66 組織対抗戦・2日目
夜が明けて、組織対抗戦の二日目が始まった。
今日からはどこも本腰を入れて私を捕まえに来るだろう。
寝ている間一時的に使役魔法を解除していた動物達と再び繋がり、様子を確認する。
予想通り、何処も慌ただしく準備を進めているようだ。
軍隊の様に統率の取れた動きをする魔導教導院や、学生と教師が入り混じっている魔導学院。
中央議会は情報収集に徹しているらしく、人の動きは僅か。
魔導開発局第二は研究員達が幾つも魔導具を準備しているようだ。
魔導開発局第一は、、、様子がおかしい。
自分自身も移動しつつ、あちらに向かわせた使い魔にも意識を向ける。
何人もの人が建物を出入りをしているし、周囲は野次馬が集まっている。
明らかに何かが起きた様子だ。
そうしてしばらく様子を観察していると、中から数人の人がまた出てきた。
その中に、オーフェが居た。
周りの人に肩から支えられてゆっくりと歩いてくるその姿は、体中が傷だらけで頭からも血が流れているようだ。
「オーフェ?何があったの、、、」
その光景に思わず声が漏れる。
その直後だった。
「こっちに人の気配がするぞ!」
次いで複数人の足音が無遠慮に響く。
(クソ、向こうの様子に意識を向け過ぎた!)
使い魔からの光景に意識を割きすぎて、近付いてくる気配に気が付かなかった。
舌打ちしそうになるのを堪えて声から遠ざかる方向に走り出す。
同時に、使い魔達との繋がりを解除して全神経を周囲に向ける。
集まってきているのは十人程か。
それぞれが動き回っている感じがするから、恐らく集団行動に慣れていない魔導学院の人達だろうか。
それならこういった追跡は素人同然だろうし恐れる事は無い。
せいぜい、魔導具による奇策に注意するだけだろう。
案の定、しばらく走り続けてる内に彼らの気配はしなくなった。
だけど、一息吐くにはまだ早いようだ。
さっきのとは違う気配が五人分。
訓練された兵士の様に等間隔で並んで四方に向けて視線を巡らせているようだ。
息を整えつつ、足を止めて彼らの動向に注意を向ける。
(どうやら私には気付いてなさそうね)
幸い、五人はそのまま遠ざかっていった。
少しだけ緊張を解いて心身を落ち着かせる。
オーフェの事は気掛かりだけど、私も自分の事に集中しないといけない。
いつまた近付かれるか分からない以上、あまり使い魔も多様出来ない。
せいぜい夜に動いてもらって翌日の作戦に反映させる程度だろう。
(いや、少しだけ調べておきたい事もあるわね)
ふと視線を向けた先には、魔導学院の建物が見え隠れしていた。
人気の無い廊下を姿を消しながら歩く。
やはり殆どの人が出払っているらしく、お陰で私は堂々と学院に侵入できている。
悠々と歩を進め、あるドアの前で足を止める。
そのままノックをすると、予想通りの声が中から返ってきた。
「開いているから入りなさい」
遠慮せずにドアを開け中に入る。
「ほう、姿を消す魔法ですか。これはまた何とも興味深い」
「何ならやり方を教えましょうか?貴方なら簡単に出来ると思いますよ」
魔法を解除しながらグウェイブ院長に答えると、彼は目を輝かせて頷いた。
「何と、それは是非とも、と言いたい所ですが今はそれどころではありませんからね」
「ええ、オーフェの事、何か聞いてます?」
挨拶もそこそこに用件を伝える。
彼も予想はしていたのか、椅子から立ち上がって窓際に近付くと、外の様子を窺いカーテンを閉めた。
一応、気遣っては貰えている様で内心でホッとしている。
「やはりその件でしたか。詳細は分かりませんが、昨夜何者かに襲撃されたようで」
「その様子だと、一応大事には至っていないのですね」
「うむ。開発局内はかなり破壊されたそうだが、オーフェ君も他の職員達も多少の傷を負っただけらしい。しかしなぁ」
そこまで語った彼は、そこで顔を顰めて私に向き直った。
そう、この問題は怪我の大小ではないのだ。
「対抗戦の最中にその参加者が襲われた。問題はそこですね?」
大きく頷いて答えた彼はそのまま応接用のソファへと腰掛け、向かいに私を勧める。
どうやら彼も何かしら思う所があるようだ。
彼に倣ってソファへと腰を下ろすと、どこからかフワリと一枚の紙が舞ってきた。
「これは?」
「今朝一番にアドネア女史から届けられた襲撃に関する簡単なまとめだよ。貴女には届けようが無いからね、折角来たのだから目を通すと良い」
「ありがとうございます。では」
軽く頭を下げてまとめに目を通す。
やはり間もないだけにそれ程多くの情報は無かったけど、それでも私が知り得なかった事が幾つか分かった。
襲撃は昨夜、日付が変わるよりも前に起こったらしく、しかも何かしらの魔導具が使われて内部の音が外に漏れ聞こえなかったらしい。
その後、軽傷だった職員がアドネアに救援要請を出したお陰で素早い対応が出来たらしい。
ただ、オーフェだけは実はかなりの重症だったらしく、夜通し回復魔法を受けて、それで今朝私が見たように外へと運ばれてきたようだ。