おじさんにも何かしらの危険が及ぶ可能性もあるのだから。だけど、そんな私の心配を他所に、

「なぁに、貴族の味方するよか、お嬢ちゃんの味方する方がよっぽど楽しいからな!」

なんて言ってまた豪快に笑ったのだ。

そうこうしているうちに夜も更け始め、適当に用意しておいた簡単な夕食を摂り、御者のおじさんの勧めで私は馬車の中で一晩を過ごすことにした。おじさんは寝ずに火の番をするとの事で、お言葉に甘える事にした。


翌日、日の出と共に再出発した馬車は、その日の昼頃には私の故郷である町へと到着した。町の少し手前で降ろしてもらった私は乗車賃と、お礼の気持ちの上乗せ分を支払っておじさんと別れた。おじさんはこのまま町を通過して国境まで行くそうで、軽く手を振って走り出していった。

3年ぶりの故郷は、見違えるほどに栄えていた。あの日以降、街道がより安全になりさらには西の国との交易がより活発になった事が重なった結果、ただの宿場町から一大拠点の街へと成長したらしい。

すっかり様変わりした景色に、嬉しさと同時にどこか寂しさも覚えつつ、私は人目に付かない様に街の中を歩き抜けていく。

髪の色はまだ黒くしたままだし、身長も体付きもあの頃よりも成長し、さらに今は変装用にと準備していた眼鏡も掛けている為、知った顔とすれ違っても相手は気付かない。

(まぁね、そもそもここに来るつもりも最初は無かったんだし、元気な姿が見れただけでも十分かな)

どこか自分に言い聞かせるようにしながら、私は街を抜け国境へと向かう街道に辿り着く。まだ辛うじて街の中と言えるその場所から南に道を外れて、草木の生い茂る獣道を進んでいくと。


そこだけ、3年前から時間が止まっているかのような光景が目に映った


私が生まれ、そして過ごしてきた家が、あの日のまま残されていた。

最低限の手入れはされているようだったけど、それでもアチコチが崩れかけて、さらには草花が屋根を覆いつつあった。

近くに誰も居ないことを確認してから、私はそっと入口のドアを開いた。

幸い、家の中は荒れてはいなかったけど、それでも3年間誰も住んでいなかったせいか、かなり埃が積もっていた。

(本当に、全部あの日のままなんだ。みんな忙しい中ずっと守っててくれたんだね)

大して広くもない、2階すらない家だけど、それでも15年間過ごしてきたそこは、心が安らぐ。

片隅にある小さな1人掛けのソファの埃を払ってポフンと座り、天井を見上げて、目を閉じてみる。

木々のざわめきに混じって遠く微かに街の賑わいが聞こえてきて、自然と頬が緩んでくる。

(結局、どれだけ時が流れても人は、世界は変わらないのね)

この胸に宿る思いは数あれど、その中のひと際小さな()()だけは、かつても、そして今も、結局捨てる事は出来なかった。

(だからこそ、私は)

ふと、気が付けば日がかなり傾いていた。どうやら少しウトウトしていたみたいだ。

そっと立ち上がり、ドアの前まで歩く。そのまま外へ出ようとドアノブに手を掛けて、後ろを振り返る。

もう戻る事はないであろうこの光景をしっかりと胸に刻み込み、

「ありがとう、それから、、、さようなら」

声に出して、でも意外と涙は出ないな、なんて思いながら最後にもう一度だけ家の中を見回して、

「それじゃあ、行ってきます。お母さん」

そっとドアを閉めた。

後悔も迷いもない。何故なら、例え今みたいな状況になっていなかったとしても私はいつか、同じように旅立つと決めていたのだ。


 ・・・自分が、決して()()()()()()()()()()()()()存在だと、生まれた時から知っていたのだから・・・


獣道を戻って街道の入り口まで下りると、ちょうど一台の馬車が国境方面からやってきた。

2頭の馬に引かれるその馬車に目をやると、御者台にいる人物とちょうど目が合った。

「お、また会ったな嬢ちゃん!」

右手を挙げて声を掛けてきたのは私の王都脱出を手伝ってくれたおじさんだった。あれ、でも、、、

「おじさん、アンスリンテスに行ったんじゃなかったの?」

そう、国境を跨いで人や物を運ぶのがこのおじさんの仕事だったはず。この馬車だとここから国境まで休まず走っても2日以上は掛かるはずなのに。

「いやぁそれがな、この先の街道が封鎖されててな。しかもありゃ騎士団の恰好してるが、多分中身はベツモンだな」

俺の勘は当たるんだ!なんて例の豪快な笑いを上げていけるけど、私からすれば顔を顰める話でしかない。まさにこれから、夜闇に紛れて国境へ向かおうとしていたのだから。理由はいくつかあるけど、最たるは聖痕を使うつもりだったからだ。

身体強化魔法を聖痕でさらに強化し、本来は瞬間的にしか得られないその効果を持続させ、馬車で数日掛かる道程を一晩で駆け抜けようと考えていた。

もちろん、街道を使わずに森や平原を抜けていく迂回ルートも使える事は使えるけど、こうまで大々的に封鎖をしているという事は、恐らく何かしらの魔導具を使って人の動きを感知している可能性がある。

私も細かい事は知らないけど、3年前に町が魔物の討伐拠点になった時にそういう類の魔導具が設置されてるから気を付けるようにと、知り合いに教えてもらった覚えがある。

その魔導具がどれほどの範囲まで動きを捉えるかは分からないけど、もしバレてしまえば、この状況下ならほぼ確実に私と判断されるだろうし、そうなれば遠隔通話魔導具で即座に国境警備隊に報告されて、最悪国境封鎖もあり得る。

(っ、、、とにかく、確かめてみないと)

おじさんに礼を言って見送った後、私は獣道をまた戻った。そのまま家の横を通り過ぎて木々が生い茂る裏へと回る。

近くに誰も居ないのを確認して、()()へと魔力を流す。身体強化魔法の一種である筋力強化の魔法を、特に相性が良い()()を介して発動、軽く地面を蹴って家の屋根に一息で飛び移る。そこからさらに近くの木に飛び移り、それを何度か繰り返しながら少しづつ西へと森を進む。

木々の間から街道の先を見渡せる場所を見つけて、森の外から見えない位置へと移動して一息つく。

ここからでは街道の封鎖は見えない。私が昼頃におじさんと別れてから4時間ほどだろうか。つまり片道2時間ほどの位置で封鎖は行われているから、それなりに進んだ先という事になる。

身体強化を一旦解除して今度は右目を閉じると、開いたままの左目に魔力を送る。同じ身体強化魔法だが、今度は視力を強化する魔法だ。特に私の場合、()()との相性が抜群で、最大出力で使用すればそれこそ、この場所から国境の検問所の、警備隊が目を通す書類の一字一句まで正確に視る事が出来る自信がある。

今はそこまで必要がないから、魔力量を少しだけに留めて街道を見据える。グインと視界が遠くへと伸びていき、

「見つけた」

街道に立つ数人の騎士、その姿を確認して呟いた。

今もちょうど国境側から来たであろう馬車を検めている最中だった。御者と乗客の身分証を一人づつ確認しているみたいなんだけど、

「身分証に魔導具をかざしてる、、、もしかして、本物か調べてる?」

確証はないけど、何かしら読み取る魔導具なのは間違いないだろう。私が王都で使った偽の身分証も出来は良さそうだったけど、もしかするとあれで見られたらバレるかもしれない。というよりも、

(多分、あの時の国民管理局の役人が調べるように報告したのかもしれない)

あの役人があの時えらく見入っていたのを思い出し、小さく溜め息を吐いてしまう。

多分、身分証はもう見破られたと考えた方がいい。そうなると、正体を隠しての出国はほぼ絶望的だ。

私の本来の、つまりはリターニア・グレイスの身分証を使うしかないが、他国側はともかくフェオール側からだとその時点で捕まる。

となると、

(次の手段か。国境突破はさすがにまだしたくないし、穏便に密入国をするとなると、、、)

一度左目を閉じ、両目を開いて視線を街道から逸らす。


次に向かうは王都から南、この国唯一の港町。そこで国外行きの船に密航して南の島国を目指す・・・

いよいよ物語も動き出しました。まだまだ今後をお楽しみに!

それと、更新頻度を上げようと思います。水曜、日曜に加えて金曜にも上げていこうと思いますので、併せてよろしくお願いします!

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