68 深まる疑念
魔導学院を後にした私は、今度は魔導開発局第一に足を向けた。
グウェイブ院長から齎されたかつての出来事について、調べたい事が出来た。
聖痕に干渉する魔導具、この存在が何を意味するのかは分からない。
だけど、それがいつ、どこで、どうして作り出されるに至ったのかは調べる必要がある。
自分でも何故かは分からないけれど、何と言うか、嫌な感じがする。
そんなモヤモヤを胸に仕舞い込んで私は建物の中へと足を踏み入れた。
入り口付近とかはいつぞや来た時と同じく綺麗なままだったけど、上階へと上がり前に案内された研究室に入ると、目の前に広がる光景にさすがに驚きを隠せなかった。
机や棚は吹き飛ばされたかのようにひっくり返り、当然そこに乗っていたであろう機材や道具、制作中の魔導具はほぼ全て壊れて床に散らばっている。
(これは想像以上の有様ね)
足元に気を付けつつ、奥にあるオーフェの私室に向かう。
わざわざここに来た理由は、今目指してるオーフェの部屋にある。
これは準備期間中、彼女の様子を観察していた時に偶然知った事だけど、オーフェはまぁ想像通りというか相当ズボラな性格で、仕事に関する資料やらは全てこの部屋に置いている、というか放り投げて放置しているのだ。
そしてその中には学生時代の研究資料もあるらしく、事ある毎にそれを掘り起こす作業をしていたのを呆れながら見ていたのである。
その時は当然特に気にするでもなかったけど、今回の襲撃にグウェイブ院長の話。
そして以前オーフェ自身から聞いた、学生時代に発覚した聖痕。
そしてその直後から自信を実験台にした聖痕の研究。
もしそれをリーフェが盗み出していたとしたら、可能性としては無くは無い。
そしてその資料が残っていたとすれば、対策も取りやすくなる。
(いえ、そもそもそんな単純な話じゃないんだけども、、、)
頭を軽く振って嫌な想像を掻き消しつつ扉を開く。
すると、
「おやぁ、ここは立ち入り禁止ですよぅ」
「ちょっ、オーフェ!貴女なんでここに居るの!?」
病院に担ぎ込まれたはずのオーフェが当然の様にそこに居た。
思わず駆け寄って怪我の具合とかを確かめていると、くすぐったいのか身を捩りながら逃げ回る。
「なんで逃げるのよ!」
「いやいや、これでもそこそこな怪我人ですからねぇ?というか、どうしてリターニアさんがここに来てるんですかぁ?」
撫で回す手を止めて改めてオーフェと、室内の様子を観察する。
どうやらこの部屋は荒らされてはいないようで、資料とかも最後に私が見た光景とそれほど変化は無かった。
「見つかっちゃったんだし、隠してもしょうがないか。探し物をしに来たのよ」
一応今は組織対抗戦の最中で、学院に行ったのもだけど、今こうしてここに居るのもあまりよろしくはない。
禁止されてはいないけども、特定の組織と関りがあると不正が疑われてしまうから当然お勧め出来る事ではない。
とはいえ、見つかってしまった以上は好都合と前向きに考えてしまった方がいい。
寧ろ、色々と確認したい事が一気に片付くと思えば儲け物だろう。
そして、当然だけども私の事情を知らないオーフェは首を傾げて私に視線を向ける。
「探し物、ですかぁ?」
「ええ。まぁ貴女が居るなら丁度良いから直接聞いちゃうけど、聖痕に干渉する魔導具についてよ」
私の言葉に彼女が目を少しだけ見開く。
それに気付いてない風を装いつつ話を続ける。
「貴女が作った聖痕を探知する奴じゃなくて、聖痕の力を押さえつける奴。対抗戦初日に使われたでしょ?」
「え、ええ、はい。あれは私も驚きましたよぅ。お陰で調子が悪くなってしまって。リターニアさんもやはり?」
「少しだけね。でも、私が気になってるのは魔導具の存在そのものなのよ」
首を傾げるオーフェ。
その反応に、私は一つの確信を抱く。
「聖痕に反応するだけなら貴女が自分で試せば簡単だったでしょう?でも、干渉するとなると話は違う。聖痕の力を僅かであろうと抑え付けるなんて、不可能に近いのよ。これはそんな単純な物じゃない」
「聖痕そのものを徹底的に調べ上げて、何とか届くかどうかって所ですかねぇ。でもそれはつまり、、、」
「ええ、聖痕所有者を調べ尽くさないとならない。でも、そんな事を出来る技術を持つ奴なんて相当限られるし、そもそも聖痕を持つ人を研究材料にする何て出来る訳がない」
「、、、聖痕を持つ者が自ら協力していない限りは、ですか」
流石に頭の回転が速い。
私の考えにすぐに思い至ってくれたし、何よりも彼女は違う。
であるなら、あの魔導具は外から持ち込まれた物。
それが意味するところは、つまり。
「この対抗戦、初めからややこしい思惑が絡んでいるようね」
「ええ、残念ですよぅ、、、本当に」
オーフェの、多くの思いが籠った呟きに私も頷く。
「教えて。どうしてリーフェがそんな魔導具を作れたのか」
私がそう言うのを分かっていたのか、少しだけ顔を俯かせてからオーフェが頷く。
「そうですね。きっとリターニアさんには知って欲しいと、私も思っているのでしょう」
静かに、彼女は語りだした。