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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第二章 アンスリンテス魔道国珍道中
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69 継がれた意志、継がれなかった思い

それはオーフェにだけ告げられた事。

オーフェとリーフェ、彼女達の両親はオーフェに聖痕が宿った事を知っていたという。

同時に、それがオーフェの人生にどれ程の苦難を齎すかも。

その後何をどうしたのかは遂に父からは語られなかったという。

結論として、彼は何処かから聖痕に関する研究資料を手にしたという。

そしてそれを基に彼はある魔導具の研究開発を始めた。

「それが件の魔導具ですよぅ」

相変わらず軽い口調ではあるけれど、語られる内容は想像よりもかなり重い。

そして、同時に先に展開までもが想像できてしまった。

「父は私の力を周囲から秘匿する為だけに聖痕を抑え付ける魔導具を作ろうとしていました」

「でも上手くいかなかった、でしょ?」

私の鋭い指摘にオーフェは頷いて、机の引き出しから数枚綴りの資料を取り出した。

「はい。やはりというか当然と言うか、検証が進まなかったようです」

差し出された資料に目を通す。

そこに記されていたのは研究の過程で得られた様々な情報だった。

かなりの試行回数が為されたのか、その内容は膨大と言ってもいい程だった。

ところが、ある段階まで来た時点でそれが極端に減少している。

検証、つまりは聖痕に対する反応を調べる。

恐らく、彼女の父親はオーフェを実験台にはしたくなかったのだろう。

だが、それが原因で魔導具の要たる機能の検証実験が一向に進まなかった。

そもそもの話、その魔導具の本来の役目は唯一つ。

彼が父として、人として、ささやかな願いを籠めただけの物だった。

だからこそ、それを持たせる娘を実験台にするなど許せるはずもなかったのだろう。

でも結局は、長い時を経てもそれは解決する事は無く、対症療法的策として聖痕の事を伝えずに居た。

「まぁ、双子故なのか何なのか、リーフェは私に特別な何かがある事に気付いていたようです」

幼い頃から何となく感じてはいたそうだけど、それを明確に認識し意識し始めたのは魔導学院へ行き始めた頃だという。

まぁ、魔法に関してあらゆる事を学ぶのだから、当然聖痕についても学ぶ事もあるのだろう。

そして、その事がきっかけでリーフェはオーフェが聖痕を持っているのでは、と疑念を抱くようになったのだろう。

「それでも、しばらくは今まで通り普通だったんです。だけど、ある日を境に突然あの子は私と関わろうとしなくなったんです」

それが何なのか未だに分からないという。

喧嘩をした訳でもなく、その頃はまだオーフェも聖痕があると自覚していなかった時期。

にも拘らず、リーフェは唐突に距離を取る様になった。

そんな事があってからしばらくした後、事件は起きた。

「あの子が急に私のとこに来ましてね、何も言わずいきなり魔導具を起動したんです」

それこそがグウェイブ院長が語ってくれた事であり、オーフェ自身が聖痕を自覚するきっかけとなった出来事。

その背後に誰の、どんな思惑が潜んでいるのか。

それが全く感じられない事が何よりも恐ろしく思える。


一通り話を終えた私達は、既に日が暮れていた事もあってそのまま一緒に夕食を摂る事にした。

まぁ連れだって外に出る訳にはいかないから、中にある食堂から食材を拝借して勝手に調理しただけなのだけど。

「ていうか、ここ食堂何てあったのね」

「そりゃあ、平気で何日も籠って研究する人ばかりですからねぇ。私も人の事言えませんけど、寝食すら忘れて倒れる寸前!とかそれはもう数え切れませんですよぅ」

「いや、それ自慢にならないからね?」

二人しか居ないのに無駄に賑やかになったけど、久々に誰かと一緒に食べる夕食はいつもより美味く感じた。

一人気ままに楽しむのも良いけど、やっぱりこうして誰かと一緒に過ごすのも悪くない。

久々に人心地ついていると、雑に片付けを終わらせたオーフェが紅茶を淹れてくれた。

「あら、ありがとう」

「いえいえ、元はと言えば私が巻き込んでしまったようなものですからねぇ。その上、全く関係ない事にまで追加で巻き込む形になっちゃってますし」

オーフェは申し訳なさそうに言うけど、多分今回の事はそう単純じゃない気がしている。

オーフェ達姉妹の父親は、オーフェの安寧を願って聖痕を抑える魔導具の研究に手を伸ばした。

勝手な妄想でしかないけど、それは家族としてごく普通の幸せを願ったからだろう。

かつての私がそうであったように、そしてつい最近も、聖痕によって人生を左右された者達が居た。

魔法について研究するこの国ならば、聖痕がどれ程強大で、同時に厄介であるかも理解していたのだろう。

だから、父の思いを感じ取ったオーフェはその意志を受け取り当然の様に普通に過ごし。

だからこそ、父の思いを感じ取れなかったリーフェはその思いを受け継ぐ事無く、妹と敵対する道を選んだ。

そして、リーフェの背後に居るのは間違いなく聖痕を持つ者。

或いは、聖痕所有者を御するだけの力を持つ何か。

何よりも、私がこの国へと来るよう誘い出されたのだ。

フェオールで見た人を操る魔導具。

全ては、偶然ではないのだ。

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