71 激闘
飛んできた炎に左手を翳して障壁を張り相殺する。
飛び散る火の粉を無視して両手を左右に拡げて障壁を展開。
ほぼ同時に衝撃音が響き、左右に離れていた男達がナイフを振りかざして飛び込んでいるのが目に入る。
「せめて名乗るくらいしたら!?」
嫌味を込めて軽口を放つけど当然無反応。
奇襲を防がれた二人は再び飛び退り、奥に居た男と合流する。
奥に居た男は既に魔力を練り直して次の魔法を放つ準備をしている。
いつもならこのまま一発お見舞いして終わらせているけど、今はとにかく立ち位置が悪い。
連中は執務室のドアを背にしている。
私が飛び込んだ時、彼らはそのドアを破ろうとしていた。
つまり、中に彼らが標的とする人物が居るのだ。
ここで私が遠慮なく魔法を放つと彼等だけでなく、その後ろにも被害が及ぶ。
下手すればそれに巻き込まれて怪我を負ったり、最悪命に関わってしまうかもしれない。
(ホント、こういう時融通が利かないのは厄介ね!)
聖痕に対して毒を吐きつつ、どうにか位置を入れ替える手を考える。
しかし相手も慣れた物、私に暇を与える事無く次の攻撃を仕掛けてくる。
今度は真ん中の男が強烈な風を放ち、周りの机やらを巻き込みながら私に向かってくる。
同時に、またしても左右に展開したナイフの男達がその得物を躊躇なく投げ放つ。
それもいつの間にか両手に、しかも三本づつ構えていた。
つまり、計十二本のナイフが同時に向かって来ているのだ。
しかもそのうちの数本は私目掛けてではなく、逃げ道を塞ぐような軌道だった。
出し惜しみはしてられない、と覚悟を決めて右手を前に障壁を展開。
左手を床に付けて小さな竜巻を自分を中心に巻き起こしてナイフを弾き飛ばす。
魔法が相殺されて風が収まると、彼らはまたしてもドアの前に集結していた。
だけど、今度は流石にその顔を少しだけ驚きに歪めている。
まあ防御と攻撃、二つの系統の魔法を同時に使ったのだから当然ではある。
少しの間睨み合いが続く。
(今ので上手い事惹き付けられればいいけど、、、)
その期待に応えるかのように彼らが一瞬だけ目配せをする。
直後、今度は三人が同時に飛び出す。
左右の二人は変わらずナイフを構え、今度は直接攻撃を仕掛けてくる。
それを見やりつつ、真ん中の男に意識を向ける。
今度は魔法を唱えていない。
代わりに懐から何かを取り出し、、、
「お目当て発見」
ニヤリと笑みを浮かべ、迫りくる二人の男を無視して真ん中の男へと瞬時に距離を詰める。
流石に予想外だったのか、驚愕に目を見開く男の眉間に右手を押し当て軽く衝撃を放つ。
吹き飛びはしなかったものの、白目を剥いて崩れ落ちる男の腹部を蹴って壁際まで吹き飛ばす。
すぐに振り向いて背後で再度仕掛けてこようとしている残りの二人と向き合い、
「アンタらは要らないわ」
両手を掲げてそれぞれに向ける。
一瞬だけ手が閃き、直後に二人の男は糸が切れたかのように崩れ落ちる。
何が起きたか理解していない表情でその顔は固まり、瞳から光は失われている。
念の為に二人が死んでいるか確認をして、蹴り飛ばした残りの男の下に向かう。
まだ意識を取り戻していない男の懐から魔導具を引っ張り出してその手足を縛りあげてとりあえず放置しておく。
「アドネアさん、もう片付きましたよ」
ドアをノックしながら声を掛けてしばらく待つと、様子を窺うようにしながらゆっくりとドアが開いていく。
私は驚かせない様にそっと顔を覗かせてあげると、それでようやく安心したのか中からアドネアが出てきた。
「リ、リターニアさん?どうしてここに、、、」
「まぁ色々と用事がありまして。とりあえず二人始末して、一人は話を聞くために拘束しています」
私の言葉に困惑しながらも目の前の惨状を目の当たりにしてさらに絶句してしまう。
色々と説明したいけど今は先にやる事がある。
「とりあえず襲撃者に話を聞こうと思うんですけど、立ち合います?」
「その男、ですか?いえ、私も何故襲われたのか知りたいのだけれども、、、」
言い淀むのも無理はない。
こういう時に話を聞く、何て言うのは当然拷問的な事をすると決まっている。
彼女もそれを理解しているからか、判断に困っているのだろう。
正直、その反応だけでも私としてはある程度状況を把握する為の参考にはなっているのだけど、とはいえ直接話を聞けるならそれに越した事はない。
「ではとりあえず最初は私だけで。何か聞き出せたらもう一度声を掛けますね」
戸惑うアドネアを執務室に押し込む。
一応音が漏れ聞こえない様に結界を張り、転がっている男の顔を叩いて起こす。
「おはよう、いい夢見れたかしら?」
目が覚めた男は周囲を見回した後、奥に倒れている仲間の死体に気が付き表情を強張らせる。
これから自分が何をされるのか、流石に理解したらしい。
その顔を覗き込んで、ニッコリと笑みを浮かべてあげる。
「じゃあとりあえず洗いざらいお話しましょうか。いい子にすれば優しくしてあげるわよ?」
まずは挨拶代わりに襟首を掴み、力任せに天井へと投げつけた。